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刺青(短編小説)


全身に受ける狂いそうな刺激に、あなたの甘い吐息に、混ざり合う汗に夢中になっていた。
そのせいで気付けなかったんだ。

あなたとのキスは、私の舌が溶けて無くなってしまうのではないかというくらいの熱さで、だけど無くなってもいいとも思った。

その愛情は真っ直ぐで私をどこまで追い込めばいいのかと焦るくらいだ。
私も応えたい。応えなければいけないと、激しく身体をぶつける。
最早戦闘といっても過言ではない。

どちらの愛が強いか、どちらの情熱が上回っているかの真っ向勝負。

あなたは汗を飛ばしながら、ニヤリと無理に余裕な表情を見せ、優位に立とうとするが、まだまだ。
まだまだ私は達しない。

あなたをダウンさせるまで、耐え続けるし、攻め続ける。

そんな真剣勝負に夢中になっていたから、私がそれに気づいたのは、向かい合って座り込み抱き合っていた時。

あなたの向こう側に見えた鏡に映ったのは、私の裸体とあなたの背中だった。

あなたの左肩には人工的なそれがあった。
人工的であってもそれは美しくハラリと揺れる楓の葉。

楓の葉は鏡越しに私を笑っていた。
前の女の名前の葉。

私は思わず噛み付いた。その肩の刺青ごと食い破ってやろうと。

あなたはきっとそれを察した。
あなたに噛み付く私の頭を撫でながら、止めさせることはしなかった。寧ろ自分の肩に強く押し付けて、立てた牙を食い込ませた。
そしてあなたも休むことなく私に愛情を注ぎ続ける。

そのとき、子宮が締め付けられるのがわかった。
悔しさからか、嬉しさからか、ギュウッと畝る私はいつのまにか果てていた。

「俺の、勝ちだ」

泣きながら噛み続ける私に、あなたは肩から血を流しながらそう言った。


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