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古賀史健

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古賀史健の note、2018年以降のぜんぶです。それ以前のものは、まとめ損ねました。
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2023年12月の記事一覧

エスカレーターに吹き抜けた風。

エスカレーターに吹き抜けた風。

渋谷駅のエスカレーターで、母親と女の子の二人組を見かけた。

これから買いものにでも行くのだろうか。母親はまっすぐに前を見ている。女の子は母親の黒いダウンコートのすそをひっぱり、はずむ声で話しかけている。女の子は言う。

ねえねえ、知ってる?

三学期ってねえ、あっという間に終わっちゃうんだよ。

もう、ぴゅーって終わっちゃうんだよ。

そしたら◯◯ちゃん(じぶんの名前)、すぐ四年生になるんだよ。

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それでも現実を動かしていこう。

それでも現実を動かしていこう。

思えば移り気な子どもだった。

大人から「将来の夢は?」と訊かれるたび、違うことを答えていた。漫画家になりたい。科学者になりたい。発明家になりたい。プロレスラーになりたい。総理大臣になりたい。宇宙飛行士になりたいと答えたことも、たぶんあった。小学校の卒業文集では、将来の夢として「ゲームプログラマー」の名を挙げていた。さすがはファミコン第一世代である。

いまにして思うとこれは、すべてが「身近にいな

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いま風邪を引いてる人たちへ。

いま風邪を引いてる人たちへ。

ものすごく当たり前のことを言いますよ。

誰だって、風邪を引くじゃないですか。あと、お腹を壊したりするじゃないですか。それで、風邪を引いたりしたら「きのう湯冷めしちゃったかなー」とか、「満員電車で伝染されちゃったかなー。やたら咳き込んでる人いたしなー」とか思うわけじゃないですか。あるいは「ここんとこ忙しくしてて、体力落ちちゃってるのかなー」とか。

でも、どうなんだろうなあ。たとえば明日、井上尚弥

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青空が冬の季語になるとき。

青空が冬の季語になるとき。

ビートルズに、「because」という曲がある。

直訳するなら「なぜならば」。歌詞の意を汲みゃ「そのせいで」。そんなの野暮だし英語の「because」。ほぼ中学英語の単語のみで歌われる、それはそれはシンプルにして荘厳な、後の『ジョンの魂』から『イマジン』期への萌芽とも言うべきジョン・レノンの手によるバラードである。

歌詞としては「地球がまわるそのせいで、ぼくはうっとりしてしまう」「風が強いその

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失言が飛び出す原因としての不安。

失言が飛び出す原因としての不安。

失言する政治家の気持ちが、少しだけわかる。

たとえばトークイベントに登壇する。雑誌の取材を受ける。ラジオの収録に参加する。あるいはセミナーみたいなやつの講師としてお呼ばれする。もう少し身近な例をあげるなら、披露宴で友人代表のスピーチを頼まれるとか、大勢の前でプレゼンテーションをするとかも、同じだ。

人前に立ってなにかをしゃべるとき、そこが荒れ果てた暴力教室でもないかぎり、基本的に人びとはだまっ

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ああ、あこがれのデイリーポータルZ。

ああ、あこがれのデイリーポータルZ。

ああ、おれはこれになりたかったんだよ。

当時そう思ったことを、よく憶えている。「当時」というのがいつかというと、たぶん2002年とか2003年だ。自分のプロバイダが niftyで、当時は仕事にもプライベートにも同じ niftyのアドレスを使っていた。それもあってよく覗いていた @niftyのポータルサイト内にある日、「デイリーポータルZ」なるサイト? を発見した。

ふざけていた。徹頭徹尾くだら

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これ以上ない休日のサングリア。

これ以上ない休日のサングリア。

もう10数年前の話になる。

妻とふたりでぶらぶらと、モントリオールの街を歩いていた。季節はたしか5月下旬。そしてモントリオールといえば当然、カナダ東部の都市だ。日本と違って肌寒いくらいなのかもな。なんて事前の予想とは裏腹に、Tシャツでも汗ばむほどの陽気だった。

陽にやられ、歩き疲れたぼくらは、適当なレストランに避難した。車道までずいずいと領土を拡張したオープンテラスのレストラン。平日だったはず

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知らないことと、知ってること。

知らないことと、知ってること。

鉄道ファン、いわゆるところの「鉄オタ」という人たちがいる。

オタクという名前が普及するはるか以前からその種の人々はいて、たとえばぼくが子どものころにも『銀河鉄道999』の影響もあってか、ブルートレインと呼ばれた寝台列車が大ブームとなっていた。わが家にはブルートレインで全国をめぐる、人生ゲームの鉄道版みたいなボードゲームもあり、友だちや親戚が集まったおりには、おおいに遊んでいたことを記憶している。

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遅読家の言い訳。

遅読家の言い訳。

本を読むのが遅い。

年齢を重ねるごとに、つまりは読書歴を重ねるごとに、その遅みに拍車がかかっている。そりゃあ、仕事として読む本は、ある程度の速度で読める。そうじゃないと仕事にならない。しかし、趣味とも仕事ともいえない範疇にあるふつうの本はもう、てきめんに遅い。いったい、なぜか。

一行一行、凝視しながら読んでいるわけではない。なんでもないパラグラフを読むスピードに関しては、ほかの方々と変わらない

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わたしもいろんな、そのひとり。

わたしもいろんな、そのひとり。

いろんな人がいるもんだなあ、と思わされるのが犬の散歩だ。

犬を連れて歩く夜道、はるか後方から歌声らしきものが近づいてくる。声の主はたいてい、自転車を漕いでいる。こちらへと近づくにつれ、それが歌だとわかる。熱唱、ではない。しかし自転車を漕いでいること、またもしかするとイヤホンを装着していることもあってか、鼻歌をはるかに上回る声量で歌っている。ノリノリのパンキッシュな歌であることは少なく、バラードで

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『嫌われる勇気』の刊行から10年が経ちました。

『嫌われる勇気』の刊行から10年が経ちました。

10年ひと昔、というけれど。

なるほど、ほんとに昔だ。『嫌われる勇気』の刊行から、きょうでちょうど10年が経った。刊行は12月だったけれど、40歳の誕生日を迎える直前の夏に書き上げた本だ。当時から日記をつけてればよかったなあ、と思う。あのときの自分がどんなことを考えていたのか、もはやほとんど憶えていない。

手応えはあった。ものすごくおもしろい本ができた、という実感はあった。もうこんな本は二度と

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NHKに見る、話しことばと書きことば。

NHKに見る、話しことばと書きことば。

新聞各社の電子版とは別に、NHKニュースの電子版を見ている。

公共放送ということもあってか、批判や攻撃のトーンが薄く、またみずからの主張を声高に訴えることもしない。よくも悪くもお行儀がよく、なるほどNHKだなあ、と思う。

けれどもまあ、ちょっと読んでもらえばわかるように、このニュースサイトが醸し出す「お行儀のよさ」は、NHKの報道姿勢によるものというよりもむしろ、文体の問題だったりする。放送局

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友だちをつくるのと仲間をつくるのはどちらがむずかしいか。

友だちをつくるのと仲間をつくるのはどちらがむずかしいか。

「おれたち、仲間だよな」「わたしたち、友だちだよね」

実際にだれかと言い合った記憶は乏しいものの、ドラマや小説やマンガなどでよくあるセリフだ。そしてなんとなく、これまでのぼくは友だちよりも絆のつよいものとして、仲間ということばを認識してきた気がする。だれかについて聞かれたときに「あいつは……友だちっていうより、仲間って感じですかね」みたいな。

しかし現実世界において、仲間をつくるのと友だちをつ

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インタビューはたのしい。

インタビューはたのしい。

今週は取材を受けることが続いた。

月曜日が福岡のラジオ、水曜日が硬派な月刊誌、本日がオウンドメディア。いずれも本に関する取材で、とてもありがたい。

本を出したり、映画が公開されたり、アルバムが発売されたりするとみな、プロモーションと称して各メディアからの取材を受ける。ふだんはあまりメディアに出てこない大御所でも、プロモーションとあらばインタビューに応じてくれる。ぼくもライターとして、新刊や新作

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