【凡人が自伝を書いたら 42.尾張の半島(前編)】
はんなり。
ほんのり。
ほう。これが「半島」というものでございますか。
。。ふつー。
特別感など全く無い、普通の田舎だった。
名古屋の市街地から車で20〜30分の距離にあるこの町は、住宅が多く、田んぼもある、のどかな街だった。
ふむ。まあ、俺にはこのくらいが丁度いいな。
都会の出身ではなかった僕は、そんなことを思っていた。
「期待値低め」
7月の下旬、地元の公民館で、ミーティングが開かれた。
店長を務める「安井」とは、研修以来、約1年ぶりの再会だった。
「おー安井!久しぶりだなあ!元気してたかー!?」
「お、おう。」
む?
そうだった。
久しぶりすぎて、忘れていた。
俺と安井はそんなに仲が良くなかったではないか。
てか、二人で話すことなんて一度も無かったではないか。むしろ、最後まで「安井」は、どちらかと言えば「俺を避けてる系」だったじゃないか。(どんまい)
しまった。出だしをミスってしまった。
ミーティングの内容を片耳で聞いていると、(ちゃんと両耳で聞け)本社からの売上予測では、この新店舗は「売上低め予想」らしい。
「どうしてそんなところに、店開けるんでございますか?」と思ったが、僕のようなお子ちゃまには分からない「大人の事情」があるのだろう。
ともかく、売上低めということで、社員も従来より少なめ「7名体制」での、オープンが決まっていた。小規模に、ひっそりとオープンさせるつもりのようだ。(そんなオープンがありますか)
メンバーは、店長の安井に僕らオープンチームを加えた4名に、後ほど新入社員の「長川」と「小山」、もう一人、「犬塚」さんという、おじさん社員を持ってくるとのことだった。
なんだ、それじゃあ、ほとんど同じメンバーでオープンさせるのか。まあ、それはそれでやりやすいか。そんなことを思っていた。
「更なる洗練」
同時に前回の成功点と課題点を洗い出し、研修内容にも更なるブラッシュアップをかけた。その他、オープンまでに準備するものや、流れなどを資料にまとめていった。
これが、この時から始動した、「別のオープンチーム」にも共有され、これがスタンダードとなった。僕はエクセルで簡単な書類作成くらいはできたので、この際は結構、役に立った。自分が作った資料が、他のチームでも使われるということは、少し誇らしいことでもあった。
僕、個人としても、さらに分かりやすい伝え方はないか、スタッフさんが自立して考えられるようになるには、どのようなことを教えれば良いか、もっと効率的で効果的な教え方はないか、そんなことも改めて考えた。
「不穏な空気」
トレーニングは極めて順調に進んでいた。
よしよし。順調、快調、絶好調。。(韻を踏むな)
ん?
どうやら、店長の安井と弘信リーダーの二人の方から、不穏な空気がする。何だか、こう、うまくいっていない感じがする。
初めは些細な方針の違いから、それは始まった。互いに頑固だから譲らない。表面的には弘信リーダーがあれこれ言って、言い負かしている雰囲気だったが、店長の安井は全く納得していなかった。
「俺の店なんだから、俺のやり方でやらせてくれよ〜。」
なんてことを漏らしていた。
「あ〜、こりゃいけないなぁ〜。」
公康さんもすぐに気がつき、心配していた。
聞けば、弘信リーダーは切れ者で口が達者なゆえに、一度こうと言い出したら聞く耳をもたない、そんな頑固な一面があるようだ。(ここがクセ)
店長の安井の方も、なんだかんだ言って、言い返している。お互いに頑固者同士だった。
接客の新人スタッフからは、
「店長と、リーダーの言っていることが違う。どちらが正しいか分からない。」
みたいに混乱する声も聞こえていた。
互いに、「やったやらない」の言い合いも始まり、教育もなかなか進んでいなかった。
自分なりの「こだわり」のようなものは、確かに仕事の質を高めるかもしれないが、こういう問題も起きるものだ。
そんな様子を見て公康さんが、
「うーん。しゃあない、ちょっとフォローすっか。お前、接客教えれる?俺、あっち、あんまり完璧ってわけじゃなくてさ。」
「え、俺ですか?まあ、いけますけど。三重の新店じゃ、接客リーダーでしたし。」
「お、そうだった。じゃあ頼めるか?」
「了解っす!」
僕らは調理の方のトレーニングの計画を練り直し、僕抜きでの計画に変更した。
「あの〜弘信さん。調理の方、結構トレーニング進んでて、俺、余っちゃって。よかったら、接客の方に回りましょうか?ほら、接客の方がスタッフ多いですし。」(気遣い)
「安井。調理の方、もう結構トレーニング終わっててさ、俺、暇になっちゃったから、接客の方もみようか? 基礎的なところやったら、俺も教えられるからさ。」(同期にも気遣い)
「うまいこと」を言って、二人からは快く了解を受けた。
実際に接客の方に回ってみると、確かに二人は細かいところで、お互いに違うことを言っていた。マニュアル外の細かい点である。
よくよく聞いてみると、どうやら店長の安井は、自分の店なのに自分以外の誰かが主体となって、決定権を持っていることが気に食わないようだった。
なるほどな。確かにそれはそうだ。
あくまでトップは店長。僕らは店長の補佐だ。こちらの方が良いってことも、勝手に決めるのではなく、あらかじめ話を通しておくべきだ。店長と僕らの教育が統一されていることも、スタッフのみんなにとっては大切なこと。マニュアル外のところは店長に確認する。
オープンチームとしては、そんなスタンスが必要なんだろうな。
そんなことを思っていた。
「磐石と余裕」
仕事上は対立していた二人も、プライベートではそれなりに仲が良かった。それぞれが、スタッフとも良好な関係を築いており、細かい対立はあるものの、店全体としてはなかなか良い雰囲気になっていた。
接客のトレーニング状況も、僕が入り、トレーナーが一人増えたため、調理の方に、追いついていた。オープン1週間前には、いつオープンしても問題無いくらいの状態になっていた。
前回の店舗はまだ、手探りであったため、直前までバタついていたが、今回はその時の経験や、作っておいた資料のおかげで、かなり余裕があった。
オープン2日前のトレーニングを昼で切り上げ、前日は休みとした。前回では考えられない余裕だった。それほどに良い状態まで持っていけていた。
オープン2日前の昼過ぎから、僕らオープンチームの3人と安井店長の4人で、半島の海際にある、少しお高めの旅館に、「プチ旅行」に行った。
部屋から海の見える、綺麗で高級感のある旅館だった。
一丁前に浴衣を羽織り、新鮮な海の幸を味わった。
「やっぱ、肉より魚ですよね!ええ。」
「おー、味噌カツって、うまいなぁ〜。やっぱ肉も良いなあ。」
とりあえず全部、旨かった。(雑)
部屋には露天風呂まで付いており、眼下には海も拝めた。正直、暗くてよく見えなかったが、なかなかに良い気分だった。
僕らは風呂上がりに買い込んでいた酒とつまみを飲み食いしながら、しょうもない話に盛り上がった。男4人。こんなの大学の卒業旅行以来だ。社会人になって、こんなことをするなんて思いもしなかった。
思う存分旅行で英気を養った僕らは、次の日は明日に備えて、家で休んだ。
名古屋って、都会とヤクザばかりのイメージだったが、(偏見)こんなところもあるんだな。
そんなことを思っていた。
つづく
お金はエネルギーである。(うさんくさい)