「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」4

【4】 半球の透視枠による実例

半球に描いた線画を平面上に投影するという方法を用いると、外形は円形で、内部は歪曲した絵を得られる。すでに述べたように、それは五点透視図法と呼ばれている方法で描かれた絵と同じであろう。五点透視図法とは、遠くにある物は小さくなるという変化と、真上・真下・真右・真左の近く(より一般的に言うと半球の周辺部)にある物は変形するという変化を反映させる描き方であると言える。

なおそれはあまり一般的ではないらしく、「五点透視図法」でウェブ検索しても、それほど多くの実例は見つからないが、英語で”five point perspective”で検索すると、より多くの作品を見る事ができる。それは”curvilinear perspective”とも呼ばれているらしい。日本語でも湾曲パースとか魚眼パースという用語があって、呼称は統一されていないようであるが、それらは同じ概念であろう。

魚眼レンズ付きカメラがどのように光を屈折させて撮影しているのかは難しい話になる。その内部構造を示した断面図があるが(このページ画像を参照)、その仕組みは複雑である。ここでは単純に、180度の視野の放射状の光の束が平行になるように屈折されて、平面のフィルム上に投射されているというように理解しておく。つまり半球に線画を描いて平面上に投影するという作業を、自動的に処理しているのが魚眼レンズ付きカメラであるというように考える事ができる。

魚眼レンズを用いた実例として、京都の伏見稲荷大社のような連続した鳥居を撮影をすると、興味深い写真を得られる(ここここここの写真などを参照)。それらの写真を見ると、中央付近の鳥居はほとんど変形しておらず、ほぼ四角形である。しかし周辺部分の鳥居は非常に大きく変形していて、丸く歪曲している。その歪みは樽型の歪曲収差と呼ばれている。

特に注目すべき点は、鳥居の縦の支柱と横の梁(正式な名称としては「貫」というらしい)が交わる角度である。写真の中央付近の鳥居においては、その二本はぼぼ直角に交わっている。しかし一番手前の鳥居においては、その二本は180度に近い角度で交わっている。一番手前の鳥居の縦の支柱は撮影者の真横の方向に位置し、横の梁は頭上つまり真上に位置する。そのような位置関係においては、撮影者からはその二本はあたかも一つながりの直線のように見えるので、その二本が交わる角度がほぼ180度になって写るというように説明できる。

一つの例として、万里の長城のような東西に延々と続く壁を描くとすると、図4-1のような絵になる。正面付近においては壁はほぼ水平であるが、全体的に見れば大きく歪曲している。そのような180度に近い画角を描く場合、平面の透視枠を用いたのでは全景を視野に収める事は難しい。一方で半球の透視枠を用いると、真右も真左も同時に視野に収める事ができる。なお、エッシャーの作品にも同じような絵がある(このページ画像を参照)。

画像1(図4-1)

具体例としては線画よりも写真の方がわかりやすい。カメラの愛好家が魚眼レンズで撮影した写真をネット上に公開しているので、そのいくつかを紹介する(ここここここの写真を参照)。細かい話をすれば、それぞれのレンズの特性や補正の有無などを考慮に入れる必要はあるが、それらの写真を見れば、魚眼レンズの性質がどのようなものか理解できるであろう。


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