『ゴミ溜めメランコリー』

 なにもかもだるい。とにかくだるい。
鬱々とした空気が汚部屋中を満たした。
なんとなしにつけたテレビからは夏休みのレジャーを楽しむタレントの声がする。鬱陶しさを感じるも、消すことすら面倒だ。敷いたままのペットシートの上で排泄をしながら、おむつを装着するより楽だと感じる自分は本当に“終わり”なのかもしれないと、天井を見ながらははと笑う。孤独死の現場には尿が入ったペットボトルが複数見つかるというが、俺の場合は、人間の尿が染み付いているペットシートだな。部屋には生暖かい尿の匂いが立ち込める。

これで俺は死ぬのか、このゴミ溜めで。そう思った時だ、
「おじさ〜ん、大丈夫?」
軽い癖のある声が耳をつく。
「やばw部屋汚過ぎwつーか漏らした?」
チャラチャラとした身なりの男は、ズカズカと俺の部屋に入ってきた。確かコイツは隣の部屋の…
「雑巾ある?」
「……」
面倒でぼーっとしている俺を横目に男は1人部屋を漁っている。
「確かこの辺に〜っと、あー、あったあった。」
雑巾を手に取り、フローリングの上で行き場を無くした液体を拭いた。
「甘やかし甲斐があるねェ〜!ほんっと、お前のイロイロな世話をするために今日まで生きてきたんじゃないかって、神様ありがとーって、思うわけよ」
「…」
「他の男、最近ここに連れ込んだりしてねぇよな?」
「?」
「だって、ピンク色の髪の毛…あるけど?」
空気が変わった。
「俺とお前、黒髪だよな?」
あぁ…終わった。数日前にEXITを部屋に入れていたことが、こいつにバレてしまった。EXITの大ファンである、山本隆に。

 あれ以来、俺はこのゴミ溜めにずっといる。山本隆に閉ざされた部屋はこちらからは開けられない。隣の部屋から聞こえるEXITの声さえも、今じゃ遠い記憶の存在だ。
ここはゴミ溜め。
憂鬱の部屋。



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作者 ばちんこ/少年/人外/ぱりぱり
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