見出し画像

The dreamers

 Bernardo Bertolucci(ベルナルド・ベルトルッチ)がこの世を去ってから早1年以上経っている。私はちょうど3回目の「孤独の天使たち」を見ていて「いまだ存命で70歳過ぎても映画を作ってる!次はどんな作品を作るのだろう」と鳥肌をたてていた最中、突然の訃報が入った。

 彼はパゾリーニの助監督を務めていたことも有名だが(あのパゾリーニ原案のデビュー作「殺し」も私は大好きだ。)パゾリーニとは父親が仲がよく、毎週日曜になると映画館に連れて行ってもらっていたそうだ。なんという環境だろう。

 本当にまず数としても大変な量を撮っているし、数多くの世界的名作を世の中へ輩出している。「分身」も「暗殺の森」も「ラスト・タンゴ・イン・パリ」も「ラスト・エンペラー」も。(全部好き!)映画を60年近く撮っているためか、作品によってかなりテーマやスタイルが異なる監督だと思う。高齢になってもなお、作品を作ることへの情熱を持ち続け、あくなき野心、またそのアイディアの多さには本当に恐れ入る。

 また早い時期から世界に認められていた監督であったためか、作品の多くは英語で撮られており、もしかしたら彼がイタリア人という認識が無い人も多いかもしれない。(一時期フランス語でしかインタビューに答えなかった時期もある)”The dreamers"は最後から二番目に撮影されたものである。俳優もイタリア人は出演していない。邦題は原題をそのままカタカナにした「ドリーマーズ」。どういう意味合いなのだろうか、「夢の中の人」なのか、「夢見る人」なのか、、、(英語では移民のことも意味するらしい)いずれにしても当たり前だが、とてもぴったりな題名だと、私は思うのだ。(知らなかったが、同名の小説が原案のようだ)この映画は簡単にいえば映画狂の若者たちのお話。ベルトルッチが映画ファンに送る映画のための映画と言えよう。

 時はフランスの五月革命。マイケル・ピット演じるマシュー(英語の名前は本当に難しい。このカタカナと音が全然一致しない)はパリの大学に通う米国留学生。映画フリークで、映画フリークのフリーメイソンのような秘密結社(と本人は表現する)に所属している。所属しているが仲間という仲間はおらず、いつも一人でシネマテークのど真ん中の席を陣取り「映写機からの一番新鮮な映像を浴びている」。ある日文化革命のデモの最中、イザベルとテオという美男美女の兄弟と知り合う。(※文化革命におけるシネマテーク擁護運動:シネマテークを創設したアンリ・ラングロワが当時の文化相により更迭されたことを受け、トリュフォー・ゴダールなどフランス映画界の名だたる人々が「シネマテーク擁護運動」に乗り出した。その当時の映像とともに、初老のジャン・ピエール・レオがカメオ出演し熱烈な映画信者に囲まれ演説を行なっている)映画オタクの兄弟と意気投合し、出会って2日目にしてマシューは彼らの家で同居することになる。

 このイザベルとテオというのがかなり現実離れしたキャラクターである。浮き足立っている若者といえばそれまでだが、デモなどに参加し社会のことを考えているようで、社会なんかに属していない悪戯な天使のようにも見える。そして兄弟にしては異常に仲が良い。あの美貌で(エヴァ・グリーンとルイ・ガレルなんて美しすぎる)二人で裸で一緒に寝たり、お風呂に入ったりするので近親相関的な関係を思わせる。(実際には二人とも子供のようなだけ。彼らの裸の姿はあの妖艶さにも関わらず、生まれたての赤ちゃんか天使を思い起こさせる)父親は著名な詩人、二人の子供にお金だけ預け、妻と二人でよく出張に出かけるので、家族関係も特殊である。テオに言わせると、彼らの父は無神論者である代わりに

「自分が神になろうとしている」

 そんな目線で見ると、イザベルとテオはまるでアダムとイブのようにも見えてくる。彼らは時にはいたずらが過ぎてどこまで本気なのかわからないが、とにかく純粋で無邪気である。(そもそも父と子のテーマはベルトルッチの根底にずっとある。また父親とイザベルの関係も微妙にセクシャルな部分があって、父親は娘に対して性欲のバランスを保つための、性奴隷的な役割も求めているようにも伺える。そんなに露骨ではなく無意識下で。)

 そんな彼らを現実に引き戻そうとするのが、マシューという存在だと思う。聖書の世界でアダムとイブをそそのかす蛇はまるで悪者のように描かれるが、ここのマシューは善意で彼らを現実という地に足をつけさせようとする。(あの透き通るような肌と、熟れたリンゴのような唇で。蛇って存在はなんだったのだろうか)

 所々に往年の名作映画ネタが出てくるので、映画ファンとしては見入ること間違いなし、あれ、もう一回みようかなとうずうずする。暗喩的映像の仕掛けも所々に施されており、(鏡や窓の使い方が本当にうまいカメラワーク)総合して「はあ、美しい・・・」と息がこぼれてしまうだろう。

 底辺に流れるものは「ラスト・タンゴ・イン・パリ」にも通ずるものがあると思う。パリはベルトルッチにそんな思いを起こさせるのだろうか。

(これはAmazon Primeにあってよかった!)



この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

イタリア映画特別上映会企画中です!あなたのサポートにより上映会でパンフレットが作れるかもしれません。もしよろしければサポートよろしくお願いいたします