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ぐん税ニュースレター -社会保険労務士の部屋から- バックナンバー 2021年10月号

この記事は2021年10月に発行されたニュースレターvol.20から「社会保険労務士の部屋から」の記事を再編集したものです。法改正などは最新の記事および官公庁の情報をご確認ください。

令和時代の労務管理~退職・解雇 ~

インターネットの普及により、 労働法や労務管理に詳しい労働者が増えてきました。特に若年層は、雑学を含め、自分に有利な知識や情報を見逃しません。一方、労働者よりも年上であることが多い事業主側は、情報に疎いことも多く、知らない間に取り返しのつかない労使トラブルに巻き込まれてしまうリスクもあります。会社の労務管理の中で、特に『訴訟』に持ち込まれることの多い退職、解雇について注意すべき点を見てみましょう。

まず、何があっても、事業主側から感情に任せて 『もう来なくていい』 『だったら辞めろ』と退職を促すような発言はしないことです。ただ、ここ数年は、あまりこういう例は聞かなくなり、事業主の方たちも慎重にしていらっしゃることがうかがえますが、解雇と解釈できる発言を撤回することはできませんし、仮にすぐに辞めてほしい労働者だったとしても、解雇予告手当30日分の支払い義務はあります。

注意が必要なのは、有期契約社員の『契約期間満了による退職』です。会社側が契約更新を希望しない場合でも、自動的に労働契約終了と思いがちですが、実は、契約期間の長さ(1年を超えている)、契約更新回数 (3回以上)によって解雇と同様に30日前の予告が必要です。さらに、その雇止めに客観的・合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないような場合には雇止めができません。また、有期契約期間が5年を超えている場合には、退職どころか無期転換を求められることも想定されます。

最後に、労働法や就業規則に則った解雇の場合にも、事業主側には大きなリスクが伴います。というのも、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」 と労働契約法には定められており、労働者が解雇理由に納得できず、不満を募らせ訴訟を起こした場合に、解雇無効の判決が出る例も決して少なくないからです。そうなると、裁判が終わるまでの期間雇用していたとみなした給与の支払い義務が生じたり、場合によっては損害賠償を請求されることも考えられますし、時間的また精神的にも大きな負担がかかります。

このように、一見良好に見えた労使関係が何かをきっかけにこじれ、退職や解雇の後でもっと大きなトラブルに発展することは、どこでも誰にでも起こり得ます。それを回避するためには、退職や解雇に関わる手続きを慎重に行うだけでなく、日頃から労使間でコミュニケーションをとり労働者の悩みや不安を取り除ける体制を作っておく努力も必要です。また、問題のある社員には、極力早い段階で注意や指導をする、それでも改まらない場合には始末書をとる、場合によっては配置転換を行うなどして様子を見ますが、指導の内容や経過などについてできる限り詳細に記録しておくことをお勧めします。中小企業の社長が従業員を我が子のように可愛がったり叱咤したりし、従業員側も家庭を犠牲にして会社のためにがんばっていた時代は終わりました。令和の時代の労務管理の基本は、人情よりもコンプライアンス重視で、 労働条件の通知 (労働条件通知書や就業規則の交付)、厳格な法令遵守 (特に、時間外労働や有給休暇に関すること)なくして成立しません。

内部からだと気づきにくい労務管理上の問題点を指摘し、改善へと導く労務監査を承っています。 法令を遵守し、労働者からの質問にも自信をもって答えられるような体制づくりをしませんか。
今回は、労働契約について、 次の項目をチェックしてみましょう。

▢ 全ての従業員に対して出勤初日までに、労働条件を通知していますか?

▢ 所定外労働の有無について記載していますか?

▢  残業・法定休日出勤・深夜労働に関する割増率について記載していますか?

▢ 定年後に有期労働契約で継続雇用している労働者について通算5年を超えて契約更新した場合に、対象労働者から無期転換の申し込みがあった場合には 無期労働契約に転換していますか?
(適切な雇用管理に関する計画 【第二種計画認定】を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた場合を除く)

すべてに√がつかなかった場合は、黄色信号です。 ぜひ労務監査を行い、労働環境の整備を行ってください。

社会保険労務士 高橋


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