見出し画像

「思考傾向移植法」・・・ある研究機関の資料がSNSによって外部に流出していた件。


レポート
〇表題
「犯罪加害者と被害者における、他者の思考傾向の移植法の治験について」

〇仮定および前提
イギリスのスティーブンソン博士が発表した「思考傾向移植法(人間の脳髄にて検出される、認知・分析・選択・検証などの特性や傾向を他者に移植する技術)」を用いることによって、中庸的平和的思考を人為的に確立できると仮定し、検証を行った。


〇検証の方法
極端に対照的な性格を持つと思われる犯罪加害者と被害者、
30組61名を被験者に選定、半数の15組30名に対し
思考傾向移植法を実施する旨、本人の了解を得て検証を行った。
加害者は、政府管轄の複数の収容施設から選定した。

また、残りの30組60名には、二重盲検法によるプラセボ効果検証の対象とし、「思考傾向移植法を行う」と告げた上で実際には行わず、同時進行で経過観察を行った。

〇被験者の犯罪傾向
30名の犯罪傾向の内訳は以下のとおりである。

・殺人3名
・強盗4名
・窃盗常習犯5名
・詐欺4名
・経済犯罪4名
・幼児誘拐2名(*A)
・強姦および痴漢4名(*B)
・麻薬常習犯4名(*C)

*A幼児誘拐については、被害者が幼児の為被害者側の検証は行わなかった。
*B強姦および痴漢に関しては、被害者側が多数で、実験への参加希望者が多かったので一名に対し、複数の被害者の思考傾向を移植することとした。それにより移植した被害者総数は7名となった。
*C麻薬常習者に関しては、単独犯罪なので、被害者ではなく、
全く麻薬接種傾向のない、清廉な性格の者の思考傾向を移植した。
*Aの被害者数が0。*Bの被害者数が複数なので、
最終的に被験者の数は61名となった。(内プラセボは30名)

〇検証期間
本年1月10日より順次移植を行い、2月15日には30組の移植を終えた。
経過観察は移植時より1年間を予定。


〇移植後の反応の発現時期
移植後の反応については、犯罪者被害者ともに、概ね下記のような発現傾向がみられた。

①移植後すぐに反応が出る者 12%
②1~10週間の間に反応が出る者 63%
③全く反応の出ない者 21%
④その他 4%

*11週以降の反応並びに、④の「その他」については後述する。
*また、%(割合)と被験者数に齟齬があるのは、反応の差がはっきりせず、結果の分類を複数に振り分けたためであるので、概算として傾向を見るにとどまっていただきたい。


〇検証の推移
①及び②に関しては、時間的な差があるだけで、ほぼ同様の反応が見られているが、一部の犯罪においては後期の反応に違いがあった。

●加害者者における反応
[初期]
被害者の思考傾向に戸惑いを感じ、行動が比較的おとなしくなる。

[中間期]
過去の犯罪に対する後悔や被害者に対する謝罪を口にするようになる。又一方で自己弁護の傾向が顕著になる。

[後期]
・殺人、強盗、窃盗においては、衝動的な行動が少なくなり、熟慮する傾向が増えた。(抑止傾向)

・詐欺、経済犯罪においては、金銭感覚の混乱、買い物依存に陥るなどの傾向が見られた。(代替指向)

・幼児誘拐、強姦および痴漢については、他者への思いやりを示す行動に出る者と、全く行動的変化の者の両者がおり、特に顕著な効果は認められなかった。(傾向不明)

●被害者における反応
[初期]
概ね、加害者の思考傾向に怒りを感じ、「理解できない」と言った感想が多く見られた。

[中間期]
初期の傾向がさらに顕著になる一方で、行動が粗暴になり、
加害者を責め、後悔や反省を求める言動が極端に増える。
ただし、この傾向は「思考傾向移植法」が発表される以前から見られたもので、今回の移植法によるものかどうかは結論付けるのは早計で、今後の他者による検証を期待したい。

[後期]
どの犯罪であっても多くの場合、自己矛盾や葛藤を抱えることとなり、倫理的側面から検証の継続が難しくなった。


●プラシボの被験者において
今回最も注目したのは、実際に「思考傾向移植法」を行わなかった
プラシボの被験者たちにおける反応である。

これらプラシボ被験者と実際に移植した被験者の間には、
大きな差異は見つからず、研究者の結論は下記のイ、ロ、ハ三つの意見に分かれている。

イ)「思考傾向移植法」に効果がないとする意見。

ロ)人間本質の中に善悪の傾向がすでに存在し、
 その発現の可能性は誰にでもある、という意見。

ハ)「被害者」と「加害者」という言葉が先入観や思い込みに
 満ちており、「思考傾向移植法」を行わなくても、ある程度は
 反応が想像でき、多くの場合、その想像をなぞっている傾向が
 見受けられるという意見。

以上の結果だけを見ると、プラシボ検証は失敗であると言える。


〇検証の中止
加害者、被害者、多くの協力を得て一年に及ぶ観察を行い、中庸的平和的思考を人為的に確立できるという仮定を検証する予定であったが、結局10週間(約2か月)で観察および検証は中止となった。
原因は、「④その他」とされた 4%の被験者が、脱走および逃亡・再犯を犯してしまったためである。

その中には、被害者であったのに、自らが受けた犯罪を自ら犯してしまうという事象が発現し、多重人格的な犯罪者や人格崩壊などを引き起こしたと考えられるため、急遽中止するに至った。

よって、このレポートは、関係者の記憶にのみ残し、消去する。併せて検証記録は全て焼却処分とする。
万一、このレポートおよび検証記録の原版、もしくはコピーなどを目にした者は、政府から厳罰に処せられることがある。

                          以上

                   政府犯罪撲滅機構
                    思想統制事務局

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これは、空想上のお話です。
犯罪および再犯に関する表記などは、全てフィクションで、実際のものとは関係がありません。

勿論、加害的傾向と被害的傾向が脳の中で同居した場合に
どちらが優位に立つかということに、結論は出ていません。

しかし、人類は自らの意志によって、加害者的意識を抑え込める、
と信じたいものです。

                      おわり





#犯罪 #思考傾向 #移植 #短編 #レポート #小説 #空想 #SF #謎 #不思議 #恐ろしい #恐怖 #怪談 #実験 #思考交換 #加害者 #被害者 #プラシボ #検証 #眠れない夜に


この記事が参加している募集

眠れない夜に

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。