「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」8

【8】 拡大縮小は直線的か曲線的か

遠近法において、対象物は距離に応じて直線的に拡大縮小するという見解は一般的であると言える。ただし「直線的に拡大縮小する」という言い方は表現として曖昧なので、より厳密に考える必要がある。多くの場合において、遠近法の解説で使われる図説には数字がほとんど書き込まれていない。そこに描かれている物は何mの大きさで、何mの距離にあり、何度の方位に位置し、何度の画角を占めるかの点が不明である。その辺りの曖昧さも、拡大縮小が直接的なのか曲線的なのか点が厳密にされないという事に寄与しているであろう。

「直線的に拡大縮小する」について、「対象物の大きさは直線的に拡大縮小して透視枠上に写る」というように解釈すると、当然ながらそれは成立する。例えば道路の電柱は遠ざかるにつれて直線的に縮小して写る(図8-1)。しかし「対象物の計算上の画角は直線的に拡大縮小する」という主張は誤りである。計算上の画角は直線的に拡大縮小するのではなく、曲線的に拡大縮小する。

画像3(図8-1)

距離の遠近と画角の大小の関係について、例えば5メートルの電柱が視点から1メートル毎の等間隔で何本も並んでいるとして、それらの画角がどのように変化するかを計算すると、拡大縮小の割合を理解できる。それぞれの電柱が視野において何度を占めるかについては、電柱の長さと電柱までの距離から求められる。その種の計算をしてくれるウェブサイトや表計算ソフトを利用するなどして、その答えを出して、その結果を一覧表にすると図8-2のようになり、それをグラフにすると図8-3のようになる。

画像1(図8-2)

画像5(図8-3)

図8-3のグラフからは、画角は直線的に変化するのではなく、曲線的に変化する事が分かる。より詳しく言うと、視点から近い場所においては急激に拡大縮小するが、視点から遠い場所においては僅かな拡大縮小しかしない。例えば5本目の電柱は53.1度で、6本目の電柱は45.2度であり、その二本を比べると14.9%の縮小であり、顕著な差がある。一方で、例えば49本目の電柱は5.8度であ、50本目の電柱は5.7度であり、その二本を比べると2%の縮小であり、ほとんど差が無い。

計算上の画角がどう変化するかは幾何学の問題なので、正しい答えが存在する。図8-3で示したように、その正しい答えとは曲線的な拡大縮小である。なお図8-1の道路の電柱は直線的に縮小している。そのような直線的な変化と比べて、計算上の電柱の画角は曲線的に変化するという主張は矛盾するようである。しかし両者の間には条件の違いがあるので矛盾はしておらず、両者は共に有り得る。電柱は客観的に等間隔に立っているが、透視枠上においては等間隔には写っていない。視点に近い場所においては、二本の電柱の間隔は広いが、奥の方においては間隔は狭まっていくように写っている。

「直線的に拡大縮小する」という主張は文脈によって、正しいとも正しくないとも言える。その点について、人形を例に取って説明する。同じ大きさの人形を6体(AからF)用意して、それを一直線に並べると、それらは遠ざかるにつれて直線的に縮小していくように写る(図8-4)。その図は、電柱が直線的に縮小して写るのと同じである。図8-4においては、人形は客観的には等間隔に配置されている。しかし透視枠上においては、人形の間隔は同一ではなく、AB間はより広く、EF間はより狭く写っている。

画像4(図8-4)

拡大縮小が直線的に写るか曲線的に写るかは横方向の配置による。例えば人形の配置を変えて、視点からの距離を変化させないように横方向にずらし、透視枠上において、それぞれが等しい間隔で隣り合うように見える位置に置くと、図8-5のように写る。AとBを比較すると、非常に大きく縮小している。CとDを比較すると、中程度の縮小である。EとFを比較すると、ほとんど縮小していない。上記のような場合、直線的に縮小して写るのではなく、曲線上に縮小して写る。

画像5(図8-5)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?