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青松花歩
2022年3月29日 17:08
NNテレビのパン王座決定戦で優勝したパンロンドは新商品の牛すじカレーパン「カレーパンロンド」が爆売れして連日大忙しの日々を送っていた。店の奥の工場では田所修造がカレーをどんどん仕込み続けていた。「杉本、玉ねぎ追加ね」「はい」杉本龍樹(たつき)は慣れない手つきで玉ねぎをカットしてフードプロセッサーに入れ続けていた。涙が滲み出る。玉ねぎの後は分割丸め、その後はカレーを包む。液を
2022年3月27日 03:04
江川は機械がなくなった責任を感じてスタジオ前の長い廊下で膝をがっくりついていた。「僕がもっとちゃんと見ていればこんなことにならなかったのに。修造さんごめんなさい」また半泣きになっていると田中が走ってきた。「江川く~ん!これじゃない?」「あ!それです!」箱の中身を見た!佐久間シェフは冷や汗を拭きつつデザートの説明をしていた。「オレンジを使ったパネトーネにシナモンたっぷりのりんごとアイ
2022年3月25日 18:55
「修造さん!大変です!あの機械がありません!」「えっ!ちゃんと用意できるように紙を渡したろ?」「確かに用意して車に積んだのを覚えています!」2人は自分達のテーブルの周りをよく探した。「無い」江川が半泣きになってきた。「どうしましょう修造さん」その時安藤が叫んだ。「お次はもう3品目ですね!何が出てくるのか楽しみです!それでは作って頂きましょう!」画面に修造と佐久間が交
2022年3月24日 15:55
観客席ではどんどん人が増えてやがて満員になった。ざわざわする中、審査員5人が着席して、司会の安藤良昌も出てきた。緊張が込み上げてくる。安藤がカメラに向かって話し始めた。「さあ!始まりました!パン王座決定戦。いよいよ決勝戦になりました。ここで審査員席の皆さんの紹介をしたいと思います。まず1番右が赤いドレスの印象的な女優の桐田美月(きりたみつき)さん、お隣が文化人の有田川ジョージさん、原料
2022年3月23日 20:53
修造は家に帰って黙って部屋に入って来た。「修造おかえりなさい。お疲れ様~」律子が台所からでてきた。「どうだった今日」「佐久間チームと決勝に出る事になったよ」修造はソファに座ってふ~っと息を吐きながらもたれた。律子は隣に座ってネットでブーランジェリーサクマについて調べた。町のパン屋さんで修業後、3年間フランスで勉強。ホテルのベーカリー部門でブーランジェをしてから開業。店の評価
2022年3月21日 20:55
さて、300人のお客さんは行きたいパン屋のパンから食べて行き、4種類のパンの中から1番と思うものに投票していった。今のところ佐久間チームが圧倒的に人気。そろそろ終盤、パンロンド田所チームのブースでは修造が丁寧にカレーパンを揚げ続けている。修造のカレーパンは衣がカリッとカレーはトロトロとスパイシーで牛スジがトロリプリンとして最高だった。 それを食べた人達はたとてお腹一杯でも牛すじカレーパ
2022年3月20日 08:51
次の日、サクい食感の生地にスパイスを馴染ませたカレーペストを包み、真ん中に牛スジを包んた。それを水溶きの小麦粉と米粉を配合したペーストに潜らせてローストしたパン粉をつけた。パン粉は親方自慢の山食パン「山の輝き」をローストしたものだ。カレーパンを揚げて「親方これ、食べてみて下さい」と渡した。「うわー!美味い!」「このカレーを持って2回戦に挑みます!」修造は2回戦の前の日、30
2022年3月19日 16:26
ディレクターの四角は控室で4軒のチームを集め「お疲れ様でした。次は4軒のパン屋で人気対決をしていただきます。各店舗のブースを設けます。機材はこちらで用意するので何を作るのか考えてください。材料費はウチがお支払いします。出す品は各店舗1品ずつ」四角は説明を続けた。「お客さんの数は300人。皆さんに4店舗の名前が書いてある紙を持って頂いて美味しかった店を決めて、投票所にある各店舗の投票ボックス
2022年3月17日 18:45
スタジオは広くてセットのところだけ凄くライトアップされていた。「セットの裏側ってベニヤ板なんですね〜」江川が嬉しそうにあちこち見ている。スタジオのセットはクイズ番組でよく見る1番から6番のマークのあるブースに仕切られていて、2人は3番のマークのところに案内された。「このボタンを押すんですね。早押しなんでしょ?」「そうらしいな」ピンポン!江川は赤い丸いボタンを押す練習を始めた。な
2022年3月15日 14:35
下町の商店街にあるパン屋のパンロンドは今日もお客様が絶えない。お客さんがパンを買って帰ったらまた次のお客さんが来る。大人気のとろとろクリームパンを成形しながらパンロンドの店主柚木(通称親方)は仕込み中の職人田所修造を見て思っていた。修造が修業に行っていたドイツから帰ってから急にやる気に満ち溢れた職人が増えてパンロンドは爆上げになったな。あいつは本当に大したもんだよ。律子さんと緑ちゃ
2022年3月14日 15:51
一方、隣の裏庭では修造が缶コーヒーを杉本に渡していた。「暴れたら喉が渇いたな。」空き家のペンペン草が沢山生えた花壇を囲っているブロックに腰をおろして一緒に缶コーヒーを飲みながら「少し落ち着いたか?」と聞いた。杉本は何も言わずに黙っていた。修造は話し始めた。「多くのパン屋が『何人かが狭い空間で働いてる』んだ。その全員がメインのシェフの意思通りに動かなきゃならないと俺は思ってる。勝
2022年3月12日 15:55
修造は杉本のパンチをかわして刻み突きして相手の胸を押して距離を取る動作を何度か繰り返した。その後杉本の左手からのパンチを肘を曲げて右に巧みにかわして背中が空いた瞬間後ろに重心をかけて裏回し蹴りを入れ、そのまま左のつま先の内側を引っ掛けて倒した。「うわっ!」素早く杉本の背中に乗っかり動けなくすると、杉本は背骨の中央をロックされ、手も届かず足で蹴ろうとしたが修造の足で防がれている。
2022年3月9日 18:41
次の日、修造と江川は大量にシュトレンのフルーツを洋酒に漬け込んでいた。フルーツをボールに入れ、洋酒を多めに回しかける。スパイスを足してそれをタッパに入れて倉庫の涼しいところに置いていく。秋11月頃になると段々洋酒が染み込んで熟成されたフルーツをシュトレンに使うのだ。シュトレンはドイツではクリスマスの時期に様々なお店で売られている。クリスマスを待つ4週間にアドヴェントという期間があり、少
2022年3月7日 22:04
このお話は『初めての面接』の続きです。18歳になったばかりの江川卓也は、修造と面接の時約束した通りに高校を無事卒業して、北国から関東の商店街にあるパン屋のパンロンドにやって来た。入社してからはずっと先輩の田所修造と組んで毎日仕事を教えて貰っている。「修造さーんおはようございまーす」「よお」明るく爽やかに挨拶した江川に対して言葉少なに修造が挨拶仕返す。これが江川の毎朝の始まり