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  • 遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~

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経済についての議論が紛糾する理由:エネルギー的価値と形而上的価値

第1章 経済の根本はエネルギー 1.1 経済における定量と定性の二面性  経済を理解するとは、社会を理解するという事であるため、百家争鳴の状態になるのは当然である。経済についての議論が紛糾する理由として、そこに含まれる曖昧さを指摘できる。経済には定量的な面と定性的な面があり、そのような二面性が議論を複雑にしているのであろう。  学問の分類として文系と理系がある。例えば哲学や法学などは定量的である必要はなく、定性的でも可とされる。その一方で物理学や数学などは定量的である必要が

    • 正義の闘い:社会的欲求の機能と攻撃的言動の是非について

      1.1 概要現代の社会が抱える問題として、進歩派と保守派の間の確執がある。その点について何らかの答えを出そうとすると、究極的には正義について考える事を迫られるであろう。ただしより基礎的には個人の心理という観点から、またより一般的には社会の現象という観点から考察する事も可能である。 進歩派の興隆については、現代という時代の特異性にその一因を求められる。つまりそれをある種の現代病と見做し、その対処として、人間の心理的な特徴に基づいて、二つの点を指摘できる。 現状がいかに優れ

      • 「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」11(完)

        【11】 撮影の技術と倫理 効果的演出と詐欺的捏造は紙一重である。例えば釣った魚を大きく見せて撮影するという方法がある。手に持った魚を前方に突き出して撮影すると、大物が釣れたかのように見える写真を得られる。 釣り人の法螺話なら御愛嬌で済ませられるが、同じような方法が報道の分野でも用いられるのは看過できない。例えば小規模の崖崩れを広角で撮影すると、数十cmの石が大岩のように見える写真を得られるので、受け手に大災害のような印象を与える事ができる。報道する側はその種の写真を捏造

        • 「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」10

          【10】 広い画角と狭い画角の特徴 絵を描く場合、どの程度の画角を取ればよいのかという問題がある。広い画角を用いて描けば(視点から近い場所で見れば)、前後で大きさの差が強調されるような絵(遠近感の強い絵)を得られる。一方で狭い画角を用いて描けば(視点から遠い場所で見れば)、平行投影のような絵(遠近感の弱い絵)を得られる。 その二つのどちらが正しいかはどのような評価基準を用いるかによる。例えば設計図などには遠近感は不要で、主観的なもっともらしさよりも、客観的な正確さが重要で

        経済についての議論が紛糾する理由:エネルギー的価値と形而上的価値

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        • 「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」11(完)

        • 「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」10

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        • 遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~
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          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」9

          【9】 遠近法に関する二つの誤解 縮小拡大は直線的であるという考え方に基づいて図8-5を見たとすると、誤解が生じるかも知れない。図8-5のABの変化とEFの変化を比較すると、両者の間で変化の割合が異なるように見える。その事について、二種類のパースがあるとか、誇張されて描かれているなどの誤った解釈が取られるかも知れない。しかしすでに図8-3で示したように、画角は曲線的に変化する。視点に近い場所と遠い場所の間において、変化率が異なる事について、複数の種類のパースがあるというよう

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」9

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」8

          【8】 拡大縮小は直線的か曲線的か 遠近法において、対象物は距離に応じて直線的に拡大縮小するという見解は一般的であると言える。ただし「直線的に拡大縮小する」という言い方は表現として曖昧なので、より厳密に考える必要がある。多くの場合において、遠近法の解説で使われる図説には数字がほとんど書き込まれていない。そこに描かれている物は何mの大きさで、何mの距離にあり、何度の方位に位置し、何度の画角を占めるかの点が不明である。その辺りの曖昧さも、拡大縮小が直接的なのか曲線的なのか点が厳

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」8

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」7

          【7】 台形歪みの存在と三点透視図法の限界二点透視図法においては、平面の透視枠を垂直に用いているという事を述べた。三点透視図法においては、平面の透視枠を垂直にではなく、傾けて用いているという前提があると思われる。 高い建物を平面の透視枠に収めようとすれば、実践的な事情からは、透視枠を傾けざるを得ない。平面の透視枠を傾ければ、対象物が高い建物でも、上から下までを視野に収める事ができる(図7-1左)。それによって得られる絵は、上辺が短くなり、下辺が長くなって写るのであるが、その

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」7

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」6

          【6】 二点透視図法によって異常な変形が生じる理由 一点透視図法・二点透視図法・三点透視図法の三つについて、それらの方法の背景には、平面の透視枠を用いているという前提があると思われる。しかしその前提は暗黙的であり、多くの解説書でもその点は明示されていない。またその平面の透視枠を垂直に用いているのか、それとも傾けて用いているのかの点も明示されていない。 透視図法についての議論がややこしくなる理由は、その前提についての言及が無いためであろう。平面の透視枠を用いているという認識

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」6

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」5

          【5】 円形の絵から四角形の絵への変換普通、絵は四角形である。しかし半球を平面に投影する事によって得らえる絵は円形である。全体は円形で、しかも内部は歪曲している絵というのは奇妙と言えば奇妙である。円形で問題が無いならともかく、額縁に収めるなどをしたいなら、四角形の方が望ましい。なお星図のように円形の絵もあるので、その点はまだ許容できると言えるかも知れない。しかし直線の物が歪曲して描かれるという点には違和感を覚えるであろう。 ただし歪曲は必ずしも悪とは言えず、その点は良く言え

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」5

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」4

          【4】 半球の透視枠による実例半球に描いた線画を平面上に投影するという方法を用いると、外形は円形で、内部は歪曲した絵を得られる。すでに述べたように、それは五点透視図法と呼ばれている方法で描かれた絵と同じであろう。五点透視図法とは、遠くにある物は小さくなるという変化と、真上・真下・真右・真左の近く(より一般的に言うと半球の周辺部)にある物は変形するという変化を反映させる描き方であると言える。 なおそれはあまり一般的ではないらしく、「五点透視図法」でウェブ検索しても、それほど多

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」4

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」3

          【3】 様々な投影方法投影とは、半球上に描かれた線画を平面上に写すという事である。半球を紙の上に伏せて、その上から光を当てれば、線画の影ができる。光源の種類として、平行光源と点光源がある。平行光源を当てるとは、日光のような光を用いて垂直に投影するという事である。それは平行投影とか正射影と呼ばれている。点光源とは、ロウソクの火のような光である。点光源を用いる場合、それを置く場所の違いによって、得られる影の形は大きく変化する(図3-1)。 (図3-1) 平行投影によって得られ

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」3

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」2

          【2】平面の透視枠と半球の透視枠絵画史において、遠近法がいつどのように用いられたかは難しい問題である。ここではその考証には立ち入らないが、遠近法の実例として、ルネサンスの時期の絵画がよく引き合いに出される。その頃に透視図法についての幾何学的な理論が精緻になったようである。 図2-1はアルブレヒト・デューラーの『測定法教則』という技術書の挿絵である。そこで用いられている器具は透視枠とかデッサンスケールと呼ばれている。右の人物は文字通りに透視して対象物を描いている。そのような手

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」2

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」1

          <目次>【1】目にどう見えるかという問題と投射面にどう写るかという問題 【2】平面の透視枠と半球の透視枠 【3】様々な投影方法 【4】半球の透視枠による実例 【5】円形の絵から四角形の絵への変換 【6】二点透視図法によって異常な変形が生じる理由 【7】台形歪みの存在と三点透視図法の限界 【8】拡大縮小は直線的か曲線的か 【9】遠近法に関する二つの誤解 【10】広い画角と狭い画角の特徴 【11】撮影の技術と倫理 【1】目にどう見えるかという問題と投射面にどう写るかという問題遠

          「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」1