真似
小学五年生頃まで、私は里子ちゃんと千春ちゃんの三人仲良し組だった。
千春ちゃんとは幼稚園からの仲であるし、そこに同じ町内唯一の女子である里子ちゃんが加わるのは当然の流れであった。
三人で下校し、放課後はたいてい誰かの家で漫画を読んだり、ゲームやシルバニア、お絵かきをして遊んだ。
里子ちゃんはポケモンが大好きで、ポケモンのゲームはもちろん、アニメも毎週欠かさず見ていた。
そのうち、里子ちゃんはポケモンの創作漫画を描くようになり、三人集まると、私と千春ちゃんはその漫画を読むのがお決まりになった。
里子ちゃんは学年で一番絵が上手で、事あるごとにコンクールへの応募を先生に勧められて、応募したコンクールではしっかり賞をもらっていた。
そんな里子ちゃんがポケモンの漫画を描いている、という話はすぐにクラス中、学年中に広まり、みんなが里子ちゃんの漫画を読みたがった。
里子ちゃんの将来の夢は漫画家だった。
「将来は漫画家になってポケモンの漫画を描きます」
道徳か総合の授業の一環で将来の夢を発表することになり、里子ちゃんがそう発言すると、クラスメイトの大半は里子ちゃんならなるだろう、と納得するのだが、
「ポケモンの漫画はもうあるからパクリだ!」
なんて茶々を入れる意地悪な男子もいたが、里子ちゃんは、
「そうだけど、私は私で別のポケモンの話を作る」
と堂々と言ってのけた。
決して目立つタイプではなかった里子ちゃん。
創作したポケモン漫画がバズり、注目の的になっても、彼女は至って冷静で自分の好きなものを描き続けていた。
自分の作品が見られる事を恥ずかしがったりもしなかったし、読んだ子に感想を求めることもなかった。
里子ちゃんが漫画を描いていたから、私も真似して漫画を描いて、将来の夢を漫画家にした。
もちろん漫画は好きだし、先生からコンクールへの応募を勧められるくらいに私も絵が上手だった。
だけれども、同じコンクールで里子ちゃんが「大賞」を取るところ、私はよくて「金賞」止まり。つまりその程度だったのだ。
ある日の休み時間、自席で自由帳に絵を描いていると「お前、それ描いてて何が楽しいの?そんなの里子の真似じゃん」と、クラスの男子に声をかけられた。
声をかけたというよりも、鬼ごっこか何かの最中に私の机の脇を通りがかり、逃げるついでに言い捨てた、という表現が正しいかもしれない。
「・・・・・・」
私はその言葉に対して何も言えなかった。
全くその通りで、描く漫画のストーリーも、絵柄も、その全てが里子ちゃんの真似であり劣化版。
『将来の夢は漫画家です。』と里子ちゃんはみんなの前で発言ができるけど、私は恥ずかしくてみんなの前で堂々と「私は将来、漫画家になりたいのです!」とは言えなかった。
恥ずかしさは「里子の真似」「里子はなれてもお前には無理だ」そう思われるのではないか、という無駄な不安からだった。
彼の発言が全てではないが、絵がそこまで上手くないと気付いた私は、学校で漫画を書くのをやめた。
漫画を描いている事を友人や同級生に知られたくないと思った。
その日からは、誰に見せるわけでもなく、家で漫画を描いては捨ててを繰り返した。
別に言わなくていいものを、あえて里子や千春に「私、もう漫画描くのやめた!」と謎の宣言までした。
「へぇ、そうなんだぁ」
二人ともその程度の反応だった気がする。
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