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英国流ロイヤルティ(Loyalty)とは何か? N67

 かれこれ20年以上前のことだが、ロンドンに留学をしていた時に授業中にLoyaltyという単語が出てきた時に「日本人にはわからない単語だから説明してあげよう」とやっぱり半ば意地悪で先生は言った。他の学生はみんなヨーロッパ人で私だけが日本人だった。  

 「ロイヤルティというのは同じブランドを使い続けることだ」と先生は言った。しかしそれは自分にも理解はできた。「英国では子供の頃に最初に使った歯ブラシのブランドを生涯にわたって使い続けるのが一般的だ。それをロイヤルティと言うのだ。日本人はコロコロ毎回のようにブランドを変えるのでロイヤルティという概念はないのだ」と先生は続けて説明した。  

 「人生で1度か2度くらいブランドを変えることはありますよね?」と私は質問した。「いいえ。ずっと同じものを使い続けるのが心地よいと感じるのだ」と先生は答えた。私は周りのヨーロッパ人の顔色を見たがそれほど驚いた様子はなかった。  

 1990年代のヨーロッパと英国は貧乏な印象が残っている(今はリッチに変貌した)。古いけれども良いものを使い続ける、それが彼らのプライドのように思えた。そして日本人に対する批判は文化を知らない未成熟な国民に対する嫉妬まじりの嫌味のようだった。それは今の日本人の中国人に対する姿勢によく似ている。まさにシャンゼリゼやボンドストリートは爆買いする日本人で溢れていたように。  

 このロイヤルティは海外でB2Bの仕事をする中でもしばしば感じることがある。彼らは一度契約をすると別の取引先に切り替えることはほぼない。文句はしばしば言うのだが、不満があろうが取引先を変えようとしたり、変えると言って脅したり値引き交渉したりすることはしない。  

 したがってビジネスをする時に既に先客がいるかどうかを確認しないと全くの徒労に終わるので、最初に確認するようにしている。逆に言うと最初に取引をしてしまえば持続性があるので先端的なプロダクトやサービスを提案をしてゆっくりと育てる方法で顧客ライフサイクルを組み立てていく。  

 とはいえ契約の解約は案外多い。特に多い理由は責任者の交代だ。ボスが定年で引退して新しいボスに変わると総入れ替えみたいなイベントもしばしばある。政権交代と同じ理屈だ。日本では信じられないかもしれないが政権交代が起きると官僚も一緒に辞職することになる。その辞職の前にやることが調査した資料を全て抹消することだ。次の政権に一切情報を渡さないためとのこと。  

 この英国流のロイヤルティを知って20年が経つが未だ完璧に身体的に理解ができていない。よく海外生活が長い日本人とこの話をして理解を相互に努めているのだが。そんな私もロイヤルティを実践している。ワイシャツはずっと同じブランドをかれこれ20年以上着ている。ロンドンでその話を聞いたのを機にロンドンのジャーミンストリートにあるワイシャツ屋に決めてずっと着続けている。国内外転々と引越しを繰り返した私に対しても毎年夏冬にセールのオーダーの案内が届く。昨晩もちょうどサマーセールの案内が届いたところだ。 

 ロンドンは特に2000年以降景気が良くなり今では当時の英国病と揶揄された少し薄暗いイメージが創造的ないほど活気付いた。そんな今の若い人たちもロイヤルティの概念を持ち続けているのか尋ねてみたい。

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