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生産性と国土 N107

 最近ますます働き方改革で生産性についての議論をよく見るが、精神論的な働き方への批判ではなく、生産性を支える土台となっている国土という点で考えて見たい。  

 古くは和辻哲郎が指摘した風土の通り、日本はモンスーン型に属し、農産物を高い生産性を持って生み出すには土壌はあまりよくない(1*)。一方で高い生産性の先進国の多くは欧米圏であり、彼らは牧場型に属する。白人が住んでいる国は地域によってもちろんまちまちであるが人口が集中する地域はやはり牧場型である。

 農業は第一次産業に属するため生産性が低い産業と錯覚をする日本人は多いのではないか?と個人的に感じるところがあるが、アメリカやフランスは農業で高い国際競争力を持ち、輸出品目の代表格である。小麦や牛肉にワインと言えばやはり先進国の彼らが強い(もちろんチリワインも美味しいし、アルゼンチンの牛肉も悪くないが)。  

 オーストラリアでは牛肉はGrain-Fed Cow(穀物で育った牛)とGrass-Fed Cow(牧草で育った牛)を分類して販売されている。日本ではGrainが主流でほとんどが穀物を食べて育っており、脂肪分が多く臭みがないのが特徴だ。一方、Grassはオーストラリアでは主流で赤身肉のやや臭みがあるのが特徴だ(臭みは牧草を食べることが原因とのこと)。  

 日本で何故Grainが主流かと言えば、脂身の肉が好きだからではなく、牛を育てるだけの牧草地が確保できないというのが実情らしいとオーストラリアの食肉業者に伺った。牧草地は広大な土地にほどほどの牧草が恒常的に何も手をかけることなく育つ必要がある。しかし、日本はそのような土壌がないために牛の餌を穀物にせざるを得ないとのことだ。ご存知の通り穀物とは炭水化物でまさに牛を太らせるにはもってこいではあるが、あまり健康的ではないのは明白だろう。挙げ句の果てにはビールを飲ませてマッサージまでして霜降り肉は作っているのだから。  

 つまり日本は土壌において圧倒的に不利な条件で国際競争を戦っているのだ。昔、社会科の授業で「加工貿易」というモデルを習ったが何かを人間の手で生産しない限り何も生まれないといことを潜在的に理解していたのかと思う。 

1*) 和辻哲郎、「風土」 

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