『無能なパン喰い競争』

放課後。誰もいない広い教室。 俺は紐にぶらさげられたひとつのパンと向き合っていた。 パンの表皮はこんがりさくさくに焼かれ、香ばしい香りを晒している。 そう。このパンは、我が校の食堂のおばちゃんが特定の曜日、特定の時間に校内でこっそり焼いているアンパンマンパンだ。生徒たちにとって裏取引の対象になっているこのパンが今、俺の目の前にぶら下がっている。誰も見ちゃいないが、口でついついとつついてはこっそり自分のものにならないか試行錯誤している。そうしていると後ろから友人の玉三郎が声をかけてきた。
「おい何してんだよ」
緊張が走る。今ここで見つかってしまったら俺の甘美なパン食い体験がおじゃんになっちまうじゃないか。
「や、やぁ玉三郎」
「まだ帰ってなかったのか?おっ、美味そうなパンじゃん」
玉三郎は懐からダガーナイフを取り出し、舌を這わせた。
「なっ…!」
玉三郎の目は本気だった。
「っ…!俺はお前と争いたいわけじゃない!ただこのパンを食べたいだけなんだ!」
「ごちゃごちゃうるせーな...さっさとその手にあるパン、よこしな。さもねぇと…」
刃をこちらに向け、

詠唱した。

「ブリブリぶくちちちちちちちちちちちっはぁーーーーーーーーー!すき焼きたまたまたまたまたまたまたまめーーーーーーーーーーん!!!!!」

刃はブラックホールと化し全てを薙ぎ払った。
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーーー!!!!!!!」
玉三郎の断末魔が聴こえる。 放ったブラックホールは、彼も飲み込んでしまったようだ。
「ハァッ…ハァッ…そうだ!パン!パンは…」
俺が振り向くと、そこにはまるごとバナナがぶら下がっていた。
「裏取引パンはね、ただの噂なんだ。」
食堂のおばちゃんが立っていた。
「全部…嘘だったんですか」
「怪異をおびきだすためのね。まるごと嘘だよ、まるごとバナナだけにね」 完


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作者 少年/人外/ぱりぱり
使用ツール:オンラインじゃれ本
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