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津波で店が流された | 起死回生した魚屋店主のキャリアと挑戦

2011年3月11日、東北をマグニチュード9.0の地震が襲い、多くの家や店舗が津波によって流されました。今回お話を伺った河合さんも、両親と営んでいたスーパーの店舗が流されてしまった津波被害者の一人です。

仮設店舗から再スタートを切って10年が経つ河合さんのこれまでと、地元のために始めた新たな挑戦について語っていただきました。

【河合さんのチャレンジ】

「地元大槌町を盛り上げたい!」

そんな想いで始まった、河合さんの地元愛溢れる挑戦の詳細は こちら から

名前:河合秀保

岩手県大槌町で父の代から続く鮮魚店を営む。父親の頃はスーパーとして鮮魚に限らず、生鮮・米・酒なども扱っていたが、東日本大震災で店舗を流されたことを機に秀保さんが継いで鮮魚店として仮設商店にオープンした。現在は刺身や干物などの魚加工品に特化した「河合商店」を営むと同時に、地元を盛り上げるためにバスケットボール大会の主催や三陸の幸を使用したミールキットのクラウドファンディングに挑戦している。

業態転換の原点

-河合さんのファーストキャリアはどのようでしたか?

・河合さん:

地元の高校を卒業した後、そのまま実家のスーパーに就職するのではなく、仙台のスーパーに就職しました。そのスーパーでは鮮魚部門の担当者として5年間勤めていました。

就職先を仙台のスーパーにしたのは父の知り合いのお店だったからです。家業に戻ることを見据えて、仙台の都会的で大型の小売業の店舗での経験は大変貴重なものでした。特に部門ごとの売上目標を達成するためのプロセスを学べたことは、小売業の面白さや大変さを知る機会になりました。

鮮魚部門を選択した理由も家業のお店の鮮魚の担当者が高齢で、継ぐ際には鮮魚の担当になるだろうと思ったからです。

幼少期から「いつか家業を継ぐもの」と思っていたので、ファーストキャリアでもその意識はブレず、家業に直結する良い経験を積むことができましたね。

-鮮魚部門の担当者として5年間、仙台のスーパーに勤めた経験を家業で発揮したことはありますか?

・河合さん:

あります。

例えば、仙台のスーパーではお刺身の盛り合わせをパックにして売っていたので、それを家業に戻ってきたときに取り入れてみました。しかし、思ったように売上に繋がらず…

大槌町は漁師の町ですので、つまを敷いて綺麗に盛り付けるよりも、豪快にどっさりとしたパックを作る方がお客さんに喜んでもらえました。

土地柄が売れ行きに影響することも、試してみて初めて分かった発見でした。

津波がすべてを流して廃業の危機

-その後、家業のスーパーを継ぐことになるわけですが、継ぐに至った経緯はどのようなものでしたか?

2011年の東日本大震災の津波で、父と母が営んでいたスーパーが流されてしまいました。それを機に両親は引退し、その年の12月に商工会からの打診を受けて仮設商店の一角として魚屋として代替わりを果たしました。

スーパーではなく魚屋として開業させたのは、仮設店舗の坪数が少なく、スーパーほど多くの商品を扱えないことや、自分が鮮魚部門でキャリアを積んできたことが理由です。

実際に継いでみると、販売や売上だけに注力するのではなく、人件費や社会保険など経営に関わることを総合的に管理・判断しなければいけないので、改めて経営者の大変さを感じました。

-仮設商店ならではの難しさはありましたか?

生ものを扱っているので、ストックを貯蔵しておくためにはストッカーが必要です。しかし、仮設商店はお店の規模がそこまで大きくなく、大きなストッカーを置くことができなかったので、ストックを作ることができなかったのが大変でした。

前もって大量に用意しておくことができないので、買いに来てくれたお客さんにお渡しできる商品がなかったときは、もどかしさを感じましたね。

また、仮設の商店なので避難が解除されると他の店はもとの通常の店舗に戻っていきました。でも自分の店は津波で流されてしまい、新しいお店がなかなか決まらず、仮設商店に取り残される形になりました。商店数も減って活気が少なくなった仮設商店で来ないお客さんを待つ日々は辛かったです。

今は無事新しいお店を構えて、新しい土地で新しいお客さんにもご利用いただいています。そこでお客さんの存在の大きさを改めて感じました。

家業の信頼をそのままにオリジナルな挑戦を

-家業を継ぎ経営する上で大切にされていることは何ですか?

やはり食を扱っているので、安全で美味しいものをお客さんに届けることは常に意識しています。そのために、今はお刺身や干物などの加工品のみを扱っていて頭のついたお魚は販売していません。

お店に来るお客さんは自分自身でお魚をさばくことが少なくなっており、魚を丸々一匹売っても売れません。以前は残った魚を翌日お刺身などにして売っていましたが、それはお魚本来の美味しさをお客さんに届けられていないような感じがして。

震災後の仮設店舗はお店自体が本当に狭かったので、お刺身に特化して販売を始めました。

お刺身だけの販売をするお店は他になく、少し尖っているように見えるかもしれませんが、全てはお客様に美味しいものを食べてもらうためなので、これからも取捨選択を続けていくつもりです。

-家業エイドのユーザーさんの中には、家業継ぐか迷ったり継いでも「この仕事で良いのか」と不安になる方もいらっしゃいます。そういった方に経験者としてメッセージはありますか?

自分の場合は、時代的にも地域的にも家業持ちの子どもは家業を継ぐのがスタンダードだったのでそこまでの悩みはありませんでしたが、やはり震災で両親が店を辞めると決断した時は、このまま続けて良いものかと悩みました。でも、それまでも鮮魚担当者として家業を継ぐことを視野に入れて経験を積んできたので、それを生かしていきたいと思いました。

ただ、自分のように家業の一部門を切り取って存続させたり、会社名をそのままに全然別の業界にチャレンジする人もこれから増えると思います。先代までがやってきた事業と違う形で存続させたとしても、会社の歴史は途絶えないので社会的信用は高く、銀行などの融資が受けやすくなることはメリットだと思います。

家業として長く安定的に培ってきた基盤を使って新しいことに挑戦するのも素敵だと思います。

震災から復活したからこそ成し遂げたい新たなチャレンジ

-現在、ミールキットを返礼品にクラウドファンディングを行っていますが、それを始めた背景について伺ってもいいですか?

きっかけは北上市の業者さんと知り合ったことです。

岩手県は鍾乳洞からの綺麗な湧き水が豊富で、その水で育ったお野菜や動物のお肉がとてもおいしいです。三陸の海は暖流である黒潮と寒流の親潮がぶつかり、暖水性・冷水性両方のお魚が集まる漁場になっています。加えてリアス式海岸の複雑な地形が入り江に豊富な養分をためて、栄養と旨味がぎゅっと詰まった魚介を育てます。

農業・畜産・漁業において恵まれた自然環境の中でとれた岩手県産の素材を使って、全国の方に美味しいものを食べてもらいたいと思っています。

-このクラウドファンディングを通して伝えたい思いなどありましたら聞かせてください。

震災を機に三陸でとれた魚が関東にも出回って、広く色々な人に食べてもらえて嬉しく思っています。一時は原発事故の影響で放射能の心配が叫ばれたことがありましたが、今では世界のどこよりも厳しい基準を設けて安全に岩手県産の食材を食べてもらうことができるようになっています。

ミールキットは岩手県の自然の恵みが集結した極上の素材を、手軽に地元民ならではの調理や味付けで食べてもらうことができます。

このミールキットを通して岩手県産の美味しいものを全国の皆さんに味わっていただきたいですし、これを契機に震災前以上に東北・岩手県が盛り上がって欲しいと思っています。

震災を乗り越え、仮設商店からお店を再開した河合さんから溢れ出る地元への熱い思いを感じることができました。特に、岩手県の美味しいものを全国に届けるためのクラウドファンディングの取り組みは岩手県を始めとした震災で大きな被害を受けた東北3県を元気づけることにも繋がるかもしれません。

三陸の海で取れた海鮮と北上の畑でとれた豊かな大地の恵みを一度に楽しめるミールキットを一緒に応援しませんか?

ぜひ こちら から河合さんのチャレンジをご覧ください!



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