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じっくりと言葉の向こう側を考えると・・・13


「あの新聞」・・・超ショート怪談。読むと不幸になる新聞。改訂版。

いつも明るい先輩が、暗い顔をして出社してきた。

「どうしたんですか? 朝から疲れてるみたいですよ」

「ああ。今朝、恐ろしい新聞を読んでしまったんだ」

「恐ろしい新聞? 何か怖い記事でも載っていたんですか」

「そうだ。恐ろしすぎる。あんなもの見なければ良かった。
このままでは皆が不幸になるのに、誰もそれを止めようとしない、
そして結局は何もかも奪われてしまう、という記事だ」

「それって、強盗とか事故とかの類ですか? それとも政治とか? 
俺だったら、今税金が上がるのが一番怖いですがね」

「事故もあるだろう。政治も行政も、税金も上がるかもしれない。
どこにも希望が無いというんだ、その記事は。
希望だけじゃない。己を見つめる力も、未来を見通す力も、
せめて自分に危害を加えようとする者を、とどめる力も失う
と新聞に書いていた」

「何だか。嫌な新聞ですね。本当に新聞ですか?
予言とか、オカルトな雑誌じゃないんですか」

「それだけじゃないんだ。その新聞には、もっともっと恐ろしい事が書いてあった」

「もっと怖いこと?」

「そうだ。新聞の日付の欄の下に、『この新聞を一回読むと、寿命が百日延びる』と書いてあった」

私はここで先輩にからかわれているんだと思った。

「え~。やっぱりそれ変ですよ。寿命が延びるのなら、
ありがたいんじゃないですか。どこが怖いんですか」

すると先輩は充血した目を見開いて、こちらを見つめ、
しわがれた声を絞り出すように言った。

「生きていたいのか? こんな異常な世界に。
何もかもゆがんでしまったこの世界では
人は皆破滅に向かって、まっしぐらなんだぞ。
そんな世の中で、何年も何十年も生き続けなければならないなんて
お前は耐えられるのか?」

鬼気迫る先輩の言葉だったが、私にも納得できるものであった。

私はそんな世界は確かに恐ろしいなと思ったのだ。
砂を噛むような味気ない日々がずっと続くなんて、そんな恐ろしい事・・・

でも、今朝俺が見た新聞にはそんな事は載ってなかったような気がする。
もし載っていても、やはり載ってなかった、と思うだろう。

そうだ。隣の新聞にそれが書かれていても
目の前に出されても、人から言われても
俺は載ってなかった、間違いだと言っていれば良いんだ。

もし、その新聞に、「私の命を差しだせ」と書かれていても
載ってないと思うだろう。

そして、その時には私の命は間違いなく奪われるだろう。

            おわり

久しぶりに救いのない話です。
救いのない話は、そうならないように努力しようという考えの元と、お考え下さい。

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