「割れる指輪」・・・怪談。決意のその向こうに待っていたものは。
プロポーズの瞬間というのは、緊張するものです。
準備に準備を重ねて、この人なら大丈夫と思っていても、不安は残ります。
時には、その不安が恐ろしい形で現実になることも・・・。
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『割れる指輪』
これは、とある事で知り合った人から、『友人の話だけど・・・』と前置きをして聞かされた話である。
その友人が30歳の誕生日に、付き合って一年になる女性と高級レストランで食事をしたらしい。
デザートが運ばれて来たところで、友人はプロポーズの言葉ともに
ケースに入った指輪を渡した。
友人は喜ぶかと思っていたが、女性は困った顔をして指輪を見つめるだけだった。
「ありがとう。でもね・・・」
と言って彼女はハンドバッグから小さな袋を取り出した。
手の平に収まるくらいの布製の袋。彼女はその口を閉じている紐をほどき、
テーブルの上に中身を出した。
出てきたのは2センチほどの大きさのアーチ型の金属が六つ。
彼女はそれを二つずつ一組にして、円になるように並べた。
それは、真っ二つに切れた指輪だった。
一つ、二つ、三つの切れた指輪が並んだ。
「私ね。若い頃、ある男性を略奪したことがあったの。
彼は結婚していたけど、私は相手の奥さんに直談判するほど
恋に夢中になっていたの。
おとなしかった奥さんは、少しノイローゼ気味になってしまい、離婚届に判を押して、半分に切った指輪を残してそれきり行方不明。
さすがに彼も責任を感じて、私とも別れたわ。
その後、私は二人の男性からプロポーズされたけど、
婚約指輪が、皆こうなっちゃうのよ。
気味悪がって二人とも逃げたわ・・・だから」
友人は、そんな話だけで引き下がるような奴じゃなかった。
「前にそんな経験をしていても、僕の時もそうなるとは限らない。
もし、い、いつか、そんなことが起こっても僕は大丈夫だ」
友人は声が震えているのが自分でもわかったそうだ。
やはりそこが限界だったんだろうな。
彼女もそれを分かったんだと思う。
少し溜息をついてこう言ったそうだ。
「いつか・・・じゃないのよ」
彼女は受け取ったばかりの指輪のケースを回して、
中の指輪が友人に見えるようにした。
三か月分の給料を捧げて買った指輪が・・・真っ二つに割れていた。
友人はそのまま気を失ったらしい。
気が付くと彼女の姿も指輪も無く、
その後、連絡は一切取れなくなってしまったという。
おわり
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