ゴリラ_ゴリラ

ゴリラのじゃれ本をまとめるアカウントです。

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最近の記事

『無能なパン喰い競争』

放課後。誰もいない広い教室。 俺は紐にぶらさげられたひとつのパンと向き合っていた。 パンの表皮はこんがりさくさくに焼かれ、香ばしい香りを晒している。 そう。このパンは、我が校の食堂のおばちゃんが特定の曜日、特定の時間に校内でこっそり焼いているアンパンマンパンだ。生徒たちにとって裏取引の対象になっているこのパンが今、俺の目の前にぶら下がっている。誰も見ちゃいないが、口でついついとつついてはこっそり自分のものにならないか試行錯誤している。そうしていると後ろから友人の玉三郎が声をか

    • 『上司とは食べたくないハムスター』

      「堺くん、君とこうやって食事をして親睦を深めたくてね」 「それは光栄です社長」 「君は我が社の展望をどう見る?」 「そうですね…」 退屈な時間だ。しかし適当な答えを出すわけにもいかない。私はこの会社で世界征服を目論んでいるのだから。 「堺くんのその広い視野と深い見聞をお聞きしたい」 「そうですね。まずは、当社が得意とする兵器開発をより手にかけてみては如何でしょうか。例えば、毒ガスなどの開発など」 「毒ガスか…」 上司は顎に手をあて考え込む。 「…しかしなんだ、

      • 『ひらひらうちわ』

        ここはダムディーナ王国。チン・チーン王が収めている国だ。俺はここの第3王子として生を受けた。第1王子バカ・チーン、第2王子アホ・チーンそして俺、第3王子ウン・チーンが次期王として、したたかに跡目を争っている。第1候補バカ王子にやる気はないが、第2候補アホ王子は俺の画策に睨みをきかせている。 さて…末の弟である俺、ウン・チーンは、どうやって王をとりにいこうか… ブリリッ。 誰かの脱糞音(こえ)が聞こえる。兄弟たちは知らないようだが、俺はこの“こえ”を利用して従者たちと会話がで

        • 『誠実の水鏡』

          「なーに見てるの?」 「わっ」 ふと振り返ると、彼が少しはにかみながらこちらを覗き込んできた。 夕暮れ、友人を待つ図書館で一人本を読む私を見て話しかけてきたらしい。 「ドラえもん好きなんだ。俺も好きだよ。昔のドラえもんって結構辛辣なんだよね」 意外にもこの男、ドラえもんに詳しい。私はふふっと笑ってしまった。その後は、2人でジャイのび派かのびジャイ派かで盛り上がった。後に判明するのだが、彼はCPの左右の話とはわかっておらず単純に語感の良さを考えていたのだという。常に言葉と

        『無能なパン喰い競争』

          『卵焼きが作れるカスタネット』

          俺の得意料理は卵焼き。母の作る卵焼きが好きでそれに近づけるように努力した。隠し味には、俺のうんこをふんだんに使う。コクが出て味に深見エミ というイマジナリー彼女を想像させる程のインパクトが生みせる。隠し味がうんこだと気づいたのは昨年のこと。母の味の再現に躍起になっていたところに弟から電話があった。 「母さんが遺したレシピが見つかったんだ」 「ほ、本当か!?」 「ああ。これで、兄さんの作りたかったものが完成するよ」 弟の話してくれたレシピは、おおむね素人でも出来るものだった。

          『卵焼きが作れるカスタネット』

          『日光浴する筋肉』

          照りつける日差し。燦然と輝く筋肉たちは今日、この江ノ島の海岸沿いに集結していた。 夏の暑さとタンパク質の密度が彼らの情熱と相まって、ここだけ異様な熱気を放っている。 何を隠そう今日は彼らが待ちに待った「大熱殺・ボルケーノふんどし祭」だ。 じりじりと照りつける砂浜で、あちあちに熱したふんどしを手に殴り合う、筋肉の祭典。今日のため、過酷な減量をのぞんだ者もいただろう。 「よぉ。お前もいたのか」 ヴァイブラ・咲希が手にいっぱいのプロテインを持って話しかけてきた。 「大熱殺・ボルケ

          『日光浴する筋肉』

          『どすこいケーキ』

           トッピングにはドス。隠し味には鯉をふんだんに使ったケーキがこの世には存在している。新宿二丁目、今日もそのどすこいケーキを求めに一人のオカマがやってきた。 「やァだ!ここのケーキ美味しいって評判だから買いに来たのに、商品ぜんッぜん無いじゃないのォ!」 がつんがつんと厚底ヒールで地団駄を踏みながら、彼(彼女?)はショーケースに厚化粧の顔面を押し当てていた。 「ミセス、当店の決まりですので」 肩幅2mの店員がなにやら書かれたカードを差し出す。ミセス...?はちらりと目をやると頷い

          『どすこいケーキ』

          『翌日には忘れる日報』

           人それぞれ運動や勉強に得意不得意があるように、私は物事を記憶する能力が他人より低い。幼い頃は忘れん坊だねで済んでいたが、歳を重ねるとこの欠陥が職務に大きな影響を与えていることを痛感せざるを得ない。 我にかえる。そうだ銃口を向けられていたのだ。 「知ってしまったからには消えてもらおう」 待ってくれ、私は懇願した。ひどく忘れっぽいので目の前の人間の名前も出てこないが必死で説得した。知らんけど帰してほしい。 「殺さないで〜ッお願い〜〜〜ッお願いお願いお願い〜〜ッ!」 「やめろ

          『翌日には忘れる日報』

          『癒しを求めてポップコーン』

           吾輩は猫である。名前はとらすけ。ここいらの猫と共に映画館で働いている。なんでも空気の浄化にいいらしい。 「今日もありがとね、とらすけさん」 リーダーの谷さんだ。今日の分のお賃金だ。賃金はポップコーンなのだ。 吾輩はさっそくポップコーンを口にする。 「この甘いキャラメル、これのためなら、吾輩うんと働けるよ」 「私もよ。あ、そうだとらさん。 ちょっと相談があるんだがね」 谷さんは、映画館の通風管を指さした。 どかー----ん! 谷さんが通風管を指したとき、けたたましい音が

          『癒しを求めてポップコーン』

          『灰色で冷たいロリ』

           茹だるような夏だった。 すっかり都会に叩き潰され、田舎に帰ってきた僕は、漠然とした不安に駆られ、毎日無闇やたらと道を歩いていた。 蝉時雨けたたましい廃工場。 枯れ草に紛れるように、その灰色はいた。 「ハハ!僕は○ッキーマウス!」 ここは舞浜ではないはずだ。どうしてあの有名なネズミがいるのだ。 「きみにお願いがあるんだ。聞いてくれるかい?」 僕の答えを聞かずにネズミはつづけた。 「ここに魔法の粉が入った袋がある、これをチャ◯アスのライブ会場に届けて欲しいんだ!なぁに!心配す

          『灰色で冷たいロリ』

          『包み紙パイン』

           ミルキーの包紙には「1枚にペコちゃんの顔が10個あったらラッキー」という謎のジンクスが公式として存在していた。 だがかつて期間限定沖縄パイン味のミルキーにはペコちゃんの顔は一切印刷されておらず、そこには具志堅用高の顔がびっしりと印刷されていた。沖縄パイン味は、ペコちゃん好きのファンたちからとてつもない避難を浴びた。  それは具志堅用高にも向き、明朝、新宿区に具志堅の磔が晒された。 「これが、ペコちゃん沖縄パイン味事件だ。」 そういって彼、具志堅の飼い犬であるグスマンは話を

          『包み紙パイン』

          『りんご後輩』

          「林檎は世界を救います。」 クーラーのない蒸し暑く狭い部室で二人、真面目な顔をして彼女は言った。 彼女は明石さんと言う。 部員2名の弱小サークルであるこの生物部で植物、特に林檎をこよなく愛す彼女はこの通り、いつもの調子である。 「はいはい、林檎ね。」 最初こそ真面目に聞いていたが、不思議な感性を理解できる訳もなく。明石さんの言葉に適当に相槌を打つ。 …でも。目が離せない。 自分はこれといって人に自慢できるものや夢中になれるものがないからこそ、一つの果実について長く探究できるこ

          『りんご後輩』

          『ゴミ溜めメランコリー』

           なにもかもだるい。とにかくだるい。 鬱々とした空気が汚部屋中を満たした。 なんとなしにつけたテレビからは夏休みのレジャーを楽しむタレントの声がする。鬱陶しさを感じるも、消すことすら面倒だ。敷いたままのペットシートの上で排泄をしながら、おむつを装着するより楽だと感じる自分は本当に“終わり”なのかもしれないと、天井を見ながらははと笑う。孤独死の現場には尿が入ったペットボトルが複数見つかるというが、俺の場合は、人間の尿が染み付いているペットシートだな。部屋には生暖かい尿の匂いが立

          『ゴミ溜めメランコリー』

          『紫に染まる綿棒』

           お風呂上がり、耳かきをするのが私のルーティン。今日もいつものように耳かきをしていた。ガリッちょっと大きめな耳糞に当たった。丁寧に耳糞をほじりとりだすと、そこにはちぃちゃい紫芋が乗っていた。 紫芋?は?紫芋じゃん。え?なに? 私は混乱しながらも綿棒の先の紫芋をつまむ。 紫芋は 「チャー…」 と産声をあげ、ふたつに割れた。 よく見るとそれは、真っ二つになった紫芋色のタムケンではないか。生まれた姿の小さなタムケンはまだ目も開けられない様子である。 私は綿棒を取り出したはず……。

          『紫に染まる綿棒』

          『抜け落ちる迷子』

           ピンポンパンポーン 「迷子のお知らせです。身長186cm、黒のシャツを着ている、サイトウ ケイタくん。迷子センターにてお預かりしております」 誰もいないショッピングモールに響くアナウンス。一切の気配が無い不気味な空間で丁寧に読み上げられる迷子のお知らせ。 啓太……? 聞き覚えのある名前に安堵する。遠い昔の幼馴染。 今は少しでも手がかりが欲しくて、私は迷子センターへと向かった。  啓太!伸ばした手の先に触れた迷子センターはたちまち霞となり啓太だと思った迷子は全くの他人だった

          『抜け落ちる迷子』

          『お参りする神』

           目を閉じ、静かに佇む。私の日課である。  私の社からそう遠くない小高い丘の林にひっそりとある祠。暖かい陽気と爽やかな風を感じる反面、私の心は波立っている。 神は信仰を失うと消える。  俺は3人組で会話すると消える。何急にボケてんだって?つまりは神も人も同じってこと。わかる?神は人からの信仰で形を成すのであれば、俺は偶数人数でないと人権が得られないってワケ。あれ、なんか目から汗が…… 「どーしたん?泣いてんの?」 隣で酒を飲んでいた宜保愛子が俺を覗きこむ。 後ろには着いて

          『お参りする神』