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ぐん税ニュースレター vol.39 page02 -社会保険労務士の部屋から-

106万円の壁

11月に入っても異例の暑さが続きましたが、暦は着実に進んでおり、年末調整の書類が税務署から届く時期となりました。扶養の範囲について確認の問い合わせもちらほら来ています。数年前までは、年収の壁というと、所得税は103万、健康保険なら130万だけおさえておけばよかったのですが、今では、所得税関連の壁だけでも複数ありますし、2022年には社会保険にも106万円の壁ができました。「106万円の壁」は適用対象を徐々に広げてはいるものの130万円の壁のように誰にでも適用されているわけではありません。
というのも、現在の適用の要件の第一が、
事業所が被保険者数101人以上であること
だからです。これが2024年10月以降は、被保険者数51人以上の事業所も対象となりますので準備が必要です。

日本年金機構ウェブサイトより

さて、被保険者数101人以上の事業所において106万円の壁の適用対象となる従業員の要件は、
 1. 所定労働時間数が週20時間以上(雇用保険と同様)
 2. 2か月を超える雇用の見込みがある(雇用保険では30日)
 3. 所定内賃金が8.8万円以上
 4. 学生ではない
です。3. については、年収106万円を月割りにした金額となっており、残業代や通勤手当は含めない(=所定内賃金であること)、というのが一つのポイントです。ただし、資格取得時や算定基礎届等の標準報酬決定時には、短時間以外の被保険者と同様、総支給額を届け出るようです。あくまでも所定労働時間ベースで、8.8万円に達しているかどうか、で判断すると思えばいいでしょう。これまでは、所定労働時間が週20時間から30時間までくらいなら、雇用保険のみの適用で料率1%にも満たない保険料負担で済んでいたのに、今では同じ労働条件の下で、手取りは減るし、会社の社会保険料負担も当然増加します。私は、短時間労働者の方が社会保険に入ることについては賛成派ですが、何しろ保険料が高すぎるので、保険料率を下げれば適用拡大ももっとスムーズにいくのでは、と思うのですが、上がったものはなかなか下がりません。せめてもの対応策として、「年収の壁・支援強化パッケージ」の一環で、厚生労働省の助成金が新設されました。社会保険適用拡大により強制的に社会保険適用となった従業員の社会保険料負担相当分を支給するから、手取りが減らないようにそれを上乗せして支給してね、という内容のものです。

厚生労働省ウェブサイトより

130万円の壁

また、一時的に「130万円の壁」を越えてしまう従業員に関しては、「事業主の証明書」により、被扶養者の認定を保持できることになりました。ここ10年くらいは協会けんぽに毎年被扶養者調書を提出し、被扶養者資格について厳しい管理が定着していた感がありましたが、それがこの(今では印鑑も押さないような)紙1枚で、いともたやすく130万円の壁越えができるようになってしまうなんて想像もしていませんでした。ただこれも、「一時的に」とか「年収の見込みが130万円以上となる場合(上限の記載はなし)」とか曖昧な表現なので、いつまたどう変わるのか、わかりません。

厚生労働省ウェブサイトより

配偶者手当の見直し

さらに驚くべきことに、「配偶者手当」制度の見直しについてまで、厚生労働省は提案しています。配偶者の扶養の範囲内で働くことで大きなメリットが2つあるとすれば、ひとつは、上記の社会保険料負担がないこと、もう一つが家族手当、扶養手当などと言われる「配偶者手当」でしょう。それを「見直し」と称して、廃止に導くような手順が公表されています。

厚生労働省ウェブサイトより

これらすべて、少子高齢化による人手不足の解消が目的だそうですが、子育て世代のお母さん達を労働力としてあてにするよりも、経済的にも環境的にも不安なく、子どもを産み育てられる本当の意味での豊かな社会を作って、少子化に歯止めをかけることができないものか、と思ってしまいます。

社会保険労務士 高橋


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