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パン職人の修造6 新人の杉本君 Baker’s fight 江川と修造シリーズ
次の日、修造と江川は大量にシュトレンのフルーツを洋酒に漬け込んでいた。
フルーツをボールに入れ、洋酒を多めに回しかける。スパイスを足してそれをタッパに入れて倉庫の涼しいところに置いていく。
秋11月頃になると段々洋酒が染み込んで熟成されたフルーツをシュトレンに使うのだ。
シュトレンはドイツではクリスマスの時期に様々なお店で売られている。クリスマスを待つ4週間にアドヴェントという期間があり、少しづつスライスして食べていく。
漬けこんだフルーツをたっぷり入れて作ったシュトレンはひと月ほど置いておくと生地にスパイスとフルーツの風味が移り格段に味わいに深みが増す。
薄くカットして食べながらクリスマスを心待ちにして過ごす。
「修造さん、僕シュトレンって食べたことないです」
「そうなのか江川、出来たらすぐに試食して同じものを何週間かしてから食べたら熟成していて全然風味が違うのが分かるよ」
「楽しみだな~」
仕込みながら江川はチラッと杉本を見た。
杉本君、今朝は凄く眠そうで成形しながらうとうとしてる。
「杉本君眠そうだね」
前に立って仕事している親方が声をかけた。
「昨日夜遅くて」
「朝早いんだから早く寝ないとね」
「いちいち言わなくても分かってますよ」
杉本は少し声を大きめに言ってしまった。
あ、今修造さんが杉本君をロックオンした。めっちゃ観察してる。
「江川、これ一人でやっといて」修造は洋酒のボトルを江川に渡した。
「はい」
「おい、ちょっと来いよ杉本君」
修造はなるべく爽やかに言ったが元々爽やかなキャラでもないし、目力による圧力が凄い。
修造は杉本を店の裏にある倉庫の外に連れて行った。
「お前どうしたんだあんな言い方して。親方も先輩の紹介で入ってきたお前を無下にはできないだろ?それともあれか、まだお子様だから反抗期で親方に偉そうに言ってんのか?」
そう言った修造に杉本は切れた態度を取ってきた。
「反抗期ってなんだよ!ガキじゃねーんだよ」
「パン屋での仕事は初めてなんだろ?前は何やってたんだ」
「俺はボクシングやってたんだよ。なんなら絞めてやろうか?先輩さん!」
こいつなんでこんな反抗的なんだ、、
こんなんでよく、他所で働こうと思ったな。
「やれるもんならやってみろ」
そういったものの修造は思った。
しまったな、ここで喧嘩してもし騒ぎになったら店に迷惑がかかる。
そうだ、、隣の空き店舗の裏なら目立たないかも。
パンロンドの隣の空き店舗の裏には庭がある。木材の塀で囲われており、朽ち果てた花壇と枯れ木がある。そこはよく野良猫の溜まり場になっていた。
2人が倉庫の裏口から出て、隣の塀の隙間から入ると、野良猫達が一目散に逃げて行った。
野良猫達を見送ったあと、2人で対面で立って睨み合った。
修造は上着を花壇を囲っているブロックの上に置いてピョンピョンと飛び跳ねた、首を左右に振りフッフッと息を吐きながら肩を上げ下げした。学生時代真剣に向き合っていた空手の試合前にそうやってから気持ちを上げるのを思い出した。
杉本は携帯で誰かに電話しだした。
「今から偉そうな先輩さんを絞めて店の裏の壁に張り付けるから来てみろよ」
そういって電話を切った後、脇を締めて修造を睨みつけた。
こいつ拳で攻撃してくるな。
いつでも前に後ろに動けるように足取り軽く動いた。
拳の速さで勝てるか分からないから蹴りで足とか攻撃するか。。
修造はなるべく狙う予定の方を見ないように杉本の顔をみた。
2人とも相手の隙を伺っている。
杉本の目を見ながら、そうだ、先に攻撃させなきゃ正当防衛にならないな。と思った時、杉本が初めのパンチを仕掛けて来た。
修造は左手で顔をガードしてわざと杉本の拳を腕に当てた。
「いたたた、お前が先に攻撃して来たんだからな」
修造の言い方がわざとらしく、杉本は頭に血が上った。
「舐めんなよ!」
つづく
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