パン職人の修造7 江川と修造シリーズ 新人の杉本君 Baker’s fight
修造は杉本のパンチをかわして刻み突きして相手の胸を押して距離を取る動作を何度か繰り返した。
その後杉本の左手からのパンチを肘を曲げて右に巧みにかわして背中が空いた瞬間後ろに重心をかけて裏回し蹴りを入れ、そのまま左のつま先の内側を引っ掛けて倒した。
「うわっ!」
素早く杉本の背中に乗っかり動けなくすると、
杉本は背骨の中央をロックされ、手も届かず足で蹴ろうとしたが修造の足で防がれている。
まだ修造に蹴られた背中が痛い。
「うぅ、、」
背中をさすりたいがそれもできない。
可哀想だと思ったが、このまま手を離すとこっちがやられる、修造は左手で杉本の顔を抑えた。
「動けないだろ?」
「くそっ!」
そして杉本の耳元で言った。
「俺は空手の師範について色々教えて貰ってたんだ。道場では師範の言う事は絶対なんだよ!」
杉本は寝不足の疲れもあって暴れるのをやめた。
「観念するなら離してやる」
そう言って修造は立ち上がった。
こいつもう攻撃してこないだろうなあ。
そう思って少し離れて杉本を観察した。
負けたのがショックだったのか座り込んでしょんぼりしだした。
「杉本、ちょっと待ってろよ」そう言って近くの自販機に向かった。
その頃江川は仕込みを終え、いっこうに戻ってこない修造と杉本が気になって倉庫を何度か覗いたりした。
「親方、修造さん達どこ行っちゃったんですかね?帰ってきませんね〜」
「大丈夫でしょ。それよりどう?仕事は慣れた?」
「はい、僕ここに来て人生が変わりました。とても良い先輩に恵まれたし。楽しいです」
「そう、それは良かった」
「親方って修造さんをめちゃ信頼してますよね」
「宝物だね」
僕のね、と江川は思った。
親方は続けた。
「俺は修造に会ってから少し考えが変わったんだよ。それまでは諦めと言うか、職場も人の出入りが激しかった事もあって自分1人がしっかりしなきゃって思ってたけど、ああいう信頼できる奴がいるのは良いもんだよね」
「心がしっかり繋がってるんですね」
江川と親方は目を合わせてニコッと笑った。
「あいつがドイツから帰ってきてパン職人としての格が上がってるのを見て俺は思ったね。多分あいつはどこに行って何をやっても上手くいくんだろう。人から教わったものを自分のものにして更に上に押し上げていける奴だよ」
うんうんと江川はうなずいた。
つづく
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