授業の様子⑰:グローバルスタディーズ学科
今回は、「社会運動論」の授業を紹介したいと思います。教職科目になっているので、社会・公民の先生を目指す学生たちも履修している授業です。
この授業の目標は、日本や世界の様々な社会で問題になっていることは何か、またそれに対して社会をより良い方向に変えるためにどのような運動がおこってきたのかについて学び、また自分たちは今何ができるのかについて考えることです。今年度は7人と少人数のクラスになったので、グループワークを中心に授業を進めることにしました。
ジェンダー、人種差別、性的マイノリティー、障害や環境問題、教育格差など、身近なところにもたくさんの格差や社会問題、それに対する運動があることを認識するところから授業がはじまりました。日本にはどのような社会運動があったのかについて学ぶなかで、2012年に起こった反核デモと市民運動についてのドキュメンタリー「首相官邸の前で」(小熊, 2017)を見たとき、日本で近年20万人規模のデモが起こっていたことを知らなかった、という驚きとともに学生たちから自然に声があがりました。
「自分たちも社会運動をしてみたい」
学生たちの声を受けて、授業の一環としてグループワークの時間を使って学内で活動を行うことになり、まずは自分自身が何を身近な問題と感じているか、何を知ってもらいたいかについて話し合うことでアクションリサーチのテーマを設定しました。
社会運動には、権力や組織に働きかけて構造的な改革を求めるものと、米国の「We are here」運動に代表されるように、「わたしたちはここにいる」と訴えかけ周知することが目標の運動があります(長谷川, 2020)。議論の結果、ここでやりたい運動は後者に近いこと、また7人の学生たちの中に日本以外にルーツのある学生が複数おり、留学生や海外にルーツのある学生たちが大学生活のなかで何を感じているかをより可視化したい、困ったことや助けを必要とすることが何かを知りたい/知ってもらいたい、という意見が多く、運動の方向性が決まりました。
企画、立案、実際のアクションに移すまでのリサーチ、方法論やアウトプットの検討を経て活動を実践し、その成果や結果を評価するところまでがプロジェクト・ベースト・ラーニングの基礎になります。アウトプットに際するインパクトや伝えたいことの内容、どのようなアクションを行うのか、どのようなメディア媒体を使うのかなどについても自分たちで話し合って決定していきました。
学生主導でこうしたディスカッションを重ね、活動名は「素人の一揆」というやや反体制運動を思わせるネーミングとなりましたが、実際の学内における活動としては京都精華大学のテーマカラーであり、「地球・世界」を連想させる水色を基調とした意見箱を1週間設置し意見投稿とボードへのシールの貼りつけをしてもらうキャンペーンを行うことで、学内の留学生や国際的なダイバーシティについて考えてもらう「みずいろ意見箱ウィーク」を実施するという方向性が決まりました。キャッチフレーズは「話そう、セカイと」。これは高校生へ向けたQ&Aで広報部が実施していた「話そうセイカと」のパロディですが、主に国際文化学部の学生たちが主導する運動らしいフレーズになっています。意見収集の方法も、留学生に対する事前のインタビュー調査に加え、意見箱へのアンケート用紙の投稿、実地での相談コーナー、Google Formを利用した携帯などからのQRコード読み取りの方式、そして水色ボードへの表情シールの貼り付けなど、異なる学生や教職員に参加してもらいやすい形式を考えました。
授業を通し、自ら問題設定をし、その背景を学び、活動のためのリサーチをする能力、そしてグループワークを通して活動を実践するための企画・実践力が身に着くだけでなく、自分たちの周囲に関心をもちアプローチすることで変化を起こしていくための「セカイを変える」力が自主的に身についていく講義となっています。今後学生人数や関心テーマに応じて内容や形態は変化する可能性もありますが、理論や背景を学ぶだけでなく実際に社会に出たときに役立つチームワークや企画・実践・評価のスキルが習得できるのは学生にとって将来への強い力になるはずです。
今月、1月第3週目に「みずいろ意見箱」を実施する予定で準備を進めています。学内で水色のバンダナを巻いて活動をしている「社会運動論・素人の一揆」の学生達を見たら、ぜひ声をかけ、精華の留学生や国際ダイバーシティに関する意見を投稿していただければと思います。
参考文献
小熊英二「首相官邸の前で」(DVDつき) 集英社インターナショナル, 2017年
長谷川公一/編「社会運動の現在 市民社会の声」有斐閣, 2020年
2023年1月16日
阿毛香絵(グローバルスタディーズ学科教員)