『癒しを求めてポップコーン』

 吾輩は猫である。名前はとらすけ。ここいらの猫と共に映画館で働いている。なんでも空気の浄化にいいらしい。
「今日もありがとね、とらすけさん」
リーダーの谷さんだ。今日の分のお賃金だ。賃金はポップコーンなのだ。
吾輩はさっそくポップコーンを口にする。
「この甘いキャラメル、これのためなら、吾輩うんと働けるよ」
「私もよ。あ、そうだとらさん。 ちょっと相談があるんだがね」
谷さんは、映画館の通風管を指さした。

どかー----ん! 谷さんが通風管を指したとき、けたたましい音がなり響いた。
「この世に飽きたからこの世界ごと壊そうと思うの」
谷さんは笑顔でとらさんに話す。
「壊す?」
「そう、とら君ボクはね、この世に存在する不平等に嫌気が差したんだ。だからこの爆発でこの国を平らに戻して、もう一度0から国を作って、誰もが癒やされ幸せになる世界を目指すんだ。」
「谷さん…⁉︎」
吾輩は谷さんと話し合った。爆破前に最後に一本映画を観てからにしよう、と決めた。谷さん1人だけのシアター。隣には吾輩とっておきのポップコーン。他の従業ねこもなあなあと集まってくる。谷さんが選んだ映画は「フルメタルジャケット」だった。
「あたしはね。このほほえみデブが大好きなンだ…」
谷さんもほほえんだ。 教官の罵詈雑言、けぶる硝煙、爆発される映画館に、これほど似合う花向けがあるだろうか。
 吾輩はポップコーンを貪り食った。この感情を落ち着かせるにはそれしかなかった。ポップコーンが歯の間に挟まろうとも、あまり味がついていなかろうと無心でただ食べ続けた。 ぽろっ それは不注意だった。最初はかってぇポップコーンを噛んだと思っていたが、正体は自分の歯だった。ぽろ、ぽろろ…ドミノが倒れるように全ての歯が抜け落ちていき、歯茎の空席にはポップコーンが鎮座していった。世界も俺にも救いは無い。


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作者 ケイマ/少年/人外/ぱりぱり
使用ツール:オンラインじゃれ本
online.jarebon.com
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