誰に似たのか、おせっかい
小学生の頃の私は、かなりの優等生。私立の中学を受験、中高と一貫教育を経て、当然のように大学まで進みました。
また私の親戚一同も教育熱心な集まりで有名な大学出がほとんど。新聞社や大企業勤務が多く、22年前に私が勤めをやめ、小さな飲食店を立ち上げた時、言われた言葉が
大学まで出た挙句の水商売か。
実際に偵察に来た叔父からは
昼間っから酒も提供して(ランチビールです)カウンター越しにお客さんに媚を売ってるような店だった(常連のお客さんとの会話)
と一刀両断。
高知から手伝いに来ていた母が居心地悪そうに
全くねー、ほんとにこの子は。ちょっと話し過ぎるし、すぐ他人に親身になりすぎるとこがあって、誰に似たのかおせっかいなんだよねー。
確かに私の店は駅近だった(出口から30秒)ということもあり、仕事や買い物の行き帰りに寄ってくれる常連さんがいて、ついつい世間話が多くなる傾向にはありました。
叔父は母に命じます。
K子さん(母の名前)手伝いに来てるんだから、そういうお客さんと馴れ馴れしい店にならないように気をつけてよ。スナックみたいな店は親戚に持ちたくないよ。
叔父の言葉は私たち親子に重くのしかかりました。
叔父から注意を受けた母からスタッフに緊急ミーテイングの招集がかかります。
お客さんの話は聞いても良いけど、こっちから質問するのも反論もなし。話し込んじゃう元だからね。そうね、今日から私達は、うなずく壁になるのよ!ただし笑顔でね!
うなずく壁!
変わりましたよ、その日から。バイトを含めて4人の女性(私含む)いつものように常連さんがその日あったことや、上司の愚痴などを私達に話しかけますが、
はい、そうですね。
はい、困りましたね、はい、大変でしたね。
そう、私たちはうなずく壁です。
店が終わった頃にお客さんからメールが入りました。
何か怒ってた?
ああ、そう取る方もいるのですね、普段どれだけ喋っていたかがわかると言うもの。母にそのメールの件を伝えましたが、他人である以上、お客様のプライベートに入るのは良くないと、何度も念を押される始末。
うなずく壁条例制定からから2週間ほど経った頃、常連の女性がランチに来てくれました。もう3年ほど通ってくれていたので、私も母も顔馴染みです。
1時半を回り、他のお客さんは職場へと慌ただしく戻った頃、彼女が口を開きました。
•••••••こんな話をするのもどうかと思うけど、どうしていいかわからないから、話を聞いてくれますか。
やばい、これは重たい話だ←私の心 が、『はい、、』とうなずく←口。
・・・実は職場の上司と不倫関係が5年ほど続いています。
・・・黙ってうなずく私。
横で皿を洗っていた母が、こちらの微妙な空気を察し、会話を聞いているのがわかりました。これはまずい、親身になって口出ししたら、母から叱られる、、
緊張する私、
話を続けるお客さん。
もう何年も別れるから、と言われて我慢して来ました。ですが、先日彼の奥さんに癌が見つかり、そこから連絡が途切れがちで。奥さんが病気な時に無理を言ってはいけないのはわかるんですが・・・
どっひゃー!これは大変、これはなんて言えばいい、お客さん、もう涙滲んじゃってるし、でも私的なことだし、お母さんの視線感じるし、かける言葉なんて見つからないよ、、
どっすん
次の瞬間、軽く突き飛ばされました。
悪いのは男だからね!
黙っていられないとばかりに、口火を切ったのは母でした。
あわわわわ、私たちはうなずく壁だったはず。
母の勢いに驚いたのか、一気に声を出して泣き出してしまったお客さん。
涙ながらのお客さんの話を聞き、大丈夫、大丈夫、と言いながら、いつの間にかカウンターから客席に回っていますよ、
私の母さん!!
お客さんは泣き止んだ後に言いました。
これは友人には言えない話、でも誰かに話を聞いて欲しかった。そんな時に、この店を思い出したんです。そして今日、年上で経験がある人の言葉をもらえて、なんか安心しました。
物事は何にも変わってないけど、どうしようではなく、考えよう!と思えます。
お礼を言われて照れる母。
母の対応は彼女の心を動かしたようです。彼女はすっかり母が気に入り、母がシフトに入る日を選んで来るようになりました。
自ら壁を壊した母の言い訳としては、
壁は壁でも私達は、
お客さんの言うことを受け止めてあげられる
スポンジ製であるべきだった。
会話するって、時に
人を安心させることができるんだねぇ。
壁をスポンジ製にしてからの母は吹っ切れたように、自ら接客して回りました。
小さなお子さんを連れてランチに来た若いお母さん、母はオーダーされた食事をテーブルまで運ぶと、お子さんを抱っこして近所を一回りしてきます。ゆっくりご飯を食べて欲しいから、と。
園芸が得意な母にその手腕を聞いてきた方には、説明が面倒だからと高知から自ら育てた苗をを持参して、実物で植え方指導もしていました。
接客係として、オーバー70歳がカウンターに立つのはどうかと思いましたが、母は確実に自分のお客さんを増やしていきました。お客さん側としては、自分が普段接することのない年代の母には返って物が言い易かったんだと思います。
そしてある日、不倫していたお客さん(呼び方、すみません)が結婚するからと恋人を連れて来店しました。それも新しい相手を連れて。
彼女が本当にお世話になりました、と頭を下げたのは私にではなく母!
驚いて口が開いたままの私に母が返します。
私は知ってたけどねー。
全く、いつの間に。
あの時言った言葉をそっくり返してあげたいわ。
誰に似たのかおせっかい、
貴女にだよ!(笑)
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