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異世界のジョン·ドウ ~オールド・ハリー卿にかけて~ あらすじ エピローグ 殺意と憎悪の萌芽

異世界転移×ファンタジー×悪魔×昆虫×小説 

裏切りと不法により、突如見舞われた不運、幸福な家庭と不幸な石動一家との対比、そして初恋の失恋。
度重なる絶望を味わい、生きる意義と気力を失った青年、石動祐(いするぎ・ゆう)は、悶々とした日々を過ごしていた。
空白にも似た日常を送る彼はある存在へ導かれ、現代でない何処かへと飛ばされる。
街中でふと瞼を開けると、そこには近代ヨーロッパを彷彿とさせる、異世界が広がっていた。
これは愛する家族のいない孤独で過酷な世界に抗い、元の世界へと戻るため、目的を共にする仲間と世界を渡り歩いていく―――迷い人の冒険譚。



エピローグ 殺意と憎悪の萌芽

父は人格者だった。
朝から晩まで汗水垂らして働き、家族を養った。
子である姉や僕の文句もこぼさずに。
父は正しかった。
法と秩序を尊び、それを守ることが善なる社会を作るのだと、信じていたのだろう。
―――だからこそ、あのクズは父を切り捨てた。
悪党にとって、悪人が蔓延る世こそ理想。
正義を体現する父のような人間は、目障りなのだ。
死でもってしか罪を精算できない悪人が、いまだにのうのうと暮らしていると思うと、吐き気がする。
僕ら家族を苦しめたあの一家と、また遭うようなことがあれば、僕は―――殺すのも厭わない―――

「誕生日おめでとう、和(のどか)」
「もうこんなに大きくなって。母さんも嬉しいわ」
「うん、ありがとう。パパ、ママ」

何の変哲もない家族の団欒(だんらん)。
ささやかな幸福の一瞬。
だがしかしビニ袋を片手に持った少年は瞳を血走らせ、窓の外から家族を睨みつけていた。

(なんで、なんで、なんで! 僕たちを地獄に堕とした人間が愉しそうにしてるんだ!)

荒々しく息が漏れ、憤怒を込めて握られた拳は血流が溜まり、胸に燻る炎の如し紅へと変色する。
憎悪が心を覆いつくすと、少年は押しては返す時化の海のような、激情の狭間にいた。
殺人はいけないという常識など、言われずとも理解している。
だが生かしておくこと自体が罪な人間が存在し、罰が下らないのは確かだ。
神がアイツに痛みを与えないのなら、せめて人間の手で。
意を決し、少年がドアノブを引くと

「急にどうしたの、祐くん?」

幼馴染の少女、和が彼を出迎え、少年に訊ねた。
瑞々しく艷やかな髪は、甲虫の外骨格の光沢を彷彿とさせた。
つぶらな瞳で慈しむように目を細め、彼を包み込む。
だが好意を寄せていた彼女でさえ、今は敵にしか見えなかった。

「白々しい知らない振りはやめろ、和。お前の親父のせいで、父さんは……一族郎党、絶望の淵へ堕としてやらないと、俺の気が済まないんだよっ!」

そうして少年は台所にあった包丁へ手を伸ばし、怯えた一家ににじり寄る。
殺してやると誓ったはずの右手はわなわなと震え、少年の良心が、完全に消えてはいないのを物語っていた。

「お、おい、祐くん。どうしてこんなことを……私たちと君たち一家は家族ぐるみの付き合い…·本当の家族同然だったじゃないか。金に困っているのか。昔の好(よしみ)だ。私たちを助けてくれれば通報もしない。だから……」
「何が本当の家族だ、あれが家族にする仕打ちか! 金の問題じゃねぇ! 今ここで首吊れよ、クソジジイ! 元はといえば、お前が元凶なんだからな!」
「そ、それはできない、家族がいるんだ。許してくれ……」

泣き落としで懇願する姿に、少年の怒りは更に激しく燃え上がる。
父にも俺たち家族がいる。
家族が大事だとほざくなら、何故父の激昂を、失望を、痛みを理解してやれないんだ!

「そうかよ、だったら直々に殺してやる!」

瞬時に沸騰した感情は、復讐相手の和の父親へ向けられた。

「きゃああああぁ!」

……包丁を突き刺すと、耳をつんざく甲高い叫びが鼓膜を刺激した刹那、意識は闇から現実に引き戻される。

「……ハァハァ、夢か……」

荒々しく息を吐き、青年は布団から飛び起きた。
あり得たかもしれない未来が夢の中で、ありありと再現され、体に汗が滲む。
周囲を探すが、先ほどまで握っていたはずの包丁はなく、震えた掌にも血痕は見当たらない。
ようやく僕は、殺人をしていないのだと安堵した。
寝ても覚めても付いて回る、過去への憧憬。根拠のない信頼も、数十年来の初恋も。 
いつか刻が癒やしてくれると思っていた、色褪せた日々が、再び彩りを取り戻すことはなく。
壊れたものは二度と治りはしないのだから。

「シャワーでも浴びようか……いや、顔を洗おう」

時計の針は、朝8時を回っている。
ちょうど大人は職場に、子供は学校へ赴く時間だ。
顔を水で洗い、タオルで拭くと、鏡には生きながらにして死んだような、覇気のない顔が映る。
先ほどまで悪夢に苛まれていたせいだろう。

「……」

こういう時は、何かしらするに限る。
居間に向かうとPCの前に座り、タイマーを25分に設定する。
空腹感のある朝食前、食後に眠くなる前にあらかじめ用をこなすのが、一日のルーティンだ。
朝、昼、晩の食事の用意。
家事や炊事。
小説や記事の執筆作業。
書物やネットからの情報収集。
世間からは職がないだけで暇人と罵られるが、時間はいくらあっても足りないくらいだ。
違いは職場に赴くか、大半がアパートの一室で完結するか。
ただそれだけでしかない。
ピピッ、ピピピッ……没頭していると、いつの間にかタイマーが鳴り響く。

「『西洋ファンタジーの世界観を深める悪魔学·黒魔術』、タイトルはこれくらいでいいかな。後は合間の時間にでも……」

独り言を呟きつつ、記事を保存し、作業を終わらせる。
やや面倒ではあるが、隙間の時間に残りは終わらせよう。
日々日課をこなしていく内に短くなり、より効率的に作業を終えるのは、達成感があった。
誰かに認められずとも構わない。
自己満足でしかないが、いざとなれば支えるのは己のみ。
人に読まれようと読まれまいと、胸に誇りがあればいい。
まだ両親は眠っており、食事の用意はしないでよさそうだ。
誤字脱字はないか保存した記事をプレビューし、読み進めると

『時給1000円 未経験者歓迎!』

ネット広告に、仕事の募集が目に入る。
だが応募しようとは、微塵も思わない。
本当に掲載された通りの内容で就業できるのか。
いまさら社会に復帰したところで何になる。薄給激務の労働者として働き、〝無職の怠け者よりも、生きるに値する〟と、労働できない人間を嘲笑する世間から、僅かばかりの尊厳を与えられ。
はたしてそれが、幸福といえるのか。
1日の3分の1の時間を労働に費やし、無職として蔑まれる恐怖を原動力に、人生を終えていく。
そんなものが人間の幸福なのだろうか。
否、答えはNoだ。
たとえ無職でなくなったとして、また低賃金の労働者として踏み躙られるのが目に見えている。
自らを蔑む社会に貢献してやるほど、馬鹿らしいこともない。
加点方式でなく、減点方式の幸せに、どれほどの意味があるのだろう。
絶対的な幸福が存在しないとしても、自ら不幸で舗装された道を進むほど、愚かではないつもりだ。
……そろそろ朝食にするとしよう。
人参、牛蒡、玉葱、じゃがいも、豚バラ肉。一口大に刻んだ具を炊飯器に投入。
そして具材が浸るまで水を入れ、出汁の素を溶かし、早炊きする。
そして冷蔵庫からタッパーに保存した白米を取り出すと、電子レンジで温めた。
味噌や卵などをテーブルに集めていくと電子レンジがチンと鳴り、次いで早炊きが終わった。
味噌を溶かし、味の確認をして、青年は納得したように頷く。
肉汁や野菜の旨味、それらが溶け込んだ味噌は格別の味わいだ。
逸る気持ちを抑え、器に盛りつけ、テーブルに並べると、青年はまず豚汁に手をつける。
軽い気持ちで啜っただけなのに、一口、また一口と、食欲に従うがままに飲む。
都度口に掻き込む白米の甘みは、塩気をさらに引き立たせ、双方を高みに昇らせる。
人参やじゃがいもは口に入れた瞬間、ほろりと崩れ、食べたことさえ、幻のように思えた。
豚汁を食べ終え、米だけが残ると卵を割って掻き混ぜ、白米は黄金色に生まれ変わる。
そこにめんつゆを垂らし、米を一気に胃に流し込む。

「……ごちそうさまでした」

豚汁にご飯だけとは質素だが、朝食は軽く満たされるくらいでちょうどいい。
働いていた頃は時間に追われ、ささやかな食事もままならなかった。
こんな幸福すら奪われるなら、働くのはごめんだ。膨れた腹を撫で一服すると、聞き慣れた声がした。

「おはよう、お味噌汁のいい匂いね」
「あ、おはよう。流石に料理の経験値では、母さんに負けるよ。ごはんは温めて」

挨拶すると、母は唐突に2枚のお札を僕に手渡した。

「髪が伸びたわね。家のことはいいから、切りにいってらっしゃい」
「いいよ、母さん。坊主にすれば散髪の無駄金もかからないし。節約できるところは、とことん切り詰めないと」

一度は断るも

「いいから。たまには羽根を休めてらっしゃいよ」

母は僕の手にしっかり握らせた。
いらぬ気を遣わせてしまい、申し訳なさが込み上げる。
とはいえ、せっかくの好意を無碍にするのも、人の道を反するだろう。

「昼頃にいくから足りないものがあれば、紙にメモしておいて。ついでに買ってくるよ」
「後でポイントカードと、現金を渡すから」「ああ」

母はそういうとバックをまさぐる。
昔よりも小さくなった背中を眺めつつ、青年は母の味噌汁をよそうのだった。


数時間後
 

母に促され、僕は普段いかない、大型のスーパーへと向かう。
日曜でも休日でもなければ人気は少なく、広々としており、まるで自分だけの庭のようだ。
駅前という立地もあり、夕方になれば学生で溢れかえる。
それまでに用件は済ませてしまおう。
髪を切り終えた後、日用品をあらかた買い漁ると、トートバックはぎゅうぎゅうづめだ。自転車のカゴに入るのだろうか。
せっかく買い物にやってきたのだから、この際に足りないものは、購入しておきたい。

「……後は家電量販店にいけばいいのか」

パソコンのマウスに必要な乾電池と、豆電球がリストに記載されている。
電気屋に立ち寄ると、ふらふらと散策し始めると、ゲームソフトが目に映った。
最近は性能の向上に伴い、開発費が高騰し、ゲームソフトも新品は7000円は下らない。
値が張りすぎて、庶民に手の届く金額ではなかった。
自分に合えば1本で元は取れるが、面白そうだから、気になったから程度で買うのは、完全に博打。
庶民には、博打に金をかける余裕などないのだ。

(品揃えもよくないし、やっぱり中古が一番なんだよな。出しても1000円までだ)

一瞥した新作に背を向けると、母に頼まれた目的の品物を探し始めた。
そうしていると電気屋のテレビに、ふと企業のリストラの報道が映り込む。
ただでさえ経済成長のない国だというのに、さらに気が滅入る。
しかし関わりもない他人の不幸で、仄暗い悦びに浸る自分がいるのも、また事実だった。
この中に少なからず、無職を嘲笑していた者がいるだろう。

働かざる者食うべからず。
無職に生きる価値はない。
生産性のない者は殺処分すべし。
ネットの世界で、うんざりするほど見かけた品性を疑う言葉。
今の今まで雇われぬ者へ、失業した者へ、精神を病んだ者へ。
罵詈雑言を浴びせかけ、排除してきた側の人間たちの、泣き面が目に浮かぶようだった。
自分の番がきて、クビになった連中は何を考えるのか。
企業への愚痴でもこぼすのだろうか?
だが

「無能はいらない」

というのが、無職者が求職すると相談した場合の常套句だ。
企業もそう判断し、無能を切り捨てたに過ぎない。
馬鹿が吐き捨てた言葉通りの世界に、いったい何の不満があるというのだろう?
失業者には仕事を選ぶなと蔑み、雇われないなら起業せよ、何もしないなら生きる価値がないと罵倒する。
生活保護を受ける人々には、不正受給と騒ぎ立てる。
精神に異常をきたせば、甘えと罵る。
ネットの世界で、嫌というほど見かけた陰湿な行動。
他ならぬ狭量で意地が悪く、冷酷な日本人の、理想の社会になっただけだというのに。
クビになったら自らの言葉に従って、生きるなり死ねばいいのに。
―――お前たちの望み通り、労働せぬ者が自死できる、美しい国になってよかったな。
ほらほら、どうした?
過労で自殺が横行する国で、どんな職業にでも就労してくれよ。
自ら吐いた言葉に従って。
でないと生きるに値しないクズたちと、同列に扱われるぞ?
無数の声なき声を踏み躙り、優越感を覚えてきた罪は、命で償う他ないのだ。
失業しようが同情する価値など、まるでないだろう。
こいつらには死が相応しいのだから。

冷笑の眼差しを向けていると、突如として目玉がギョロリ……電子機器のモニターから巨大な瞳が、こちらを凝視してきたではないか。深い蒼の瞳はさながら深海の如し神秘と恐怖に満ちており、直視した瞬間、見た者を大海原に引き込まれてしまう。
視線を避けるために、あえて人のいない時間を選んだというのに。
何故急に意味不明な映像に切り替わったのだ? 

「……な、なんだよ。いきなり意味がわからない。ただの偶然に違いない。ハハッ」

理性で心のざわめきを抑えようと、言い聞かせるが如く繰り返すと、周囲に目を配る。
すると目の前のテレビのみならず、他のテレビやPCのディスプレイまでもが、目玉を映し出す。

「落ち着いて考えろ。こんな馬鹿みたいな状況が現実にあり得るのか?」

電気屋のテレビは番組の垂れ流しだが、画面がどれも同じとは限らない。
PCのディスプレイは、起動時の画面のままが一般的なはず。
全ての画面が目玉を映すような状況になることは、まずありえない。
そう、これは夢。
でなければ、非現実的な光景の説明がつかないのだ。
夢から覚めた夢を見て、まだ夢うつつ。
納得のいく理屈で、ほっと胸を撫で下ろすと

「偶然でも夢でもないさ、石動祐。こういう場合は痛みで教えてやるのがいいのかな?」

直接語りかけてきた直後、鈍痛に青年は表情を歪め、夢でないのを思い知る。
声と同時に何者かが動かしたかのように、1つのテレビが落下したのだ。
先ほどの仮説は、すぐさま否定されてしまった。
それに何故、僕の名前を知っている?
これは脳の誤作動が引き起こした、幻想の世界だろうか。
だとしたら、我ながら悪趣味が過ぎるが。

「な、なんだ。姿を現せ」

青年が問いかけると

「自分の思い通りにいかないから、全てを投げ出してしまいたいとは。人間は身勝手極まりない。だがそれほどまでに、立身出世や現実逃避に拘るのも、理解できないでもないよ。人の子は能力なき者は万死に値するという、自らの欲望と攻撃性のままに、地獄に等しい過酷な世界を作り上げたのだからね。クククッ……」

電子機器から垂れ流される声は返事すらせず、まくしたてる。
人間の悪意に理解を示すどころか、むしろ愉しむかのような態度は、とても善良な存在とは思えない。
しかし人間社会への見解については、僕も声の主と同意見だった。
人間など、ろくなものではない。

「まず誰だか名乗ってもらおうか。それで信頼を得ようなんて無理筋だろう」
「救いの神、とでもいおうか。なに、悪いようにはしないさ。現実に絶望した君にとっては、案外好条件な提案かもしれないよ? 冷酷な人の世を捨てて、異世界への旅路へ」
「……は?」

自ら神を名乗るだけでも胡散臭いのに、異世界だと?
あまりに現実味がない話に、青年は首を傾げる。
その異世界とやらで、どんな世界が待ち受けるかは定かでないが、ここよりはマシなのかもしれない
だがしかし『はい、いきます』と即答できるほど、簡単に未練を捨てきれないのが人間というもの。
父母と姉を残し、勝手に消えるなどできない。
警戒心を解かずに無言を貫き通す青年に、救いの神と名乗る存在は言葉を続けた。

「案ずるな。異世界に辿り着いた暁には僅かばかりの生き抜く力を与えてやろう。だが君がどうなるか。特筆すべき事情がなければ、我々は関与しない。意思なき者に何も為せぬのは、異世界とて同じこと」
「折角の提案だが断るよ。他を当たってくれないか」

異世界など下らない。
くだらない妄想なら、さっさと終わってくれ。
青年が立ち去ろうと背を向けると

「ならば致し方あるまい。少々手荒い手段になるが……ブブ、アス……ト。この男を逃がさぬよう、協力を頼む」

仲間を呼び出すつもりのようだ。
足りないものは、後で別の店で購入すればいい。
今は一刻も早く、この場から逃走を……後ろを確認しつつ、脇目も振らず逃げると、何かにぶつかる。

「す、すいません!」

謝ると同時に前を向くと―――無数の目玉を持つ異形の怪物が、どこからともなく出現したではないか。
瞳孔の1つ1つが射抜くように彼を見遣ると、胸が締めつけられ、呼吸すらままならなくなる。
近寄る怪物に気がつき、青年は後退るも、いつの間にか横からも、後ろからも、化け物が彼を囲っていた。
もう逃げ場はない。

「人の子で最も強い感情。妬み、嫉み、憎しみ……そして殺意。即ち神々が作り給うた人間そのものが、欠陥だらけの害悪なのさ」
「大概にしたまえ、己から目を背けるのは。殺戮に溺れ、心を悪意と憎悪で満たすことこそ、貴殿の真なる願い。現に貴殿の家族を追い詰めた、にっくき一家を殺してしまいたいと。頭の中で、常々考えているのだろう?」
「君にとって、視線はこの上ない恐怖。逃れたいならば我々と契約する他ない。さぁ、選択の刻だ」

取り囲む怪物は見下ろしながら、神が産み出した人の欠陥を。
そして青年が心に抱えた、後ろ暗い深淵の闇について言及する。
自らが神ならば、人間の欠点を悪し様に言うだろうか。
恐怖による異世界への強制転移が、神のやり口なのだろうか。
もしや彼らは神ではなく、神に敵愾心を燃やす存在……だとしても現時点で、対抗手段は……

「やめてくれ、勘弁してくれよ! 夢なら覚めろよ、もう!」
「ならば誓え。我は汝の怒りの願いを叶えよう。その代わりに……を差し出すと」
「わかったよ、誓うよ! だから、僕を見つめるのはやめろ! この下らない人生を、さっさと終わらせてくれよ!」

こんなことが現実に起こり得るはずがない。さっきのだって現実で何かが足に落ち、夢と偶然が重なったに決まっている。
妙に現実味のある夢だけれど、すぐに終わるはずだ。
謎の声に言われるがままに青年が叫ぶと、彼は世界から忽然と姿を消した。
生きた足跡を何一つ残さずに。

「軽く脅しただけで、今回の魂はすんなりと手に入ったな。この男は適合者か否か。善意と悪意が矛盾なく混在した、複雑怪奇な魂の持ち主が、どんな物語を紡ぐのか。観客席から見届けさせてもらうとしよう」
「異世界ヴォートゥミラは、悪意に染まる魂を際限なく保管しておくための、いわば器。この男の魂に殺意と憎悪が足りねば、順次継ぎ足していけばいいだけの話だろう。もっとも精神がもたぬかもしれぬがな」
「器から人の子の罪が溢れれば、神々はどれほど嘆くのだろうな。吠え面をかく姿が目に浮かぶ。救いなどないのだよ。どんな世界であろうとも。罪深き人の子を根絶やしにせぬ限り」

電子の海からは、現代の人間を俯瞰し観察する存在が、各々思い思いに語らう。
1人の青年の異世界ヴォートゥミラでの冒険譚は、こうして幕を開けた。


第1章

「迷い人とSG8、そして悪魔オールド・ハリーの謀略」

半ば脅迫されるように現代社会から異世界へ来訪した主人公の石動祐(いするぎ・ゆう)は、同じく迷い人である向川直美(むこがわ・なおみ)と出逢い、なりゆきで彼女と冒険を共にする。
そんな彼女を追う組織、スポンテニアス・ジェネレーションズの陰謀と、SG8の雇った小悪党の召喚した悪魔オールド・ハリーに、次第に主人公も巻き込まれていき……

第1話 異世界の迷い人
第2話 リングワンダリング   
第3話 悪魔オールド・ハリー
第4話 悪魔との契約
第5話 クソ人間とクソ悪魔
第6話 闇の底、夏の思い出、小さな角のカブト
第7話 救われた命、奪われた命、いらない命
第8話 血と魂の契約、そして悪魔と人の違い
第9話 ヴォートゥミラの穏やかな日々、悪魔の流儀

第2章

「霊拝の地モルマスでの邂逅、SG8の刺客との激闘」

異世界脱出の調査のため、一行は巨大な慰霊の石碑のある霊拝の地モルマスへ赴く道中、悪魔アモンが彼らに忠告をし、一時的に同行した。
死別した直美の友人、平田陽(ひらた・はる)の幻視、謎多き老爺ジュアンとの出逢い。
そして疲弊した青年を襲う、SG8の刺客との交戦。
数多の戦闘と邂逅を経て、迷い人たちは何を思うのか。

第10話 悪魔アモン、デモンズ·コマンダー、真理の大穴
第11話 死を視る少女、悪しき魂の禁足地
第12話 平田陽、直美の過去
第13話 不可視の神々、流浪の老神父
第14話 泥の悪魔、新たな出会い、ハリーとの奇妙な友情
第15話 巡り合う強者たち、災い呼ぶ迷い
第16話 戦いの終結、新たなる謎
第17話  偽りの英雄、直美の呪い
第18話  真夜中の襲撃、インセクトゥミレスの脅威
第19話  激闘の中に紡がれる絆
第20話  〝普通の人間〟と僕、錆鉄の騎士、悪魔との友情
第21話  迷い人の救い
第22話 悪魔たちの狂宴、悪意の嘲笑


第3章

「束の間の休息は嵐の前触れのように」

王族から悪魔討伐の依頼を引き受けた仲間との会話で、新たな仲間を増やすのを提案した主人公。
冒険者ギルドの規則で自らの属するアライメントを診断している最中で出逢ったのは、モルマスで彼に手を差し伸べてくれた、小人アシェルと妖精ウィッカであった。
取り分で揉めた後の仲直りの買い出しで安く手に入れた、王笏の贋作と名刀穐津。
そして加入した2人の祝いと悪魔アモンとの別れ。
さながら暴風を巻き起こす嵐の前触れのように、悪魔討伐の準備で時間は穏やかに過ぎていく……


第4章

「飽くなき殺戮と青年の覚悟」

冒険者を集めるべく、魔毒竜の卵が発見されたと王族の協力を経て嘘の噂を流した一行。
魔物討伐の最中、小人アシェルと一行の間に軋轢が生まれかけるも、修道女イザベラの助言により事なきを得る。
冒険を続けて夕刻を迎え、王国の管理区域へと集まる冒険者たち。
暗闇の静寂に包まれた彼らに、阿鼻叫喚の夜が待ち受けていた……


石動 祐(いするぎ・ゆう) NN:ユウ、ジョン・ドウ

MBTI:INFP 173cm 65㎏ 28歳

ネガティブで寡黙な、無職の青年。
人に絡まれたりした時は、心の中で文句を言ったりするものの、基本的には無害な善人。
最終学歴は高校中退。
しかし興味のある動物、海洋生物、昆虫、古生物、民俗学、精神医学、心理学、オカルト分野などについては、そこそこ詳しい。
その知識のお陰か、直美や仲間からは雑学博士と呼ばれ、親しまれている?
興味のあることには知識欲旺盛な反面、興味のないことは中学生レベルの知識もなかったり、かなり間の抜けたドジなところも。
高校中退後の現実世界では様々な職場を転々とし、最後に勤めた職場ではとある理由で退職。
その後はゲームや読書、インターネットサーフィンなど、インドアな趣味で時間を潰し、日々を過ごしていた。
オールド・ハリーと契約を結んだことで、〝狡猾な悪魔〟と不名誉な通称で呼ばれるようになったのが不満。
一人称は俺だが、人と話す際は僕か自分。
両親と実家から離れて暮らす2歳年上の姉がいる。



拙作を後書きまで読んでいただき、ありがとうございます。 質の向上のため、以下の点についてご意見をいただけると幸いです。

  • 好きなキャラクター(複数可)とその理由

  • 好きだった展開やエピソード (例:仲の悪かった味方が戦闘の中で理解し合う、敵との和解など)

  • 好きなキャラ同士の関係性 (例:穏やかな青年と短気な悪魔の凸凹コンビ、頼りない主人公としっかりしたヒロインなど)

  • 好きな文章表現

また、誤字脱字の指摘や気に入らないキャラクター、展開についてのご意見もお聞かせください。
ただしネットの画面越しに人間がいることを自覚し、発言した自分自身の品位を下げない、節度ある言葉遣いを心掛けてください。
作者にも感情がありますので、明らかに小馬鹿にしたような発言に関しては無視させていただきます。

#創作大賞2024  #ファンタジー小説部門


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