能あるネコは常に隠す
ファミリーレストラン。
バイトの二人。
「高橋先輩~」
「何だ、新人。
さぼってねえで、
さっさとこれ3番行けよ!」
「は~い」
「ほんとにあいつは、
言われないと動かないし、
あいつ何世代?Y?Z?
Zの後は何?
Aに戻んの?」
「高橋先輩~。
持って行きましたけど~、
さっきの3番じゃなくて、
5番のオーダーでしたよ~。
お客さんに違うって怒られました~」
「はあ?
それは…あれだ…あれだよ…
お前がちゃんと、確認しないからだろ!」
「え~~。
高橋先輩がこれ3番に持って行けって、
言いましたよ~」
「い、言ってねえ~よ!
俺はささっとサンバに行けって、
言ったんだ!」
「サンバってなんすか~」
「浅草のやつだよ!」
「浅草って何ですか~」
「知らねえよ!
お前がしっかり確認しないのが、
悪いんだろうが!
ほら!また客が来た」
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃいませ~!
お客様、何名ですか?
2名で。
おタバコは?
ではあちらの空いてる席へどうぞ!」
「高橋先輩~」
「だから、さっきから何だ!」
「どうしてうちの店は、
タッチパネルとネコロボット、
使わないんですかね~」
「店長、言ってたろ。
どっちも導入費用も維持費も高いって。
その分、うちらの時給が、
他店より500円高いの忘れたのか!」
「そうか~。
だからこのインカムも、
ボロボロで調子悪いのに、
買い替えないんだ~。
でも高橋先輩の声は大きいので、
インカムなくても聞こえますよ~」
「うるさいよ!
でもそれだけ、
この店は経営が厳しいんだ」
「でもバイトに500円多く払うなら、
タッチパネルとネコロボットの方が、
便利だし文句言わないから、
よくないですか~?」
「お前は失業したいのか?
それにお前は、
俺がいつも文句を言ってるって、
言いたいのか?!」
「だってこの前飲んだ時、
高橋先輩、店長の経営方法は、
クソだって言ってましたよ~」
「言ってない!
あ、あれは…あれだ…その…
店長の経営は…
空想だって言ったんだ…」
「クソも空想でも、
どっちもダメじゃないですか~。
まあ僕はどうでもいいですけど~。
でもロボットいいな~。
全部、やってくれるんでしょ~」
「ロボットはあくまでロボットなんだよ!
クレームはどうすんだ?!
ロボットにお客様は、
なだめられないだろ?」
「そうかな~」
「いや、お前よりはできる!
ロボットの方がまし!
でもロボットは俺ほどはできない。
ロボットには無理!」
ピンポーン!
「呼ばれた。
行ってくる」
「いってらっしゃ~い」
「ご注文、承ります」
「ビール…」
「おひとつで、よろしいですか?」
「アサヒにして」
「はい?」
「だからアサヒにして」
「すいませんお客様。
こちらの店舗では、
キリンしか取り扱っておりませんので、
そういったことは…」
「じゃあ、近所の酒屋から買ってきて」
「はあ?」
「俺はビールはアサヒなの?
知らないの?
俺は客だよ?
客が言ってんだから用意しろよ!」
「はあ~~?!」
一歩詰め寄るとテーブルのコップが倒れ、
中の水が客の方に流れ落ちた。
「おい!冷てえな!
何してくれてんだよ!」
「す、す、すいません。
今、拭くものを持ってきますので」
「おい!お前!
客の要望に逆ギレしたあげく、
客に水ぶっかけるのか!」
「いえ、いえ、そんなつもりでは…」
「はい、失礼しま~す。
どうなさいました~?」
「何だ、お前?」
「何やら大きな声がしたので。
おっと、お客様濡れてますね~。
その派手な色のズボンは、
そのままにしておくと、
色が下の肌着にまで色移りしますよ~。
早く交換して乾かさないと大変です~。
よろしかったら、
更衣室がございますので、
お着替え下さ~い。
ズボンは制服になりますが、
ご用意してますので~。
お帰りになるまで濡れた衣類は、
きっちり乾燥させますのでご安心を~」
「お、おぅ、そ、そうかい。
じゃあ…」
「あとお客様。
アサヒのビールについてですが、
こちらでご用意はできますが、
その場合は持ち込み料として、
別途料金を頂戴しますが、
それでも、よろしかったですか?」
「別料金?!」
「はい、500円ほど」
「500円!!
じゃ、じゃあいいよ、キリンで…」
「かしこまりました。
では、こちらへどうぞ~」
閉店後。
「お疲れ様でした~」
「お、お疲れ。
お前…」
「?」
「お前、上手くヘルプに入れたからって、
調子に乗んじゃねえぞ…」
「ん~?
何のことですか~?」
「あ、あれだよ…ビールの…」
「今日も二人共、お疲れだったね」
「店長」 「店長~」
「二人に話があってね。
あ~そのままで聞いて。
実は来月から、
ついに当店もタッチパネルと、
配膳ロボットを入れることにしたんだ」
「ええ~?!」
「そうなんすか~」
「そこで…言い難い話なんだけど、
うちもギリギリでやってるんでね…」
「店長!!
こいつは使えないです!
いつもダラダラ仕事してますし、
言われないと動かないんです!
さっきもお客さんのクレームに、
あたふたして俺がいなかったら、
どう~なってたことか!
なあ!」
「そうなの?」
「そうですよ、店長!
奴はまだ高校生ですし、
新人だから経験がぁ~浅いんだなぁ。
まだまだ他の店で、
経験を積んだ方がいいと思うんすよ」
「そうなの?」
「そうに決まってるじゃないですか!
俺はここで3年やってるベテランですよ!
奴とは経験値が違いますから!」
「う~ん。
じゃあ、取り敢えず高橋君はお疲れ様。
佐藤君は…
来月の休みの希望、教えてくれる?」
「ちょっと、待って下さいよ!
何で、コイツなんすか?!
俺はバイトリーダーっすよ!」
「高橋君」
「何すか?」
「うちのインカムはさ…
壊れてるじゃない」
「はい。
たまに聞こえないけど…何すか?」
「あれ壊れてるから…
常にON状態みたいなんだよね。
だからみんなの会話、
全部拾って部屋のスピーカーに、
入ってくるの」
「!!!」
「高橋君は優秀だよ。
でもちょっと他で、
経験を積んできた方がいいと、
私は思うんだ」
「……はぁ」
「時給はまた元に戻っちゃうけど、
また一緒にできるのを楽しみにしてるよ。
あっ、時給は500円安くなるんだった」
「クソォーーーーー!!」
お疲れ様でした。