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初めて会った日にもらった婚姻届

初めて会った日、あなたはわたしに婚姻届を渡してくれた。初めて会う人間に婚姻届を渡すような人は後にも先にもこの人だけだろう。

付き合っていた人と別れた。知り合ってからちょうど一年くらい。

気持ちに嘘がないこと。ずっと好きでいるという証明としてその紙切れをわたしにくれたのだ。結婚なんてものとはあまりに無縁なわたしは婚姻届というものを初めて見た。あなたが仕事帰りにコンビニで買ってくれたゼクシィ。あなたはきっと今も「本気だから」と言うだろう。

この一年足らずの期間で、わたしはあなたの何を知っただろう。やりとりのなかであなたのことはだいぶ分かった気がする。もしかしたら攻略も出来てしまうのかもしれない。でも別れを選択した。なんとなくこの先を想像出来なくて、小さな不満やちょっとしたストレスが溜まることが分かって、それはこれからもそうだろうと想像出来て、恋人という関係を解消させてもらった。

あなたに好かれてることは嬉しかったけれど、あなたの愛は歪んでいたように思う。あなたはわたしにだけ優しかったけれど、もっと広い視野を持った時にあなたの優しさは歪んで見えた。どうしてこうも上手くいかないんだろうと悩んだ。あなたといると自分の心が壊れる。愛されているんだろうけれど、この感覚は一体なんなのか分からない。

仲良くいようと話しているけれど、お互い恋人が出来たら実際分からないだろう。仲良くすることは可能でも恋人だったふたりがちゃんと友達になれるのかも分からない。別れてから友達になった人なんて今まで一人もいないから。

こっそりツイッターを覗いていた専門学校時代の同級生が第二子を妊娠していた。ちょっと前にそれとは別で「もうすぐ産まれます」と連絡してきた別の同級生のLINEのアイコンは旦那さんと子供ふたりの写真になっていた。もう10年近く連絡を取っていなかった男友達のアイコンも赤ちゃんの後ろ姿だった。みんな自分の辿っていく人生に何かあると報告をしたいらしい。人生のコマを進めていくってこういうことなんだね。わたしは一体何になりたいのだろう。

先日大腸カメラの検査をした母が言っていた。「あんたは経験してないから分からないかもしれないけど・・あ!こんなこと言っちゃダメか!でも大腸カメラってちょうど赤ちゃんにお腹を蹴られてるみたいな感じがあったよ」って。わたしは頭のなかが一瞬ぐるぐるしたけどいちいち傷付いてもいられなくて、親にちょっとした気を遣わせたんだなと思った。「モラハラだわ。慰謝料」って笑っておいたけど「大丈夫!外では絶対こんなこと言わないから!」と母は言っていた。

エルレが16年ぶりに新曲を出したらしい。それまで聴いたことある曲なんて「スターフィッシュ」と「supernova」くらいだったのに。昨日の深夜に一度聴いて、今日はずっとリピートして聴いている。お母さんの職場の人が好きでライブに行くという話を聞いてから、なんとなくまた聴いてみたくなった。わたしが高校生の頃、友達とのカラオケでスターフィッシュが流れたりした。そこから覚えた一曲。誰が見ても若くて完成されてなかったわたしたちの尊い時間を思い出す。

愛はどこにでもあるわけじゃない。恋も友情も、いつまでたっても正解が分からない。答えはみんな違う。32歳になる。みんな何者かになろうとしたり、みんな変わっていくのは自然で当たり前なのに。わたしの心は壊れたままだし生きる理由も探ってばかりいる。

今月スピッツのライブがある。11月にもある。それだけが今の楽しみで、それだけが今の生きる理由。曲を聴いたあと、最後はいつも「生きててよかった」って思わせてくれる。いつまで続くか分からない人生を思うと今好きなことをしないとって気持ちになる。そんな先のことまで想像して生きられない。老後のことなんて考えられない。だから今日行った歯医者で「右上の親知らずを抜くかどうするか決めてください」なんて言われても、死んだらすべてのことがパーになるのにって思う。でも生きてるから。生きるための選択をいつもしていかなきゃいけないのだと思う。

あなたがわたしの恋人になってくれてから、失う怖さがない人は初めてでした。一生変わらずに大事にしてもらえるような気持ちにさせてくれたのも初めてでした。

でもわたしはろくでなしでした。自分から勝手に他人に傷付いて、乗り越えられないような夜が何度もあった。情けない涙が流れて自問自答の日々だった。もういい加減にしなくちゃな、わたしって何度も思った。

時間、止まってくれたらいいのにな。もう進まないでほしい。

常に泣いてます。