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小説に近いもの

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書いたもののうち、小説だと思うもの
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2021年1月の記事一覧

くつ屋のペンキぬり-04(小説)

 さあさあ、太陽の近くこの町で新しい暮らしの幕開けです。  とは言いましても、このとおり…

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くつ屋のペンキぬり-03(小説)

 紹介された下宿は繁華街から少し北に外れて、ごつごつとした岩場の上にありました。高台にな…

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くつ屋のペンキぬり-02(小説)

 男は大きな街へ着くや否や、さっそくその足で屋根づくりの職人を訪ねました。家々の丸屋根に…

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くつ屋のペンキぬり-01(小説)

 ある男が、砂漠近くの暖かい国へやってきました。身にまとう衣服を少なく、少なくしながらや…

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白い女・黒い女-04(小説)

***  早央里の生まれた町はひどく寒くて雪深い土地だったから、昇降口で防寒ブーツを履い…

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白い女・黒い女-03(小説)

 今日子は見学に来たときとおんなじに白い頬を、ふっと持ち上げて首を傾げている。早央里はな…

白い女・黒い女-02(小説)

 今日子はさっきと反対側へ首をこてん、と倒して上目遣いに早央里を見つめてくる。なぜだか早央里は妙に――ぎくりとしたけれど、それがどうしてかを見つける前に今日子の目はストーブの火へと向いて、手をかざし続けることに切り替えたらしかった。二人きりは妙に気まずく、どうしていつもみたいに早く来ちゃったんだろう、この雪だもの、遅れても構わなかったのにと早央里は自分の習慣を恨んだ。  四月の中旬、今日子は入部したての女子生徒で、なんだったら一年生の半数はまだ所属先を決めかねていた。新学期が

白い女・黒い女-01(小説)

 カフェの向こうに真っ白い女を見つけたとき、早央里は濃いめのブラックコーヒーを啜っていた…

素面-11(小説)

 酒器を傾けた指に震えが走る。汗ばんだ手を気取られる前に拭う。いっそ取り落としたら、設え…

素面-10(小説)

 綾下と行くといつも飯が美味くて、と斉藤は笑う。  いつも、美味い飯と美味い酒を用意して…

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素面-09(小説)

 斉藤はアジフライが届くのを待っている。ジュワジュワと油の音の立つ調理場の方をちらりと見…

素面-08(小説)

 いつの間にやら刺身の盛り合わせは、きっちり一切れずつを残して斉藤の中へ消えている。自分…

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素面-07(小説)

 いいかげん潮時だろう、と一度は思ったのだ。  職場での綾下はチームひとつ任せられる年齢…

素面-06(小説)

 そこへ注文の熱燗とモツ煮が届く。朗らかな店主の声にほっとしてから、綾下は自分が緊張と苛立ちを感じていたのだと気が付いた。いいタイミングだ。店主夫婦のほかは斉藤の飛びつきそうな若い女性は働いていないから、どうかこの店には通えるようであってほしい。苦々しく思う綾下を知ってか知らずか――知っていたらこんな事態にはなっていないのだが、斉藤は小鉢を二つ受け取ってほくほくとしている。 「うお、美味そ」 (ああその顔はいいな)  そう、咄嗟に綾下は思った。思っているうち、斉藤が二つのお猪