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「闇の交わり」・・・怪談。代わりを務めたのは誰だ。


『闇の交わり』


バブル経済華やかなりし頃、
若者たちのモラルも低かった。ディスコでナンパして、そのまま揃ってホテルへ、という事も珍しくなかった。

そんなワンナイトラブを狙うあるグループが、
湾岸エリアにあるホテルにチェックインしようとしたが、
あいにくツインやダブルの客室は既に一杯で、
定員6名の最上階のパーティルームしか空きが無かった。

「いいか。ちょうど6人だし、朝まで飲み明かそうぜ」

「いいじゃん、いいじゃん」

「賛成」

「イエ~イ」


リーダー格のリョウの意見に、トオルもヒロユキも賛成した。
ナンパされたミキ、アイ、ユウナも一瞬互いの顔を見合わせたが
酒の勢いもあって特に反対はしなかった。

その部屋はホテルの最上階6階にあり、中央のリビングと三つの部屋が、それぞれ一枚のドアで繋がっている。新婚夫婦と親が一度に泊まることを想定して作られたようだ。

ふわふわのソファーに、金糸で装飾されたベッドカバー。ロココ風の壁紙とアンティークのテーブルセット。それらを煌びやかな照明が照らしている。
明らかに男たちの想定している値段より高額の部屋だったが、
当時の遊び人の男たちは、お金に細かいと思われることを恐れ、
女たちは、男たちに出来るだけ金を使わせることで、自分の値打ちを信じようとしていたのだ。

「海が綺麗だから、電気消してみないか」

「いいね」

「じゃあ消すよ」

部屋の消えると、広い窓から灯りを点した船が行き交う海が見えた。

リョウはどこまでも沈みそうな柔らかなソファーに腰を下ろし、
窓際に立つ五つのシルエットを見つめていた。

「あれ。飲みすぎたかな」

急激に眠気が襲い、リョウは目を開けていられなくなってきた。

窓際の五つのシルエットが左右に別れて、視野から消えていった。

「おい。お前ら勝手に行くなよ。俺も行く・・・」

最後まで言い切らないうちにリョウは眠り込んでしまった。


次に気が付いた時、部屋には明るい朝の光が射し込んでいた。

「しまったぁ。飲み過ぎたな。暗くなったら急に眠くなっちまった。
酔っ払った女の子がすぐ横にいるのによぉ。畜生、二人とも上手くやったんだろうなぁ」

立ち上がると、テーブルの向こうに上着を着たままのトオルとヒロユキが、寝転がっていた。

「何だよ。お前らも寝ちまったのか。おい、起きろよ」

リョウに声を掛けられ目を覚ました二人は、眠そうな声を出しながら上体を起こした。

「あ~あ。なんだもう朝かよ。たいして飲んでないと思ったんだけど、寝ちゃったよ。勿体ないことしたな」

「俺もだよ。ノンアルしか飲んでないのに、部屋に入ったら急に眠くなってきて、灯り消えたなって外見てたらぼーっとして、気が付いたら今だよ」

「じゃあ上手く行ったのはリョウだけか」

「いや。俺も寝た」

「じゃあ誰も何もしてないのか。あんな可愛い子たちと朝までいて、大チャンスだったのに」

「あちゃ~。何やってんだよ勿体ねぇ」

三人が不謹慎な反省会をしているところに、
寝室に通じるドアを開けて、女の子たちが入って来た。
三人ともホテルのガウンを素肌の上に羽織っている。

「おはよう。早いわね。昨日は夜中まですごかったのに」

「そう。全然寝かせてくれないんだもん」

「ホント、入れ代わり立ち代わり。真っ暗だから、誰が誰だかわからないけど、三人ともタフよね~」

「あれ? どうしたの?」

「え? それはいったい・・・」


満足そうな女たちの前で
男三人はキツネにつままれたような顔をしていた。

その時、ガチャガチャっと音を立てて入口のドアが開いた。モップを持った掃除人の女性がリョウたちを見ながら入って来た。

「やっぱり。声がすると思って開けたらぁ。
アンタたち。勝手に入っちゃダメだよ。このホテル、5階から上は火事があって今使ってないんだから、エレベーターも止まらないようになってたでしょ。どうやって入り込んだの」

言われてリョウは、周りを見渡した。
昨夜、豪華で華麗な装飾がなされていた客室は煤だらけで、所々壁紙が剥がれ落ち、クモの巣まではっている。
たった今まで座っていた柔らかなソファーも、煌びやかな照明もボロボロになって床に転がっていて、アロマの香りもない。
ただ、不愉快な焦げ臭い匂いが鼻を突いた。

「何だこれ!」

「うわ~!」

「きゃ~!」

6人の悲鳴が、ひび割れた窓ガラスの向こうに流れていった。


                  おわり


このホテルは、バブル崩壊後倒産し、今は別のオーナーが全面改装して営業しているらしい。最上階のパーティルームは、三部屋に分けられて今も使われているという。
長めの良い最上階の客室に泊まる時、急に眠気を感じたらご用心ください。


                  

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