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物に必至あり、事に固然あり。

「おう満男、おまえ、ちょっと世渡りがヘタそうだから、人生に役に立ついい話してやろうか。」

部屋に入ってくるなり寅さんが、突然話し始めました。
「むかし中国に、|孟嘗君《もうしょうくん》っていう大物がいてな、彼は3000人もの人々を養っていたんだよ。」

満男はいきなり話し始める寅さんに驚きと戸惑いの表情を浮かべながら、気のない返事をしました。

「へぇ~、それってすごいじゃない……」

寅さんは、ほろ酔い気分でにこにこしながら、
「それがな、満男。孟嘗君が一度、権力を失った時、彼を支えていた人々はみんな逃げ出してしまったんだよ。ところがな、孟嘗君が再び権力を取り戻すと、逃げ出した連中がいけしゃあしゃあと、戻ってきたんだよ。」

「えー?それって、恩知らずというか恥知らずというか、なんか情けない話だよね。なんでそんなことになるの?」

寅さんは深く息を吸って、
「それがな、『事に固然こぜんあり』というものよ。
物事にはそれぞれ自然な流れや道理が存在するってこと。
例えば、朝、市場に行けば、人々で賑わっているよな?
でも夜になると、誰もいなくなる。
それって、人々が朝が好きで、夜を嫌ってるからだと思うか?」

満男は少し考えて、
「う~ん、それは違うよね。
朝は買い物があるから人が集まるんだし、夜は仕事が終わってみんな家に帰るから、人がいなくなるのはあたりまえだよね?」

「そう。あたりまえのこと。人間関係でも同じことが起きるんだよ。
金持ちの家には人が集るけど、貧乏人の家には人が寄り付かない。
これは人が信用できるか、できないかを考えるよりも、
『物に必至ひっしあり、事に固然こぜんあり』
物事の必然性と道理を理解することが大切だってことなんだよ。」

「な?だから、人を信じるとか信じないとか、そんな甘えた考えじゃいけないよ。だいじなのは人間のさがを冷静に見きわめること。
そうすりゃ、どんな状況でも動じない人間関係を築くことができるんだよ。」

「なるほど、おじさん。その話、本当に考えさせられるね。」

「何というかな……
 ああ生まれてきて良かった、そう思うことが何べんかあるだろ?
 そのために生きてんじゃねえか。
 そのうちお前にも、そういう時が来るよ、な?
 まあ、がんばれ。」

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