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図書館司書が新成人の方へおすすめしがちな鉄板本3選

こんばんは、古河なつみです。
今日は色々な場所で成人式が行われていたようですね。
私が勤めていた図書館では「成人式を迎えた皆さんへ」と題しておすすめ本リストを作成して職員が配って回っていたのを思い出します。

そのおすすめ本リストを作成する時に職員全員から候補本を募っていたのですが、不思議な事に毎年必ず誰かが候補本として挙げる「鉄板本」が何冊かありました

職員の顔触れが変わった年でもまるで示し合わせたように複数の職員がおすすめとして挙げる本なので、既に読書家の方には「ベタすぎるよ!」と思われてしまうかもしれませんが、司書たちが新成人におすすめしがちな三冊をご紹介します。


『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン

田舎のおばあちゃまから語りかけられるような優しい文体が素敵な一冊です。海洋生物学者である彼女が環境保護についての考えを広めた『沈黙の春』も有名ですが、こちらの『センス・オブ・ワンダー』は自然の美しさを感じてみてほしい、という願いのこもったレイチェル・カーソンから未来のこどもたちへの「手紙」のような著作です。

ベストセラーなので同じタイトルで何度も出版されており、写真が掲載されているものや、専門家のエッセイが一緒に収録されているようなものなど様々な形態が存在しているため、リストを作成する時は「どの『センス・オブ・ワンダー』をおすすめする?」「ええと私がこどもの頃に読んだのはてのひらよりちょっと大きいくらいで……」というやり取りが発生しがちです。


『星の王子さま』サン=テグジュペリ

これほど多様な翻訳で読める児童書は珍しいでしょう。
そう言いながらも「これって本当に児童書の分類なのかな?」と思ってしまう味わい深い一冊です(実際に多くの図書館ではこども用と大人用とどちらも所蔵しているケースが多い本です)。

最初は岩波書店から内藤濯さんの訳で出版されましたが、今ではたくさんの翻訳者が『星の王子さま』を訳して出版しています。

この本をリストで紹介する時に「考えるきっかけをくれる」「哲学的な」と書こうとして「とっつきにくい印象を持たれてしまうのでしょうか……」と司書の先輩に相談したことがあります。

想いについての物語です、でいいんじゃないかなぁ」

――そうアドバイスをされて、すとんと腑に落ちたのを覚えています。
人を想うことについて、この本は確かに教えてくれます。

今頃あのバラはどうしているのだろう、お話の最後で星の王子さまは……切ない余韻の正体こそが、先輩の言ってくれた「想い」なのかもしれません。

もしも本屋さんでたくさんの『星の王子さま』が並んでいてどれがいいのか迷ったなら、最初の一ページを読み比べてみてください。
サン=テグジュペリの文章は一つきりのはずなのに、日本語版から見える景色の広がりに驚くと思います。[

『嫌われる勇気』岸見一郎/古賀 史健/ダイヤモンド社

2013年に出版されたにもかかわらず未だ絶版になっていないベストセラーの心理学の本です。心理学や自己啓発の本は流行り廃りが激しいにも関わらずこの版の重ね方はすごい!と司書的にも思った本です。

「賢者」と「青年」というキャラクターを設定して会話形式でアルフレッド・アドラーの心理学を紐解いています。

会話の言葉遣いも今風で、軽い読み物のような手軽さなのですが、大人の私が読むと「居心地の悪さ」を感じる内容です。

つまり人間関係で悩みがちな社会人の図星をざくざく突いてくる本です。

「そんな風に私だって生きてみたいけど……でも……」という葛藤を自然と生み出させてくる本なので、読む時は気合を入れてとりかかりましょう。
耳に痛い話がたくさん載っていますが、ためになるのは間違いない一冊です。

以上が司書が新成人の方におすすめしがちな鉄板本3選でした。
最後に私自身が司書になって初めて新成人の方にオススメした本を紹介します。

『海辺のカフカ』村上春樹/新潮社

大学生の内に読むことに意味がある小説だったなぁ、と思った一冊です(上下巻本なので二冊、でしょうか?)

村上春樹さんの長編作品で主人公が15歳の少年(こども)である、というのは珍しい設定だったと思います。そして、主人公が少年であってもこの小説は児童書には決して分類できないスリルや、「独り立ちをすること」について考えさせてくれます。

そんな『海辺のカフカ』を「こども」と「おとな」の狭間にいる新成人の方にぜひ読んでもらいたいのです。

実際に、私は二十歳の時に母からこの本をおすすめされて、この素敵な読書体験をしたことで「本にまつわる仕事に就きたい」という夢を持ちました。

社会人として役立つ実用本をご紹介するのも司書の役目だとは思いますが、読書をする楽しさ、すなわち「フィクションって楽しい!」という感覚を知ってもらいたいなぁと考えた時、この本が真っ先に浮かびました。

ここまでご覧いただきありがとうございました。
それではまたの夜に。

古河なつみ

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