「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」1

<目次>

【1】目にどう見えるかという問題と投射面にどう写るかという問題
【2】平面の透視枠と半球の透視枠
【3】様々な投影方法
【4】半球の透視枠による実例
【5】円形の絵から四角形の絵への変換
【6】二点透視図法によって異常な変形が生じる理由
【7】台形歪みの存在と三点透視図法の限界
【8】拡大縮小は直線的か曲線的か
【9】遠近法に関する二つの誤解
【10】広い画角と狭い画角の特徴
【11】撮影の技術と倫理

【1】目にどう見えるかという問題と投射面にどう写るかという問題

遠近法とは絵に遠近感を持たせるための技法の総称である。ここでは透視図法や線遠近法という意味で用いている。

遠近法についての解説書は数多く存在するが、それらの内容はいずれも大同小異である。その説明の仕方を要約すると、一点透視図法、二点透視図法、三点透視図法という三つの方法を用いて、どのような物でも描く事ができるというように書かれている。そのような説明については、実践的な有用さがあるとは言える。しかしそれらに対する批判として、画角という観点があまり考慮されていないという点を指摘できる。

画角とは視野の範囲の大きさである。この文章の題名は「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」であるが、半球を用いるとは、描写するにあたって、最大で180度の画角を想定するという事である。なお頻度は少ないようであるが、解説書によっては、五点透視図法という方法が紹介されている事もある。それはここで説明する方法と同等であるが、その場合でも画角という要素は注目されていないようである。

絵の技法について論じる前に、より根本的な事に触れておく。絵の描き方においては、こうすべきだというような決まりなどは無いので、各人が描きたいように描けばよい。漫画のように特徴を誇張するという絵もあるし、何が描いてあるか不明な抽象画もある。しかし多くの場合で写実主義の影響は強いようである。写実主義とは一言で言うと、対象物をあるがままに描くとか、見えるように描くという考え方である。しかし見えるように描くという方針は簡単なようで実際は難しい。

人間の目は限界や欠陥を持っている。視野の中で明瞭に物事を知覚できるのは中心部分だけであり、周辺部分はぼやけてあまりよく見えないという。また錯視を引き起こす事例は数多く知られている。

例えば明らかに大きさの違うように見える二つの机であるが、実は同じ大きさであるというシェパード錯視がある(このウェブサイトこの画像を参照)。また囲碁には白石と黒石があるが、その二つの大きさは同じではなく、白石の方が小さい。仮に同じ大きさだと、白石は大きく見え、黒石は小さく見えるため、それを防ぐために大きさに差がつけられている。またギリシアのパルテノン神殿の構造にも錯覚が反映されているという説がある。客観的にはその柱は垂直ではなく、また基部も水平ではなく凸形になっているという。人の目には大きな構造物は傾いたり曲がったりして見えるので、実物の方を意図的に歪めて作る事で、そのような錯覚を相殺するという狙いがあるらしい。

それらの例からも言えるように、外界の物が人の目にはどのように見えるかという問題は意外に難解である。ここではそのような主観的な認識論についてではなく、フィルムやスクリーンや紙などの投射面に光がどのように当たり、どのような形の像が作られるかという問題を考える事にする。

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