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亡くなった人に会える場所

はじめまして。連載4回目を務めます岡崎と申します。

御会式の時期を迎え季節もすっかり秋の様相ですが、私にとっては今年の夏の暑さがまだ記憶に新しいところです。といいますのも我が町太宰府市は今年、連続猛暑日と年間猛暑日の二つの項目で全国史上最多記録を更新したのです。すっかり暑さで有名になった太宰府で、「今年のお盆は暑さがあまりにもすごいので、お墓参りを断念した」というお声を聴きました。

お墓にまつわる問題には様々な意見があります。そのためハッキリとした正解というものはありませんが、「気候が穏やかになってからお参りされたらよろしいですよ。」とお答えしました。と同時に、この厳しい暑さもまた墓じまいに拍車をかける要素となるのだろう、という思いを持ちました。


「子供に迷惑をかけたくないから、墓じまいをしたい」という方は現在多くいらっしゃいます。きっと、ご自身も長年お墓参りをして、掃除をして、管理料などのお金を払って…ということをなさってきたのでしょう。お墓というものに真面目に向き合って来られたのだと思います。いつかは自身もそのお墓に入ると考えたとき、自分のために子供たちにそこまで労力をかけさせるのは忍びないと思われることもあるでしょう。


しかし、墓じまいというのは一度してしまうと元には戻せません。不可逆である以上、じっくり考えて決めた方が良いと思います。そのためには、お墓があることの良い面にも目を向ける必要があるでしょう。


今年開催されたパリオリンピックの柔道女子57キロ級で金メダルを獲得した出口クリスタ選手。カナダ代表としての出場でしたが、日本にルーツを持っています。出口選手は日本に帰国後お墓参りに行き、亡くなったおじいちゃんに「金メダル取れたよ」と報告されたそうです。

金メダルでなくても、就職が決まった、結婚した、子供が産まれたなど、お墓に報告に行くということは珍しくありません。


お墓に行くと、亡くなった人に会える。亡くなった人は、お墓にいる。それが、日本人がはるか昔からずっと培ってきた感覚なのだと思います。お盆に還ってくるご先祖様をお墓までお迎えに行く風習がある地域も多いです。それもこのような感覚の現れでしょう。


「私のお墓の前で泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません」という歌が大ヒットしても、日本人にとってお墓とは、亡くなった人に会える場所なのだと思います。


しかし一方で、私たちはお墓に行ったとき、亡くなった人の姿が目の前に現れて実際に会話を交わしたわけではないことも知っています。お墓参りのとき、私たちは故人に 会った/会っていない という二つの現実を同時に生きているのです。


こういうことは特段珍しくありません。例えば、「ディズニーランドに行って、ミッキーに会ってきた」と言う人もいるでしょう。しかし、私たちはミッキーマウスという生命体が実在しないことを知っています。私たちは想像力の世界に支えられて、ミッキーマウスに 会った/会っていないという二つの現実を同時に生きることができます。この想像力が働くには特別な場所が必要なのだと思います。空想のキャラクターにおいてはそれがテーマパークなのでしょう。亡くなった人との関係においては、それはお墓や慰霊碑なのだと思います。



さて、お墓が「亡くなった人に会える場所」であると考えてみると、その存在価値はとても大きいのではないでしょうか。子供や孫、その先の未来の世代にとって、必要なものかもしれませんよ。家族でお墓参りに行ったときの思い出話などをしながら、じっくり、とことん、考えていただければと、私はそんな風に思っています。

太宰府市 日菅寺 岡崎智怜

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