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【無料】異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~

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マイナーな悪魔が多数登場する、異世界転移もののダークファンタジー。 主人公に都合のよいだけの世界ではないので、苦戦等が嫌な人はブラウザバック推奨。 執筆の気力がないので、不定期更…
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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ あらすじ エピローグ 殺意と憎悪の萌芽

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ あらすじ エピローグ 殺意と憎悪の萌芽

異世界転移×ファンタジー×悪魔×昆虫×小説 

裏切りと不法により、突如見舞われた不運、幸福な家庭と不幸な石動一家との対比、そして初恋の失恋。
度重なる絶望を味わい、生きる意義と気力を失った青年、石動祐(いするぎ・ゆう)は、悶々とした日々を過ごしていた。
空白にも似た日常を送る彼はある存在へ導かれ、現代でない何処かへと飛ばされる。
街中でふと瞼を開けると、そこには近代ヨーロッパを彷彿とさせる、異世

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第22話 悪魔たちの狂宴、悪意の嘲笑

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第22話 悪魔たちの狂宴、悪意の嘲笑

地獄の都にある外壁は金で彩られ、内部にはルビーやサファイアなど、高価な宝石が至る場所に埋めこまれた城。
強欲を司る悪魔マモンと建築家ムルキベルにより建造された、地上のどの城よりも豪華絢爛な万魔殿。
上位の悪魔が棲む、ギリシャ語で〝デーモンのすべて〟を意味する城に、地獄の三支配者と邪霊六座が一堂に会し、今後の方針について話し合う最中であった。

「ええい、フルーレティはまた欠席か! 奴を処分すべきで

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第21話  迷い人の救い

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第21話  迷い人の救い

僕と機くんは肩を抱き、支え合いながら、覚束ない足取りで英子さんの元に向かう。
傷口が閉じていないせいか時折振り返ると、歩んだ足跡の如く血の跡が残されていた。
道中インセクトゥミレスの力が、切れたのだろう。
いつの間に僕も機くんも元の姿に戻っている。
何としても朝を迎えるまでには、彼をモルマスから脱出させたい。
到着するとなりふり構っていられず、英子さんの部屋の扉を叩く。

「急に扉が叩かれたから、

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第20話  〝普通の人間〟と僕、錆鉄の騎士、悪魔との友情

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第20話  〝普通の人間〟と僕、錆鉄の騎士、悪魔との友情

「思いの他、手こずったッス。でも、ここからが本番ッスよ!」

機少年はまた糸を再度取り出した。
しかも今度は3、4本同時に。
数が多い分、さっきとは異なる攻撃でこちらを翻弄してきそうだ。

「まだあの糸を隠し持っていやがったのか。しつけェな」
「目の色が違う。簡単に逃してはくれなさそうだぞ。簡単に捕まるなよ」
「……忠告は受け取っておくぜ。オメーも気をつけろ」
「油断はしないッス。あの人の指示通り

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第19話  激闘の中に紡がれる絆

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第19話  激闘の中に紡がれる絆

「立ちやがれ、クソッタレ。野垂れ死ぬならテメーだけでくたばれや」
「……う、うぅ」

傷だらけの悪魔は、苛立ちを青年にぶつける。
叱咤された石動は奥歯を噛み締め、ハリーからの暴言に心の中で反抗していた。
具合が悪い時に怒鳴られても、苛立ちが募るだけ。

(うるさいな、わかってるんだよ。できたらやってるよ!)

眉間に青筋を浮かべつつ、青年は何とか踏ん張った。
陸に打ち上げられた魚のように体を動かす

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第18話  真夜中の襲撃、インセクトゥミレスの脅威

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第18話  真夜中の襲撃、インセクトゥミレスの脅威

「……うぅ、気持ち悪い。アイツめ、酒に飲まれたな?」

吐き気を催した青年は窓を開けると、ハリーに恨み言を呟いた。
契約の悪影響とでもいうべきか。
悪魔の体の不調も、自分にもろに影響を与えるのが最悪だ。
モルマスの化け物退治の件は王国にも伝わっているらしく、戻ったら王国から直々に褒章が得られるとのこと。
僕が全ての泥の悪魔を倒した訳ではないが、冒険の協力をしてもらえるなら、脱出の一助となるだろう。

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第17話  偽りの英雄、直美の呪い

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第17話  偽りの英雄、直美の呪い

焼け野原と化し、剥き出しになった大地には、横たわった遺体だけが残されていた。
ヴォートゥミラ大陸は魔法のある世界。
まだ助かる見込みはある。
それに戦って散った高潔な魂を、野ざらしにするわけにはいかない。
青年は冷たい体を背負い、教会へと運んでいく。
運よく蘇生に成功した者。
魔法の失敗で灰になり、帰らぬ人間になった者。
それぞれに生と死の運命が下った。
戦いを終え、戦死した冒険者らに祈りを捧げて

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第16話 戦いの終結、新たなる謎

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第16話 戦いの終結、新たなる謎

「Shit, there are too many of them! (クソッ、数が多すぎる!)」
「I will fight too.(儂も戦いますぞ)」

エルフの少女らしき人物はしかめっ面で愚痴を零すと、5、6本同時に矢をつがえ、一気に放つ。
彼女の腕は確かで百発百中で虫に命中するも、空を埋め尽くす軍勢の数を御するには、あまりにも手数が足りない。
杖を持つ老人も彼女と共に応戦するが、多勢に無

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第15話 巡り合う強者たち、災い呼ぶ迷い人

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第15話 巡り合う強者たち、災い呼ぶ迷い人

儂はヴォートゥミラ大陸の荒くれ者共を置き去りにして、一足先に最前線へと向かう。
まだまだ若い者たちには負けられぬ。
それに天涯孤独の儂よりも、未来ある若人が生き残るべきだろう。
老いぼれの意地が、儂を戦地に駆り立てた。

「ん、こんな場所に……人……ではないな」

老爺の視線の先に人影が見えた。
草原に佇む白髪の修道女は、いずれ溶けて消える雪の如き儚さすら感じる清楚で可憐な見た目とは裏腹に、おぞま

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第14話 泥の悪魔、新たな出会い、ハリーとの奇妙な友情

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第14話 泥の悪魔、新たな出会い、ハリーとの奇妙な友情

結局僕は直美と英子に合流する間もなく、流されるままにモルマスを飛び出してしまった。
あの2人も、モルマスの異常事態に気がついているだろう。
彼女らなら、戦うなり避難誘導するなり、己のやるべきことに愚直に取り組むはずだ。
僕は僕なりにやれることをやるしかないのだ。

「虫けら共、皆殺しだ!」

ハリーが叫ぶと冒険者らも呼応するように、雄叫びを上げる。
空を覆い尽くさんばかりの軍勢の姿は、まさに悪魔ア

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第13話 不可視の神々、流浪の老神父

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第13話 不可視の神々、流浪の老神父

「ここだと少し目立つな。建物の裏手に回ろうか」

そういってアモンは移動する。
黒ずんだ打ちっぱなしのコンクリートに青年は年季を感じつつ、アモンの背中を追う。
民衆が入口に集まっているお陰か、修道女たちの裏手への警戒が薄いようで、人は疎らだ。

「これからどうすんだ、アモンの兄貴」
「耳を貸せ、ハリー」

アモンがハリーに耳打ちすると、同時に青年の左耳に生暖かい吐息がかかり、石動は苦々しく笑う。

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第12話 平田陽、直美の過去

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第12話 平田陽、直美の過去

「平田陽(ひらた·はる)です。肺の病気の影響で激しい運動はできませんが、皆さんと楽しい学園生活を送りたいと思っています。よろしくお願いします」

どこか品のある黒目の大きな少女が挨拶する横で、直美は頬杖をつきながら、彼女を見上げていた。
清楚な長い黒髪。
色白の肌。
おまけに病弱で、守ってあげたくなるような華奢な体。
彼女の特徴を並べていけば、男ウケする要素しかない薄幸の美少女。
よく食べよく眠る

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第11話 死を視る少女、悪しき魂の禁足地

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第11話 死を視る少女、悪しき魂の禁足地

王国の城壁の草原を西へ進むと、ぽつんと佇む霊拝の地モルマスの巨大な石碑が目に入る。
天涯孤独の死者やモルマスへの埋葬を望んだ者の遺体が、この地に送られる。
中でも目を惹いたのは石碑を包み込んで覆うような、網目模様が特徴的なドーム状の建造物だった。
迷い人が見たら、蜘蛛の巣や丸屋根を連想するだろう。
直美が言うには、これは糸を模したものらしい。
男女の縁を運命の赤い糸と形容したり、文豪の作品に蜘蛛の

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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第10話 悪魔アモン、デモンズ·コマンダー、真理の大穴

異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ 第10話 悪魔アモン、デモンズ·コマンダー、真理の大穴

無闇に探しても、ヴォートゥミラから脱出する方法を探すのは困難だ。
一行は曰くつきの土地に注目し、そこを重点的に調べることにした。

死者の魂眠る霊拝の地モルマス。
殺人、誘拐、盗人のねぐらなどなど、黒い噂の絶えないマレフィキウムの古城。
金にがめつい化け物に占拠されたという、テラ·ウルム鉱山。
悪魔や呪術の叡智が集結する魔女たちの秘境、ゼノス·トゥルティ。
そして僕らが拠点にしているフィリウス·デ

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