『抜け落ちる迷子』

 ピンポンパンポーン
「迷子のお知らせです。身長186cm、黒のシャツを着ている、サイトウ ケイタくん。迷子センターにてお預かりしております」
誰もいないショッピングモールに響くアナウンス。一切の気配が無い不気味な空間で丁寧に読み上げられる迷子のお知らせ。
啓太……?
聞き覚えのある名前に安堵する。遠い昔の幼馴染。
今は少しでも手がかりが欲しくて、私は迷子センターへと向かった。

 啓太!伸ばした手の先に触れた迷子センターはたちまち霞となり啓太だと思った迷子は全くの他人だった。気付くと私は神宮球場のバッターボックスに立っており、かつて啓太と甲子園に行く約束をしたことを思い出した。

 響く応援コール。
 目の前のピッチャーは、あの頃の啓太に似ている。大人になった啓太は、きっとあんな風に、俺に向かってきたんだろうな。
俺は手のバットを握りなおし、構え直した。
俺は啓太を超えていく。
ストライク!大きく空ぶった。
ツーストライク!啓太似のアイツは、ストライクばかりを狙ってくる。だから、俺も…!
スリーストライク!バッターアウト!!

三振、か。あの夏も、啓太から1本も取れずに終わったっけ……。
当時は苦い思い出になるだろうと思っていた。思い出すのは俺を打ち負かした啓太の笑顔だったのだ。
清々しいほどの笑顔を思い出し、俺はポカリの粉を直飲みした。
むせる俺。むせかえるような夏の日の出来事だった。

ーーー

そういえば、あの時の迷子センターは結局何だったのだろう?もう場所も思い出せない。だけど俺にとって大事な記憶を手繰り寄せてくれたのは、あの場所だ。

俺は、啓太の抜け落ちた写真をポケットに入れる。もう、俺は迷わない。

応援のコールが鳴り響く。
バッターボックスが待っている。




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作者 ばちんこ/少年/人外/ぱりぱり
使用ツール:オンラインじゃれ本
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