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映画『ホビット』EE版考察(二周目)

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主人公側から観てしまうと分かりにくい裏ストーリーを主観的合理性とリアリズム(IR)の観点から掘り下げる。全11回。考察一周目⇒ https://www.nicovideo.jp/… もっと読む
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#11 トーリンもスロールも ”竜の病” ではない──おうのおしごと

では最後にドワーフたちを掘り下げてくね。 王の器ここまで、散々悪いイメージを振りまいてきたスランドゥイル、国家の敵となったギリオン、同族殺しのカードを切ったエルロンド、土下座外交のエスガロスの統領、と自分の肩に多くの命が掛かっていればこそ、なりふり構わずまい進する国家のリーダー揃いだった中、トーリンの多罰傾向はとても目立つね。 【拙訳】 トーリン「食べる物も住む所もなく助けが必要だった時に貴様は背を向けた。苦しむ我ら民族と火炎地獄から逃げだした! 貴様こそ竜の炎で焼け死ぬ

#10 ガンダルフと呼ぶレゴラス ミスランディアと呼ぶスランドゥイル──その情報はいつ?誰から?どうやって?

全てが終わって冷静になった時、レゴラスはやっと自分がやり過ぎてしまったことに気付いたところから第10回目。 【拙訳】 レゴラス「森へは戻れません」 タウリエルが追放なら自分も同罪であるとね。そして国王にその息子を追放させるようなことはしなかった。あくまで自分が先に王子としてレゴラスというエルフを追放した(そういう権限があるかは別として)。父にとって自分がどれだけ大切な存在かよくよく知っていたから。 【拙訳】 レゴラス「父上に伝えてくれ。タウリエルに居場所がない国なら、私

#9 タウリエルは森の向こうで何を見たか──ネオリアリズムの世界観

さて第9回の今日は映画の現在軸に戻って。 赤ん坊はパパの心配をよそにすくすくと育ち、今や守備隊を率いて蜘蛛退治──と思いきや、国王に報告にきたのはレゴラスではなくタウリエルだったね。 『命令一元性の原則』ってのがあって、直属の者をすっ飛ばして命令や報告は出来ない。もしタウリエルの上官がレゴラスなら、レゴラスが国王に報告する。レゴラスをすっ飛ばしてタウリエルが国王に報告することは出来ない。また国王もレゴラスを介さずに、直接レゴラスの部下であるタウリエルに命令することは出来な

#8 王子として生まれてくるということ──グンダバド攻めの時レゴラス何してた?

当考察も第8回目。久し振りにもう一度確認。第2回の時に宣言した通りこの考察では時系列は無視していくよ。 原作時系列ではアングマールとの戦いが終結した頃、レゴラスはもう4ケタ歳なはずだけど、ここ以外にも色々時系列合わないとこあるからね。 【拙訳】 レゴラス「母はその戦争で亡くなったんだ。父はその時のことを話さない。お墓もない。記憶もない。何もないんだ」 キーリは生きて帰って新しい家族を母に会わせたかった記憶がないのは単純に考えて物心つく前だったから。 トールキンの設定では

#7 なぜ“黒い矢”は必要だったのか──スランドゥイルの虎の尾を踏んだギリオン

そんなわけで、ルールに従って淡々と掘り下げていくと、ちゃんと矛盾なく収まる。つまり弩砲(”風切り弓”と”黒い矢”)以外にも竜を倒す方法はある。 でも真似したくはない。 第7回目はじゃあ"黒い矢"の意義は何なのさ?ってとこ掘り下げてくよ。 そもそも”エレボール”こそ自国にバリスタを配備すればよかったよね。なのにバリスタは”デイル”にしかなく、ドワーフたちは剣や槍といった近接武器だけで対峙してた。「ウロコは現存するどんな鎧よりも硬い」と知っていたはずなのに。では逆にデイルが

#6 レゴラスの母の死 どこまで掘り下げられるかやってみた(後)──”黒い矢”以外で竜を倒すたった一つの方法

さて"闇の森"参戦の条件が揃った前回。第6回目はその続きから。 ここまで"北方の竜"の話は出てきておらず、エルロンドもガンダルフもスランドゥイルも、誰ひとりとして北方の竜を予見していなかった……のであれば一体竜はどこに? 竜の生息地は闇の森の「北方」にある。案外近い所に棲んでた。でもスランドゥイルは一度しか顔を突き合わせてない。一瞬で生物を焼き切るような怪物にあえてちょっかい出す必要ないもんね。それはグンダバドにとっても同じ。現実世界でだって野生動物とは棲み分ける。「エサ

#5 レゴラスの母の死 どこまで掘り下げられるかやってみた──"闇の森"はなぜ参戦したか?

さて第5回目は作中に全く登場しない人物。レゴラスの母の死はどこまで掘り下げ可能か限界に挑むよ! さて…死んだと聞かされているママのお墓がない。お墓がないのは埋葬する対象がないからで、ということは本当は生きてるか、遺体を回収できなかったか──。 【拙訳】 スランドゥイル「レゴラス…母さんはお前を愛していたよ…この世の誰よりも…自身の命よりも」 そう…つまり、レゴラスの母(闇の森の王妃)の最期…遺体を回収してあげられなかったのです。 【拙訳】 レゴラス「かつての敵だ。"ア

#4 全力でギリオンの名誉を回復する──定住民族vs移動民族 解り合えない私たち『デイル魂』

第4回目は"デイル"の話を。 デイルはスマウグが”エレボール”を襲撃した際、目と鼻の先の地理なために巻き添えになった隣国。エレボールだけがスマウグの被害者じゃないんだね。 【拙訳】 ビルボ「それは理不尽な死だった。スマウグにとって人間の街に価値はなく、その眼は別の獲物を捉えていたのだから。邪悪で貪欲な竜は金に垂涎していた」 なのにデイルは同情して貰えないばかりか、デイルの領主ギリオンが悪かったことにされている。 【拙訳】 統領「我らが忘れちゃいけないのはギリオンの不始

#3 魚を食べないなら川上から出て行け──闇の森とエスガロスの地政学『エスガロス魂』

それでは前回の続きから、映画『ホビット』EE版の考察。助けに来なかった者たちについて。 スマウグに襲われる”エレボール”を助けなかったのは、スランドゥイルだけじゃなかった。実際には同族のドワーフを含め、誰ひとりとして助けには来なかった。 人間たちの国”デイル”がスマウグに応戦したのは、あくまで巻き込まれた自国を守るため。 【拙訳】 ビルボ「それは理不尽な死だった。スマウグにとって人間の街に価値はなく、その眼は別の獲物を捉えていたのだから。邪悪で貪欲な竜は金に垂涎していた

#2 なぜキーリだけ命懸けの旅で恋に現(うつつ)を抜かしているのか──全ての登場人物は合理的に動く

第二回は、この考察の掘り下げ手法やルールについて触れながら表題を紐解いていくよ。このシリーズは映画『ホビット』EE版(エクステンデットエディション版)の考察だよ。劇場公開版の方ではないよ。そして原作の考察でもないのだ。 考察一周目も二周目も同じルールで掘り下げてるよ。 全ての登場人物は 主観的であり 合理的に動く主観的とは、それぞれ立場が違うこと。知り得る情報には限界があること。特に他者の心の内は知りようがないこと(相手の心は見えない)。 合理的とは、リスク及び損失を最

#1 何故スランドゥイルはエレボールを助けなかったか──前回言及しなかった最初に戻り考察二周目を始める

※映画『ホビット』EE版(エクステンデットエディション版)の考察です。劇場公開版の方ではありませんので注意! 読者が映画視聴済みであることを前提に執筆しています。 今回は、ここnoteで考察の第二段を語っていきます。 前回の考察では、首飾り”ラスガレンの白い宝石”を中心に、エルフ王スランドゥイルを掘り下げ、主人公側から観てしまうと気がつきにくい、スランドゥイル側の親子の物語を示しました。 前回の考察『スランドゥイルの首飾り』(※以下:考察一周目) この考察一周目では一