12の基本スキル「作る」:提案書の作成方法(1/2)
本ブログ記事は『ビジネススキル 完全攻略 -基本編-』からの抜粋になります。全部まとめて読みたい方は、是非、電子書籍をご購入ください。
そもそも資料作成とは何なのか
「作る」スキルでは、資料の作り方に関して解説していきます。
特にパワーポイントなどのツールを活用してスライド(テキストと図表が混ざったもの)を作成する方法に関してまとめていきます。
資料作りでは、プランニングで求められるすべての基本スキルを組み合わせて作業していく必要があるので、少し大変かもしれませんが、頑張ってついてきてください。
「習得すべき基本スキル」の章で、ビジネスはどのように組み立てられ、どのように推進されていくべきか整理しました(忘れてしまった方は、改めて読み返してみてください)。
Why、What、Howの3つの観点です。
Whyでは「なぜこの戦略が必要なのか」を考え、Whatでは「どの施策が最適解なのか」を考え、Howでは「それらをどのように実行していくべきか」を考えていくという話しをしました。
資料を作っていくうえで、この3つの観点(事業レイヤー)ごとに、資料作りに求められる要件は違ってきます。
Whyの戦略レイヤーでは、報告する対象者は、取締役や執行役員などのマネジメント層になります。
資料に求められる要件は、意思決定や合意形成に必要な検討材料を資料としてまとめていく必要があります。
「理解する」の章で3C分析のフレームワークを紹介しましたが、たとえば、経営者向けに資料を作るときは、3C分析のロジックでまとめる必要があります。
もちろん、これ以外の資料のまとめ方もありますが、経営者が腹落ちするロジックを組み込んで資料を作ることが求められます。
作成するのにも、結構、時間がかかります。
Whatの施策や企画などのレイヤーでは、報告する対象者は企画部長や課長などになります。
資料に求められる要件は、戦略から導き出された具体的な施策や企画内容の妥当性になります。
Howの実行レイヤーでは、報告する対象者は現場の社員が中心になります。
資料に求められる要件は、施策案や企画案などの具体的な実現方法や実行計画などが求められます。
また、時間軸で見たときに、提案フェーズでの資料なのか、進捗フェーズの資料なのか、報告フェーズの資料なのかでも、求められる資料の内容が変わってきます。
もちろん、社内向けなのか、社外向けなのかでも、資料の作りこみ度合いは変わってきます。
社内向けだとテキストベースでもいいかと思いますが、社外向けだと、パワーポイントなどできっちり資料を作りこむ必要があります。
図表でまとめると、以下のように整理することができます。
本書では、施策や企画の事業レイヤー(what)と、実行の事業レイヤー(How)の提案フェーズにフォーカスして、どのように提案資料を作成していくか解説していきたいと思います(図表のオレンジ色の部分です)。
なお、対象者は、社外のお客様を想定して、受注につながる提案書をどう書けばいいか、資料の作り方を解説していきたいと思います。
提案書の構成と盛り込むべき項目
一般的に、お客様向けの提案書の構成は、施策や企画部分の「何をやるか(What)」の部分と、実行部分の「それをどうやって実現するか(How)」の部分の2つのパートから構成されます。
分かりやすく言うと、Whatでやるべきことを定義し、Howでその実現方法をまとめる構成になります。
特にHowの部分は、受注した後のプロジェクトの設計書という位置づけにもなるので、本当にできるかどうかのリアリティが求められます。
また、会社概要や実績など会社の信用度が、プラスαの情報として追記されます。
以上を踏まえると、3つの切り口から全部で10個の項目を提案書に盛り込む必要があります。
先ほどの「資料作成の類型」でまとめた図表から、WhatとHowの部分を抜き出し、そこに「会社の信用度(Credibility)」という項目を新たに付け加えると、以下のような図表で整理することができます。
WHAT:施策/企画の具体化
施策や企画案では、単なる思い付きではなく、事業戦略を実現することができる内容が求められます。
また、施策や企画を実現するにあたって、どういう課題があるのか、課題の整理からスタートし、それを具体的な内容に落とし込んでいきます。
その施策案(企画案)に、テクノロジーやツールなどが紐づいている場合は、技術的な部分まで含めて、それをどのように実現していくかまとめる必要があります。
提案の型としては、今説明したように1~4まで全て入っている「課題解決型」のものもあれば、4を中心とした商品・サービスのみを記載する「サービス紹介型」のものもあります。
メーカーやツールベンダーの提案書は「サービス紹介型」のものが多い傾向にあります。
製品やサービスが強い会社の場合は、サービス紹介型でも受注につながりますが、仕入れる商材に差がない場合は、お客様の課題を踏まえて解決策を提案しないと、他社と差別化することができません。
お客様の戦略や事業を理解したうえで、課題を整理し、それに対する解決策を提示する提案書の構成になります。
特定の企業向けに資料を作り込むのでお客様の納得感は高いですが、個別に資料を作り込む手間がかかります。
こちらは、自社のソリューションが機能的にどれぐらい優れていて、導入実績がどれぐらいあるのか、価格はいくらかなのかを提示する提案書の構成になります。
サービス紹介型の提案資料の利点としては、どの企業にも同じ提案書を流用できるので効率がいいことです。
それでは、1から4まで、具体的にどういった内容を盛り込んでいけばいいか整理したいと思います。
1. 戦略・事業理解
施策や企画の内容が妥当なのかどうかは、その前段の戦略や事業内容をきちんと理解できているかどうかです。
「理解する」スキルのパートで、「事業経済性」や、財務三表を活用した「収益構造」に関して説明しましたが、対象となる企業がどのような儲け方をしているのかきちんと理解することが大事です。
たとえば、売上の構成要素を「顧客数」×「顧客単価」とブレイクダウンできるならば、顧客数を増やすことか、顧客単価を上げていくことが売上を上げていくことにつながります。
だとすると、施策や企画の方向性としては、顧客軸では、「新規の顧客数を増やす」か「顧客の離反率を下げる」ことが重要になり、顧客単価では「単価を上げていく(クロスセル・アップセルさせていく)」ことが打ち手になります。
戦略や事業は、各社で違うので、提案する対象会社がどういう事業構造や収益構造になっているか、きちんと理解する必要があります。
2. 課題の整理・構造化
戦略を具体化していくうえで、当然のことながら、何らかの課題を抱えています。
たとえば、「新しい事業を展開していくうえで、新規領域に対応できる営業人材が少ない」といった課題や、「競合他社に後れを取っている領域を強化するためには商品の品揃えを強化しなければならない」、といった課題などがあります。
今できていないことをできるようにしなければならないため、色々な課題が噴出してきます。
多くの課題がでてくるため、表層的な課題ではなく、本質的に解決すべき課題をまとめていく必要があります。
これを「課題を構造化する」と言います。
「課題」だけでなく「ニーズ」もあるのではないかという話しがあるかと思いますが、その場合は、「課題」を「ニーズ」と置き換えて考えてみてください。
特に新規事業を立案する提案書などは、顧客のニーズ(市場機会)に基づいて制作するのが一般的です。
3. 施策や企画の立案
施策や企画を立案するときは、どうすれば課題(もしくはニーズ)を解決できるか考えていきます。
たとえば、新規領域に対応できる営業人材が少ないといった課題があったとします。
それに対する解決策は、「社内の優秀な営業人材を新規領域に再配置する」とか、「新領域に強い優秀な中途社員を採用する」などの選択肢を検討します。
いろいろな角度から検討を行い、「社内の優秀な営業人材を再配置する」というのが最適な解決策だったとすると、その施策案を具体化させていきます。
4. ソリューション実装・運用
施策案を具体化していくときに何らかのソリューション(ツールやシステムなど)が必要になる場合は、ソリューション部分に関しても、資料としてまとめていきます。
たとえば、営業人材の再配置を実行していく場合、裏側にスキルデータベースを整備するとか、営業管理システムなどの導入を検討していきます。
1から4までのケーススタディ
話しをより具体的にイメージしてもらうため、クラウドベースのソフトウェア(SaaS)を開発しているABCソフトウェアという架空の会社の、営業・マーケティングの取組み課題に関して、1~4の観点から整理してみたいと思います。
1. 戦略・事業理解
ABCソフトウェアは、クラウドベースのソフトウェア(SaaS)を開発しているツールベンダーになります。
ソフトウェアを開発している会社なので、社員の大半がエンジニアで、営業が弱いという課題があります。
営業面を補うため、今までは販売代理店を通じてツールを販売してきましたが、直販の販売比率を現状の20%から40%まで引き上げて、収益性をさらに高めていきたいと考えています。
事業経済性としては、規模の経済が効くモデルなので、利用企業が増えれば増えるほど収益性は高まります。
KGIを売上高と置いた場合は、KPIは顧客数と顧客単価にブレイクダウンできます。
顧客数は新規顧客と既存顧客に分けることができます。
新規顧客は営業やマーケティング活動で利用企業を増やし、既存顧客はカスタマーサクセス(顧客サポート)などの体制を整えて継続的にツールを利用してもらうことが大事です。
顧客単価に関しては、クロスセル・アップセルしていくことが収益性につながるので、製品ラインナップを拡充していくことが重要です。
2. 課題の整理・構造化
戦略・事業理解で記載したとおり、ソフトウェアを開発している会社なので、社員の大半がエンジニアで営業が弱いという課題があります。
直販の販売比率が現状は20%しかないため、営業やマーケティング人材、カスタマーサポート人材が社内に1人ずつしかいません。
また、現状、案件管理は外部の代理店に任せていたため、新規の見込み顧客の管理から案件化するまでのプロセスや仕組みが社内で整っていません。
3. 施策や企画の立案
上記の課題を踏まえると、施策の方向性は2つあります。
まず、販売体制を強化するための、営業、マーケティング、カスタマーサポート人材の採用を強化する必要があります。
営業人材は、SaaS系のツールで、新規顧客の獲得に強い人材を採用する必要があります。
マーケティング人材は、BtoB領域でデジタルマーケティングなどの取組み実績がある人材を必要としています。
サポート人材は、カスタマーサクセスと呼ばれる既存顧客向けのサポート業務の経験者が必要になります。
もう一つの施策が、新規の見込み顧客の管理から、既存顧客の管理までを一気通貫で対応するためのプロセスの整備と仕組み化(システム化)を社内に作る必要があります。
具体的には、リードジェネレーション(新規リードの獲得)、リードナーチャリング(新規リードの育成)、フィールドセールス(営業案件の創出からクロージング)と呼ばれる営業プロセスを仕組み化することが求められます。
4. ソリューション実装・運用
施策の二つ目を仕組み化していくためには、リードジェネレーションやリードナーチャリングに対応するマーケティング・オートメーション(MA)のツール導入や、フィールドセールスに対応するセールスフォース・オートメーション(SFA)のツール導入を検討していく必要があります。
これらのシステムを導入することで、顧客のステイタスに応じたプロセス管理が自動化されていきます。
「What(施策/企画の具体化)」の部分に関して、ABCソフトウェアのサンプル事例で提案シナリオ(提案骨子)を整理してみました。
まずは、仮説ベースで、1~4までの流れを作成し、その後、各項目に求められる情報を肉付けしていくと、効率的に資料を作成することができます。
HOW:実行計画の具体化
実行においては、Whatで企画した内容が、本当に実現可能なのか、実行計画の全体像や推進体制などを整理していきます。
パートチャートとガントチャートに関しては、「段取る」スキルの実行計画の作り方で詳しく解説しているので、そちらもチェックしてみてください。
5. パートチャート(実行計画の全体像)
パートチャートとは、施策や企画を具体的な実行計画に落とし込む前段階で、提案内容を構造的にブレイクダウンしていく工程になります。
6. ガントチャート(工数/役割責任/スケジューリング)
パートチャートは、提案内容を構造的に整理するところまでですが、ガントチャートは、「いつまでに、誰が、誰と、何を、どれぐらいの時間をかけて、どの程度行うのか」を、より具体化していく作業になります。
7. 支援体制(誰がやるのか)
支援体制とは、プロジェクトに実際にアサインされるメンバーを記した体制表になります。
誰がプロジェクトリーダーで、どういったスキルの人材がアサインされているのか明らかにする必要があります。
大きなプロジェクトの場合は、ステアリングコミッティと呼ばれる組織を作ることもあります。
ステアリングコミッティでは、プロジェクトの戦略的な意思決定、目標の設定、進捗のモニタリング、リスクの管理、リソースの割り当てなどを細かく見ていきます。
ステアリングコミッティは、プロジェクトがうまくいっていないときに有効です。
このようなときに、担当者同士で課題を解決するのではなく、マネジメントレイヤーも含めプロジェクト全体で課題を解決することができるという利点があります。
8. 見積もり(いくらかかるのか)
提案内容がとてもよくても、価格が適正でないと受注には至りません。見積もりは、受注を左右する大きな要素になります。
コンサルティングやシステム開発など、人材の稼働時間(工数)や工数単価で見積もりが決まるものは、ガントチャートに記載された作業工数が見積もりの根拠になります。
Credibility:会社の信用度
お客様との取引においては、本当にこの会社と取引をしていいかどうか信用度が重要になります。
会社としての実績や、導入するサービスの実績などの情報を入れていく必要があります。
9. 会社の信用度/ケーパビリティ(できること)
上場企業など大手企業の場合は、会社の信用度や安全性に関して、あまり情報は求められません。
一方、スタートアップなどの場合、信用にたる会社なのか、財務的に健全な会社なのかも、受注に大きく影響します。
契約はしたものの、資金繰りが悪く、倒産する可能性もあるからです。
また、実際に業務を依頼した場合、求めていることを本当に実現できるかどうかも重要なポイントになります。
たとえば、企画内容はとても良かったものの、実際にアサインされたメンバーに経験者が少なく受注に至らないということはよくある話です。
10. 導入事例/成果実績
導入実績や、成果実績なども、受注に至るかどうかの大きなポイントになるので、提案資料のなかにしっかり記載する必要があります。
特に保守的な企業や意思決定者の場合、過去に成功しているモデルを導入したいという気持ちが強く働くので、情報を整理しておくことが大事です。
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