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12の基本スキル「仕切る」:ファシリテーション力

本ブログ記事は『ビジネススキル 完全攻略 -基本編-』からの抜粋になります。全部まとめて読みたい方は、是非、電子書籍をご購入ください。

今回は、分割しづらかったので長文(6,000文字)ですが、頑張って最後まで読んでいただければと思います。


「仕切る」とはどういうことか

「仕切る」とは、打ち合わせやミーティングなどの場(会議)をマネジメントする能力のことを言います。

英語ではこれを「ファシリテーション」と言い、ファシリテーションする人のことを「ファシリテーター」と言います。

ファシリテーションスキルを普及させるための団体もあり、日本だと日本ファシリテーション協会、米国では国際ファシリテーターズ協会(International Association of Facilitators)などが設立され、ノウハウやメソッドの体系化、また、ファシリテーターを増やすための活動が行われています。

さまざまな会議体がありますが、会議を仕切ると言った場合、予定調和的に会議を進めていく場合と、会議中に出てきたさまざまな議論(意見)をコントロールしながら進めていく場合の、大きく2つの会議体が想定されます。

前者の場合は、司会進行的な会議運営スキルだけでも十分対応できます。
一方で、後者の場合は、会議を運営するスキル以外に、グループ内で起こる問題やミーティング中の意見の対立を解決する(収束させる)能力、合意形成を促す役割なども求められてきます。一般的に、専任のファシリテーターが求められるのは後者の場合で、高いファシリテーション能力が求められます。

本記事では、ファシリテーションの一番基本となる会議運営スキル(予定調和的に会議を進めていく能力)に絞ってお話したいと思います。また、会議のシチュエーションは、お客様を含むプロジェクトで、定例ミーティングのような会議を運営するイメージで、どう進めていくか整理したいと思います。(シチュエーション領域は、下の図のオレンジ色のところになります)

図表.コミュニケーションのパターン

無駄な社内会議時間と損失

ここに面白いデータがあります。2018年にパーソル研究所が実施した長時間労働に関する調査によると、1,500人規模の会社で、無駄だと思われている社内の会議時間は年間で約9万時間(全体の22%)あり、金額に換算すると約2億円の損失が発生しているようです。

さらに、1万人規模の大企業クラスになると、年間で約67万時間(全体の29%)の無駄な社内会議時間が発生し、約15億円程度の損失が発生しているようです。

大企業のほうが無駄な会議体の割合が多いのは、組織が複雑になる分、コミュニケーションの頻度も高まるため、調整のためだけの会議体も増えていくからではないかと推察されます。

また、会議に関する悩みとしては、「時間が長い」「結論が出ない、物事が決まらない」「目的がはっきりしない」といったアンケート結果が出ています。

実際、社内打ち合わせやお客様とのプロジェクトミーティングを経験したことがある人ならば、同じような悩みを感じたことがある人は多いのではないかと思います。

このような結果からも、無駄な会議や損失を減らすためには、「会議はできる限り実施しない」、実施するにしても、「できるだけ効率よく会議を運営し生産性を高めていく」という2つの方向性が考えられます。

会議の目的は「情報共有」か「意思決定」の2択

「仕切る」スキルが重要だと言いつつ、私自身は「会議はできる限り実施しない(特に社内会議など)」ほうがいいと思っている流派の人間です。

会議の目的を考えた場合、究極的には、「情報共有を目的とした会議」か、もしくは「意思決定(合意形成)を目的とした会議」の二択しかありません。前者の場合は、会議を開かなくても、資料に目を通せば内容を理解することができます(言い方を変えると、情報共有のためにきちんとドキュメントを作成することは重要だと思っています)。

また、コロナ以降、SlackやTeams等の非同期型のコミュニケーションツールが普及したことで、リアルタイムに顔を合わせなくても情報のやりとりはスムーズに行えるようになりました。

意思決定や合意形成を目的とした会議体に関しても、事前に資料を共有し、打ち合わせの時は、議論をするのではなく、フィードバックや判断を仰ぐ場にすれば、会議の時間も大幅に減らすことができます。

ここだけの話、リアルにメンバーが集まって、その場で何時間もブレストを行ったり意見を出し合うミーティングなどは、非常に生産性が低い会議体だと思っています。
また、事前準備なしに、当日の思い付きでアイデアを出し合いブレストをするのも、質的なレベルが高まらないので意味がないと思っています。

図表.会議の目的と組織レイヤーのマトリックス図

効率良く会議を運営する

少し話がそれてしまいましたが、「できるだけ効率よく会議を運営し生産性を高めていく」ための会議運営スキルに関して整理していきましょう。

会議運営は、3つのプロセスから構成されます。

会議を始める前の「事前準備」「会議中」、会議が終わった後の「事後対応」の3つです。ついつい、会議中のファシリテーションの仕方のみに話がいきがちですが、事前準備も事後対応も、会議を効率よく運営するためには両方ともに、とても重要です。
図表で整理すると、以下のように整理できます。

図表.会議運営の3つのプロセス

事前準備で行うこと

事前準備で行うことは、アジェンダの設定、会議に参加する人の利害関係の事前整理、会議に参加するメンバーのアサイン、そして、会議で何を決めるかのゴール設定(目的の設定)の確認です。

アジェンダの設定は、会議中に議論すべきことを箇条書きでまとめておきます。プロジェクトがうまく進行できていないなどの課題感があれば、課題を整理したり、進捗状況の確認ならば、ガントチャートなどの進行表を事前に準備しておく必要があります。

さらに、当日の会議をより効率よく運営するためには、アジェンダと当日共有する資料などは、事前に送付しておくと、ミーティング中の資料説明の時間を省くことができて効率的です(意外に、このひと手間ができない人が多い・・・)。

会議に参加する人の利害関係を事前に整理・把握しておくことも重要です。

たとえば、意見が対立している人や、社外のお客様でプロジェクト進行に大きな影響を及ぼす可能性があるキーマン(または要注意人物)などには、当日のプロジェクト会議が揉めないよに事前に調整しておくことが重要です。必要であれば、個別に根回しなども行っておくと、会議をスムーズに進行することができます。

会議に参加するメンバーのアサインに関しては、当日の会議でファシリテーションする人(メインで話をする人)、議事録を取りまとめる人、資料を配布する人(オンラインならば資料を投影する人)などを決めておきます。

最後に、プロジェクトのゴール設定を事前に決めておきます。単純に情報共有を目的とした場であれば、それほどゴール設定の重要性は高くないですが、何らかの意思決定(合意形成)を目的とした会議の場合は、具体的に何を決めるのか明らかにしておかないと、会議を開催したのはいいものの、何も決められずに終わってしまうという悲しい結果になってしまいます。

会議中に行うこと

会議中に行うことは、メンバーの役回りの確認、アイスブレイキング、アジェンダの進行、クロージングとラップアップ、ネクストアクションの設定の5つになります。

メンバーの役回りの確認は、そこまで厳密に行う必要はありませんが、初めて顔合わせするメンバーが多い場合は、簡単な自己紹介を兼ねて、役回りを説明します。

アイスブレイキングとは、新しいグループや人々が集まった際に、緊張を和らげたり、打ち解けたりするためのテクニックです。

たとえば、その日のニュースの話をしたり、週末のアクティビティなどの話でもいいと思います。
趣味やスポーツが同じだったり、出身地が同じだったり、お互いの共通項が見つかると話がはずみます。初めて顔合わせするメンバーが多い時などは、アイスブレイキングはとても有効です。

アジェンダの進行に関しては、事前に準備したアジェンダを提示し、当日の会議で何を議論するか明らかにします。

事前に資料を送付してない場合は、アジェンダの内容で揉めることもたまにあるので気をつけたいところです。アジェンダの1枚スライドは、以下のようにまとめてみてください。

図表.アジェンダの作成イメージ

議題を箇条書きで書いた後に、それぞれの議題を何分で議論するか時間を設定しておくこと。これがないと、時間をコントロールできず、延々とひとつのテーマを話し合うようなことが起こってしまいます。

会議の時間をどう設定するかですが、社内会議の場合は30分とし、社外会議の場合は、長くても60分以内に設定してみてください。30分以内に会議を終わらせるという意識が働くと、できるだけ効率的に会議を運営していこうという動き方に変わっていきます(時間管理に関しては、「段取る」のパートで詳しくお話したいと思います)。

60分の会議の場合、残り10分前に会議をクロージングできるよう、今まで議論してきたことを収束させていきましょう。ラップアップ(Wrap-up)とは、会議やプロジェクト、セッションなどの終わりに行われる「まとめのプロセス」のことを言います。

ラップアップは、会議やプロジェクトの最後に大事な役割を果たします。まず、会議で話された大切なことを短くまとめます。そこで、会議に参加した人がどこで意見が一致したか、まだ解決していない問題は何かをはっきりさせます。次に、これから何をするか、誰が何を担当するか、いつまでに終わらせるかなど、具体的な次のステップを示します。

さらに、参加者から意見をもらい、これからどう改善するかを考えます。これにより、参加者は会議の内容をしっかり理解し、次に何をすべきかがはっきりします。このやり方で、みんながしっかりと話し合いを進められるようになります。

最後がネクストアクションの設定です。ラップアップした内容の中で、お互いが次にやるべきことを抜き出して、いつまでに誰がそのアクションを実施していくかタスク化していきます。

意外に、ネクストアクションを明らかにせずに、会議を終えてしまう人が多いですが、議論された内容を次につなげるためには、会議の終わりに具体的な行動計画を立てることがとても重要です。

事後対応で行うこと

事後対応は、会議に参加できなかった人へのラップアップと、ネクストアクションの実行・管理です。

重要な話の場合は、参加できなかった人に対して個別にラップアップをしたほうがいいですが、通常は、議事録の共有で十分です。
プロジェクトベースでお客様と仕事をしてきた人は議事録を作成するというのが習慣化しています。
一方で、議事録を書く習慣がなく、報告・連絡・相談などの基本的な動き方ができていない人の場合、自分以外に情報を共有するということの重要性に気づいていません。

会議体では、できるだけ議事録を書くという習慣をつけていきましょう。ネクストアクションの実行・管理は、エグゼキューション系スキルの「処理する」や「段取る」のところで詳しく解説したいと思います。

課題解決型のファシリテーション

リアルにメンバーが集まって、その場で何時間もブレストを行ったり、意見を出し合うミーティングなどは、生産性が低く、あまりお勧めしないという話をさせていただきました。

また、これらの会議体は、グループ内で起こる問題やミーティング中の意見の対立を解決する(収束させる)能力や、合意形成を促す能力も求められるため、ファシリテーターとしてのレベルもより高いものが求められるという話もしました。

とはいえ、こういう会議体を運営していくことも必要になってくるため、最後に、会議の中で課題解決を行い、解決策の方針を定め、アクションに落とし込んでいくための会議の進め方に関しても少し触れておきます。

図表.課題解決型のファシリテーション運営方法

会議の中で、課題解決を行う場合、通常、8つのプロセスを踏んで検討していきます。

まず、課題となっている業務やテーマを絞り込むところからスタートします。トップダウンで落ちてくる緊急性の高いテーマもあれば、現場レベルで課題となっているテーマなど、さまざまなレベルのテーマがあります。

たとえば、営業の数字が上がっていないのをどう解決していくかとか、中途社員の離職率が高まっているのをどう解決するかなどのテーマを設定し、会議に参加するメンバーに対して、事前にテーマや課題感を共有しておきます。

また、2番目の情報収集や意見交換に関しても、会議の前までに現状の課題が把握できるファクトデータを共有したり、会議で議論する意見に関しても、参加メンバーに事前に準備しておいてもらうと、当日の会議をよりスムーズに進めることができます。

会議を進行していくうえで、一番難しいのが、3番目のブレインストーミング(ブレスト)と4番目のアイデアの整理と評価です。

ブレストでは、参加メンバーからさまざまな課題が出されます。テーマによっては50~100個ぐらいの課題が出てくるので、これをポストイットに記載してホワイトボードに張り付けたり、直接、ホワイトボードに書いていきます。課題をグルーピングして、最終的に5~10個ぐらいの課題に絞り込み、緊急度や実現可能性などの評価軸で整理していきます。

ファシリテーターの能力次第では、議論していたことが発散したまま収束できなかったり、収束できたとしても、想定していた時間よりも多くの時間を割いてしまうことがあります。

また、課題が複雑に絡み合っている場合は、課題を紐解いて構造的に整理しなおす必要があるため、ファシリテーターには、コンサルティング的な能力も求められてきます。

5番目の最適な解決策の選定は、絞り込まれた課題の裏返しであることが多いので、そこまで難しくはありませんが、参加メンバーが、その解決策に納得感をもてるように導いていくことが重要です。

ここまでできると、6番目のアクションプランの策定や7番目の合意と確認はスムーズに進めることができます。その後、ネクストアクションをとりまとめフォローアップしていきます。

個人的な意見になりますが、やはり、会議体の中で合意形成を行っていくのは、ファシリテーターにとって難易度も高く、会議自体の生産性も低いため、あまりお勧めしません。

また、オンラインミーティングが主流になる中で、会議の中でブレストを行ったり、アイデアを整理していくというのも、そう簡単ではありません。

ですので、1番目から5番目までの検討プロセスは、個別に資料としてとりまとめておいて、会議の中では、資料に沿って意見を集約し、どの解決策から着手していくか合意を取るスタイルのほうが生産性は高いと思います。

基本的なところからマスターしよう

以上、「仕切る」スキルに関して、基本的な会議の進め方を整理してみました。

エグゼキューションスキルの「段取る」スキルは、プロジェクトマネジメントに該当するスキルになるため、こちらのスキルレベルが上がっていくとファシリテーションスキルのレベルも高まっていきます。

また、会議体の中で課題を解決していくようなファシリテーションの場合、難易度もグッと高まるため、こちらは、プランニングスキルのレベルアップも図っていく必要があります。

次は、プランニングスキルに関して解説していきます。


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