「アザミの部屋」・・・怪談。呪われた部屋に泊まるのは・・・。

私のホテルは、高速の出口に近い三叉路から左に入った場所にございます。
街道沿いのファミレスやコンビニからも離れていて、ひっそりとした場所にあるので、人目を忍ぶカップルにはとても都合が良いようで、毎夜多くの方にご利用頂いております。

当ホテルは目立たない外観でありながら、内装は明るくおしゃれ、を心がけており、部屋はどれも同じ造りなのですが、「桜」「桃」「スミレ」など花の名前を付けて、毎回気分を変えられるようにも工夫をし、女性にもご好評頂いております。

ただ、一つだけ問題がございます。

当ホテルの「アザミ」の部屋に入ったカップルは、どんなに仲が良くとも数か月のうちに、互いをののしり合うようになり、必ず別れてしまうのです。

いえいえ。噂だけではございません。
はい。もちろん、すぐには信じて頂けないとことと存じます。
ですので、少しだけその理由をお教えいたしましょう。

実は、ここにホテルが建つ以前、古い大きな屋敷がございました。
そこに住んでいた男が、何がいけなかったのでございましょうか。
奥様に逃げられてしまい、残った家族を皆殺しにしたという悲しい事件が
あったのでございます。
それだけではございません。
当ホテルが建ってからも、件の「アザミ」の部屋で、彼氏と喧嘩した女性が
殺されるという痛ましい事件がございました。
その犯人は未だに捕まっていないのでございますよ。

その成仏できない魂が、幸せそうなカップルを妬んで別れさせているのでございます。

でもね。ご安心下さい。
その部屋にさえ入らなければ、別れる事はないのでございます。

ああそうだ。それと、もう一つだけ、お伝えしておきましょう。

当ホテルは宿泊・休憩共に、とてもリーズナブルな価格で
提供させていただいております。
サービスにも充実、冷蔵庫のお飲み物などもほとんどが無料でございます。

ですので、経営はいつも赤字ギリギリ。火の車でございます。
そんなわけで、「アザミ」の部屋もずっと空けておくわけにも参りません。
部屋は使わないでいると、内装や水回りの傷みが早くなり、修理費がかかるようになってしまいますのでね。
ぜひ使って頂きたいのです。

いえいえ。皆さまがお気遣い頂く必要はございません。
無理に「アザミ」の部屋を選んでお泊り頂いたり、嫌な思いをしながら泊って頂くなど、当ホテルは望んでおりません。
皆さま、宿泊時には安心してお泊り頂きたいのです。

その為、私が毎日、部屋名のプレートを入れ替えております。
どうぞ、どの部屋でも安心してご利用くださいませ。

さて、今宵もお客様の運試しでございますよ。
ここで本当の「アザミ」の部屋を選んでしまうようでは、結局そのカップルは運が無い。先々別れるのは必然・・・ということでございましょうね。

え？　当ホテルの名前ですか？
それはお教えできません。
でも、最近では当ホテルの事を、ホテル・ロシアンルーレットなどとおっしゃる方もいらっしゃいます。フフフ・・・。

　　　　　　　　　　　　　おわり

＊この物語はフィクションで、実際のものとは関係ありません。

「ホテルロシアンルーレット」を加筆改訂しました。

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