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「三年坂の瓢箪」・・・言葉の意味を知ることは大切だが 言葉に囚われてはいけない。

京都にある有名な坂にまつわる不思議なお話。噂話は、人を悩ますことも、救うこともある。出来るなら人を救う噂だけが流れてくれれば良いのに。


「三年坂の瓢箪」  作・夢乃玉堂


平安京時代、都を京都に移してまもなくの大同三年(808年)。

清水寺に続く参道に一つの坂が作られました。
現在は、石畳で固められたしっかりとした坂ですが
当時は土を踏みならしただけの、実に足元の頼りない坂だったのです。

「また子供が足折った。今年4人目や」

「最近は骨折り坂とか散々坂とか、ありがとうない呼ばれ方をしとる」

油断を誘うゆるい傾斜のその坂は、
雨が降ればぬかるみ、坂の途中で転ぶ者が後を絶ちませんでした。

特に清水寺帰りの子供たちが、
退屈な寺参りを終えた開放感からか坂を駆け降りようとして、
すってんころりんと派手に転んでしまうことが多く、
檀家の間で問題になっていました。

「どないする。このままでは
そのうち誰も通らんようになってしまうやろ」

「坂で転んだら死んでまうで、って張り紙すんのはどうや」

「あほな。それないな事したら、よけあかんわ」

「そや。それに転んだ奴が皆死んだんとちゃうから、
そげな嘘、今日びの子供はすぐ見抜くで」

「ほな、坂で転ぶと魂が抜けて三年以内に死ぬ!
としたらどうや。すぐには死なへんけど、
近々死ぬかもしれんと思うたら
子供は怖がってゆっくり歩くやろ・・・」

寄り合いは日暮れまで続けられましたが、
他に良い案も出なかったため、
魂が抜ける・・・という噂を流してみることになりました。


意外にも、子供達の安全を考えた檀家たちの方便は効果を発揮し、
ひと月も経つころには
三年坂を駆け降りる子供はいなくなったのでした。

しかし、企み事は得てして上手くいかないもので、
檀家たちが喜んだのもつかの間、
瓢箪を買いにきた一人の老人が、
三年坂で転び、『三年で死ぬ』という噂に気を病み、
ついには寝込んでしまったのです。


「えらいことになった。あれは嘘やと何べん言うても
信じてくれへん」

「子供が大人しゅうなったと思たら、今度は年寄りや」

「ほな。今度はこないな話はどうや」

老人を気の毒に思った檀家たちは、別の噂を流すことにしました。

「三年坂で転んでも瓢箪を持っていれば
魂は瓢箪に入って助かる」

その噂を聞いた老人は安心し、元気を取り戻しました。

やがて、長い年月を経て、噂は形を変えていき、
坂で転ぶと三年長生きできると言われ、
三年坂と呼ばれるようになったと伝えられています。

               おわり


            *諸説あります。




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