#ハウツー
着ぐるみの事情 ⑭ヒロインの手伝い
「何をしたらいいですか?」とまだ緊迫感がただようテント内で私は焦って先輩に聞いた。「ステージの前に立ってこどもが階段上るのを手伝って」と言われた。
スタッフが「もうOK?」と美少女3人を確認しに来てMCに伝え、MCの「もう一度みんなで呼ぶよ!せーの!美少女ムーン!」の声で写真撮影&握手会が始まった。
とりあえずステージ前で待機していた私に先輩とスタッフが指示する。「上手(かみて)の階段でこども
着ぐるみの事情 ⑬開演
「みなさーん!こーんにーちはー!」MC(司会のおねえさん)が満を持して登場する。言われた会場のこどもたちと大人たちはとりあえず「こんにちはー!」と返す。だが、優しそうなMCは実は厳しい。「あれ?ぜーんぜん元気が足りないよ!もう一度みんなで!こーんにーちは!」と納得いくまで野球のコーチのように声出しをさせ、はやくキャラクターを見たい観客を焦らし、あおる。
MCは、明るい声で素敵な笑顔を振りまき、抜
着ぐるみの事情 ⑫30分前
1回目のショーは11時からだ。9時45分頃に通しを終え、私たちはステージ上を片付けた。10時になりお店がオープンした。オープンと同時に走ってきたお客さんがいくつかのパイプイスにタオルや上着を置き、席をキープした。私たちはテントの中で、出ハケの時のテントをまくり上げる係を誰がするかなどの確認をしたり、トイレに行ったり、余裕のある先輩たちは、ほんのちょっとだけ雑貨屋さんをのぞいたりして本番までの時間を
もっとみる着ぐるみの事情 ⑪ぶつをかぶる
ぶつチェックを終えると、「かぶってみ。」と言われた。もちろん女の悪者の面をだ。他のかわいらしい面を選べる訳もない。両手で面を持ってそっと頭を入れてみる。あごの部分のマジックテープを留める。「面の目とか鼻とか絶対に触んなよ。」とすかさず言われる。悪者の目から外が見えるが真正面は微妙に見えない。「動いてみて。」と言われ、どう動くか一瞬考えたが、ここはもちろん「オーッホッホッホッホ!」をしてみた。
「
着ぐるみの事情 ⑩あやしい名前
ショーテープを何度か回し、「この時は私が先に出るわ。」とか「ペンギン君、舞台降りる?」などとさらに良くなるようにみんなで細かい打ち合わせをしながら車は進み、神戸港に着いた。フェリーに乗り海を渡る。楽しい旅公演だが、私だけはキャラショーがどんなものか知らないままで今から始まる未知の世界に不安でいっぱいだった。
フェリーが淡路島に到着したら休憩する間もなく、車で移動してショッピングセンターへ向かう。
着ぐるみの事情 ⑧赤毛の美少女
先輩を見ながらラジカセ係をしていると、ふいに「このはさん、出て」と言われた。女の悪者の登場シーンになっていた。
自分の番が来たら初めてだろうが、覚えていなかろうが、何とかして動く。この時点でセリフにはぴったり合っていなくても怒られはしない。とりあえず!進めていくのだ。その繰り返しでみんなでショー全体の流れを把握し、最終的にセリフも出番順も覚え、テープのセリフにぴったり合うようにする。
私は棒立
着ぐるみの事情 ⑦出演が決まる
練習の日が来た。今日もパインはいた。私たちはついにデビューの演目を告げられた。「このは、美少女ムーン。淡路島のショッピングセンター。」社長が言った。「パインは美少女ムーン。北陸。」同じ「美少女ムーン」でも2班で稼働するらしい。演目が決定したらアクションの練習はさておき、さっそく台本を回し読みして、カセットテープのセリフを聞きこまなければならない。
ショーのための台本と、カセットテープは班で一つず
着ぐるみの事情 ⑤もっとキック
左殴りは右利きの私にとってさらに難しくなった。殴るどころではない。順番通りにグーにした手を出すことしかできない。その上かまえの腕も反対になる。もうわちゃわちゃパニックである。
左殴りもわからないまま10回終えると、次は「フック」だ。かっこ悪くてもただ単に真似するだけなら簡単な部類に入るだろう。でも気を抜くと「やった後のかまえ!」と言われる。これも右は理解できるが左は初めての動きに腕と頭がついてい
着ぐるみの事情 ④円になってパンチ
マットを使った練習がひと段落すると、次はかっこいい立ち回りで使うパンチやキックの練習だ。私がパンチと思っていたものは「なぐり」と呼ばれていた。そしてキックと思っていたものは「けり」と呼ばれていた。
殴りには右殴りと左殴りがある。右手をグーにして前に出して敵をやっける。いや、やっけない。やっける演技をする。本物の泥棒を倒せるかどうかではなく、いかにすばやく無駄な動きなく殴った感を出せるかが大事だ。
着ぐるみの事情 ③練習初日
初めての練習の日が来た。私は遅れないようにきっちりと6時までに事務所に到着した。すでに小さな事務所の一室では先輩達がジャージ姿で狭そうに座っていて、男性がほとんどだった。社長に促され、私もさっそくトイレでジャージに着替え、「やる気あります!」という雰囲気をできるだけ醸し出し、次に何を言われるのかを待っていた。
「練習行こうか。」と名前も聞かれぬまま長身の男性の先輩に言われ、ついて行く。そこは事務
着ぐるみの事情 ②面接
アルバイトで着ぐるみの中の人になれることを知った私は、高校を卒業し1995年4月下旬のゴールデンウィーク前に、アルバイト情報誌を各種読み漁り、ついに着ぐるみのアルバイトを見つけることができた。
場所は江坂駅、ゴールデンウィークに向けて募集していて、ゴールデンウィークだけでも可、長期でも可、「君も着ぐるみショーに出よう!」というような事が書いてあった。こういう時の行動は私は早い方だ。自慢ではない
着ぐるみの事情 ①着ぐるみになりたい!
小さい頃から祖母の家の近くの宝塚ファミリーランドに現れる動物の着ぐるみが好きだった。人型のお人形よりも動物のぬいぐるみが大好きで遊んでいたので、それが人間ぐらいの大きさになって相手をしてくれるなんて、摩訶不思議な感覚でうれしかったように思う。私は着ぐるみを見かけるたびにそばに駆け寄り、くっついていた。
小学校5年生の時、祖母の家に行き恒例のようにファミリーランドに訪れると、着ぐるみの口から中の