「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」6

【6】 二点透視図法によって異常な変形が生じる理由

一点透視図法・二点透視図法・三点透視図法の三つについて、それらの方法の背景には、平面の透視枠を用いているという前提があると思われる。しかしその前提は暗黙的であり、多くの解説書でもその点は明示されていない。またその平面の透視枠を垂直に用いているのか、それとも傾けて用いているのかの点も明示されていない。

透視図法についての議論がややこしくなる理由は、その前提についての言及が無いためであろう。平面の透視枠を用いているという認識が欠如していれば、それらの方法を用いて不都合な結果が生じても、なぜそのような不都合を生じるかを説明できないはずである。一方で、それらの方法には平面の透視枠が用いられているという事を把握していれば、不都合が生じる原因を特定できるであろう。

図6-1は二点透視図法を用いて高い建物を描いた絵である。二点透視図法を守って描かれているが、GとHとIが作る角が異常に尖っているために、違和感のある絵になっている。建物を見上げても、そのように鋭角には尖っているようには見えないはずであり、実際の印象とは懸け離れた絵である(ただしどう見えるか主観的な問題である。人によってはそれは不都合な変形ではなく、効果的な演出であるとして肯定的に取るかも知れない)。そのような現象が生じる原因について、平面の透視枠が用いられているという点と、その透視枠が垂直に用いられているという点の二つから説明できるであろう。

画像5(図6-1)

建物(三角柱の建物とする)と平面の透視枠と視点の三者を示したのが図6-2左である。そこでは、GとHとIから発せられる光は視点に向かってほぼ真上から投射されている。ほぼ真上から投射される光を垂直の透視枠を透かして見ている形である。そのような位置関係にあるため、GとHとIの三点が作る三角形が大きく引き伸ばされ、透視枠上において鋭角に尖って写るのであろう(図6-2右)。

画像5(図6-2)

光がほぼ真上から来ているのに、それを垂直に立てた透視枠で受けるという対応は不自然であると言える。例えば頭上の星座の形を記録する場合には、透視枠を水平に頭上にかざすのが普通のやり方であり、わざわざ透視枠を垂直にして記録する人はいないであろう。その点は善悪の問題ではなく、好悪の問題なので、各人がやりたいようにやればよいのであるが、多くの場合で前者のやり方が取られるはずである。

平面の透視枠ではなく、半球の透視枠で建物を見ているという状態が図6-3である。図6-3においては、GとHとIから来る光はほぼ真上から投射されていて、その光は半球の透視枠におけるほぼ水平の箇所を通過している。横方向から来る光に対しては垂直の面で受け、斜め方向から来る光をに対しては斜めの面で受け、ほぼ真上方向から来る光に対してはほぼ水平の面で受ければ、対象物の元々の形を変形させないで写す事ができる(図6-4)。ただし光を受ける面が球面なので、それを平面に投影すると歪みが生じる。

画像3(図6-3)

画像4(図6-4)

建物が低いまたは遠い場合には、つまり建物が小さい画角に収まる場合には、平面の透視枠と半球の透視枠の間に大きな差は無い。しかし建物が高いまたは近い場合には、つまり建物が大きな画角を占める場合には、平面の透視枠と半球の透視枠の間の乖離は顕著になる。そのような乖離が二点透視図法で生じ得る異常な変形の原因であるというように考えられる。

地図の作り方の一つに、心射方位図法がある。上記の話題と直接的な関係は無いが、形式としては似ているので紹介しておく。心射方位図法とは、投影面と接するように半球を置き、半球の中心から点光源によって投影するという方法である(図6-5)。その特徴の一つとして、半球の周辺部の形は著しく拡大されるという短所がある。

画像5(図6-5)

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