「入って来たモノは?」・・・心開いたときに、体の中に入ってきた怪しいものがあった。
苦しいときは、つい何かに頼りたいものです。
そんな時にこそ、よく吟味して慎重にならなければ。
今回は、苦痛から逃れるためにとった行動が思いがけない結果を呼んだというお話です。
「入って来たモノは?」 by 夢乃玉堂
「ハリが良いよハリが。絶対おすすめ! 俺一発で治ったから、
旅費出しても元は取れる」
そう言ったのは、強引な営業で知られる麻田君の先輩でした。
麻田君が、もう4年越しで腰痛に苦しんでいると聞いた先輩は、
アジアの某国で試した鍼(ハリ)治療を勧めてきたのです。
その先輩が言うには
その国に旅行した時、ぎっくり腰になったが、
知り合いの紹介で行った鍼の先生のおかげですぐに治ったそうなのです。
アジアでは、鍼(ハリ)やお灸などの伝統療法が今でも盛んで、
海外からも治療に来る人がいて、中々予約が取れないという事でした。
「やってることは日本のと変わらないんだけど、効果は全く違うんだよ。
俺が口きいてやれば大丈夫だから、次の出張の合間に行って来いよ」
先輩は、その場で連絡先をメモして渡してくれたそうです。
数か月後、麻田君はアジアの某国への出張となったのですが
案の定、長時間座ったままの飛行機で腰痛が悪化してしまいました。
どうにも耐えられなくなった麻田君は、空港に着くなり鍼治療の先生に連絡を取り、「○○さんの紹介で」と先輩の名前を出して予約を取りタクシーで直行。
古い住宅街の一角にその鍼灸院はありました。
治療用のベッドが4台並び、すでに二人の患者さんが横になっていました。
先生はとても忙しそうで、携帯電話に向かって早口に話し続けていましたが
麻田君を見ると電話を切り、にこやかに笑って空いているベッドに案内してくれたそうです。
先生は麻田君が「腰が痛い」と話す前に、「もう大丈夫」と言って痛い所をさすり出し、鍼の準備を始めました。
「これは先輩の言う通り、腕が良いのかもしれない」
と少し安心して横になっている麻田君の腰に、
最初の鍼が刺さった時は、不思議な感覚だったそうです。
痛みというには軽すぎる刺激、それでいて、体の奥まで何か暖かい「気」のようなものが入って来る感じがする。
鍼の数が増える度、温かい気が体を駆け巡るのが心地よくなっていく。
麻田君がベッドでウトウトとしてきた時、
突然着信音が鳴り響きました。
先生が携帯電話を取ると、急に大声で叫び出したのです。
「○×○×!△△~!」
外国語なので、話している内容は分かりませんが、
何かトラブルがあって先生が怒っているのは分かります。
最後に斬り捨てるように何か言うと、ブチッとすごい勢いで携帯電話を置き、再び先生は麻田君に鍼を打ち始めました。
しかし今度は鍼が全く心地よくありません。
ぶつぶつとボヤく先生の呟きと共に、
何か嫌なエネルギーが鍼を通して体に入って来るような気がして、
それまでとは全く違う緊張感が全身を包みだしたのです。
それでも治療が終わると、少しは腰痛が良くなった気がしたので、
麻田君はお礼を言い料金を払って鍼灸院を後にしました。
ところが、50メートルも歩かないうちに、腰の力が抜け、
足を動かすのも辛くなってしまいました。
もう一度あの鍼灸院に戻るのは考えられなかったので、
タクシーでホテルに向かい、フロント係にマッサージを呼んでもらうことに。
部屋にやって来たマッサージ師は、
「どこでこんなに悪い気を拾ったのか」
と言いながら、およそ1時間、貼り付いた何かを剥がすような手つきで
マッサージを続けてくれたおかげで、麻田君はなんとか回復することが出来たのでした。
鍼にしても何にしても、力のある人の怒りは
周りに迷惑を及ぼすのだと痛感した麻田君でした。
おわり
腰痛の8割は、ストレスによるものだといいます。
一時期、私も腰痛に悩んでいたことがありました。
今から思えば、その原因はやはりストレスでした。
人それぞれ、ストレスの種類は違うでしょうが、それを解決する方法を見つけるのは、やはり自分なのです。
昔、機動戦士ガンダムで有名な富野由悠季さんが、あるエッセイの中で、
「アニメに元気をもらいたい」という読者からの投稿に対して
こう言っていました。
「元気ぐらい自分で出せよ!」
一人では何もできない、だから誰かを頼ってもいい。だけど、頼るとその人の考えや思いが、何かしらの形でかかわってくる、それを十分意識しておかなければなりませんね。
思考がが最後は自分だけが頼り。肝に銘じたいと思います。
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