そこは日本ではない、どこか遠くの国にある町。 自然が豊かで温かみのある町。 歩いて1周できるくらいのサイズのこぢんまりとした町。 そんな町の外れに、知る人ぞ知る小さな花屋があった。 町の人はその花屋を「フラワー アポセカリー」と呼ぶ。 「アポセカリー」とは薬屋という意味だ。 薬を置いているわけではない。 医者がいるわけでもない。 しかし、この町に病院がなくてもあまり困らないのは、この花屋がアポセカリーとして住民の役に立ってきたからだ。 今日も、そのアポセカリーに
クリスマスの夜 独り歩く私に 嫌というほどのクリスマスソングを 聴かそうとする街中は 私のことをより独りだと自覚させる イヤホンをつけるのも虚しい( むなしい )し、 かといって余裕の表情を浮かべるのも違う チキンにピザ、ケーキやアイスクリーム 閑静な ( かんせい ) 住宅街に連なる 無数のイルミネーション きっと家族で飾ったんだろうと思われる、 その 光たちを見ながら 自分には到底届かないような輝きだったり、 希望に少しおじゃまさせてもらうのだ そ
" 愛 " や " 情熱 " これは薔薇の花言葉、 そう赤い薔薇の他でもない 愛してる人に渡す特別なもの。 いまでも枯れない薔薇はきっと 貴方への枯れない想いを表しているのか、 どうか いまでも毎日丁寧に手入れを続ける私をきっと 貴方は知らない。 出会ったあの日のような輝きが出ていた 貴方はどこへ行くのでしょう…。
春は彼を連れてくる。 彼は、いつもコーヒーをブラックで注文する。 にっがいやつ。 にっがいやつを机に置いて、真剣にパソコンをカタカタ打つのだ。 陽の光が彼の横顔に差し込んで、それはそれは、 綺麗なのだ。 ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻ 一昨年。 初めて彼を見かけた時、私は高一で、バイト始めたてで、にっがいコーヒーを飲めなかった。 その黒い液体は、ただの闇でしかなかった。 春が夏に変わると彼は去っていく。 カフェのマスターの話による
〖つぶやき〗 " 色がもつ力 "を題材にしようと思いついたとき いつもは使わない英語に略すことにしました。 色がもつ力を " The Power of Colors " というそうです。 わたしがいつもとは違う文章を書こうと思ったのは、ある着物屋の女将がこう言ったからです。 「日本には色彩の文化があります。 着物を彩る色達に込められた古代からの思い。 その意味を知ることは、あなたの門出に鮮やかな 祝福を与えてくれるはずです。」 たしかに色にはそれぞれ力があるでし
高校3年生、これからの受験の日々を思い、僕はいつも不機嫌だった。 母の「行ってらっしゃい」の声を無視して学校に向かった。 母は、そんな僕でも向き合ってくれた。 母1人子1人だったことも大きいのかもしれない。 質問されたこと以外無視を決め込む僕に、 ある日母は、 「今日は一緒にいちご狩りに行きますっ」 と、高らかに宣言した。 いちご狩り? なんでまた、いちご? そんな思いもあったが、受験勉強をしなくていいならと僕は行くことにした。 車の中で、母はずっと話し続けてい
桜の木。 紅白の幕。 晴れやかな空。 証書を入れる筒できゅぽっと音を立てて笑う声が聞こえる。 卒業式すぎる光景に、莉奈は目を細めた。 全て終わる。 高校3年間は嘘みたいに長くて毎日必死だった。 お経のような古典も黒魔術のような数Ⅱもやり終えた。 だが、莉奈にとって何よりもキツかったのは部活だった。 吹奏楽部。 名門のこの高校を知らない者はいない。 練習が厳しく、部員のほとんどが幼少期より練習を重ねてきている。 そんななか、莉奈は異例の初心者だった。 新
✻ ✻ ✻ アンは泣くことを禁じられていた。 厳しい両親では無かった。 父も母もアンを叱ったことなどないし、 同世代が欲しがるものはアンが口に出す前に 差し出した。 それでも、泣くことだけは許されなかった。 それには、アン自身に理由があった。 アンの涙は、氷の結晶になってしまうのだ。 その症状が初めて現れたのは、アンがまだ小学校に上がる前の夏のこと。 愛犬が死んで泣き出したアンの頬に一筋、血が流れた。 ギョッとした母がアンの顔をよく見ると、アンの目か
仮面をつけてやろうと思う。 大人の仮面。 仮面を外したら、 不安で口角が震えてるかもしれない。 冷たい汗が顎までつたっているかもしれない。 それでも、 全部すっかり覆って隠しきって 〖わたしは大人ですよ〗なんて 余裕の表情を浮かべてやる。 子供に浸かるのが 心地よかった時にみた、 お姉さんたちの姿。 肩の力の抜けた強さと、 冷静を保った暖かさ。 それらにどれだけ憧れても 私には全然足りないけれど、 メイクとファッションの武器を施してもらい 形だけは大
✻ ✻ ✻ レジをそっと開ける。 大丈夫。 この古びた映画館でバイトを始め、もう半年。 シフトを入れ続けた樹(いつき)に、 レジの扱いは慣れたものだった。 閉館間際の映画館。樹のほかに人はいない。 雇い主のおじいさんは、うたた寝をしている。 ちくりとした胸の痛みを振り切るように 1万円札に手をかけた その時。 「おい」と声がした。 樹は、「ひっ」と声を上げ周りを見渡した。 人影はやはりない。 再び声。 「それはや
「トマトは嫌いなの」 照れたように笑いながらそうやって、ハンバーガーから彼女は朱色のそれを指先でつまんだ。 俺のハンバーガーの上にペッと置かれた彼女のトマト。 トマトだらけのハンバーガー。 俺だってトマトが好きじゃない。 食べられないわけではないけど、入ってないほうがいいのに、と思うぐらい苦手だ。 でも、今は、あのトマトバーガーが懐かしい。 ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻ 手先には普通のハンバーガー、3度目のた
✻ ✻ ✻ 誰もが見たことあると思う。 犬が喋ったり、タイムスクープしたり、 「お前には世界を救う力がある」と言われたり、 主人公たちは苦労しながらも、目の前の壁と向き合い成長し、さらに豊かな日々を得るのだ。 私もその手の物語はごまんと知っている。 でも、これは。 聞いていた話と違う。 物語は物語だから面白いのだ。 鏡を見せられて「はーい、イメチェンですよー」って、男になっていても、何も面白くない。 チョットマッテ、イミガワカラナイ。
✻ ✻ ✻ バーカ。 目の前でガミガミ叱る生徒指導の女教師の話なんて、そう心の中で呟く私の耳には入ってこない。 バカバカバカバカ。 あ、待って。 これじゃあ、この女教師にバカって言ってるみたいじゃん。 確かに髪の毛はビシっと低いお団子にして、スーツもパンツで、ボタンは1番上まで留めちゃって、こんな女教師みたいにはなりたくない。 先生をバカって言えるほど、自分の頭が良くないことは分かってる。 でもバカじゃない。 そういう賢さなら持ってるつもり、 こう見えて。
目をつぶると、目の前に暗闇が広がった。 会場中の声援をどこか遠くに感じる。 体がふわふわする。 でもって頭の中心は冷静。 トントンっ。小さな2回ジャンプ。 これが私のルーティン。 私はどこまでだって跳べる。 ゆっくりと目を開けると、会場の音が戻ってきた。 地面まで震わす声援は、走り高跳びの期待の星と 言われている私に降り注いでいる。 よーい、スタート! 心の中でそう呟くと私は力強く駆け出した。 右、左、右っ! もちろん歩幅はぴったり。 私は跳んだ。 上へ
はじめまして❁⃘ ネーミングセンスが無くいいのが思い浮かばなかったので、「スズ」とでも認識してください笑 このnoteを利用しようと思ったのは、私のことを 文章にまとめてみよう"と思ったからです。 また空想とか想像するのが小さい頃から好きで、 今でも絵本は大好きです。 もちろん小説も好きです。特に単行本。 この作家が好きとかは特に無くて、本の選び方も 自分なりのこだわりがあって、ビビっとくる本に 出会えた時はとても嬉しいものです。 たくさんの本に出会ってきて、感情移