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青空が冬の季語になるとき。

ビートルズに、「because」という曲がある。

直訳するなら「なぜならば」。歌詞の意を汲みゃ「そのせいで」。そんなの野暮だし英語の「because」。ほぼ中学英語の単語のみで歌われる、それはそれはシンプルにして荘厳な、後の『ジョンの魂』から『イマジン』期への萌芽とも言うべきジョン・レノンの手によるバラードである。

歌詞としては「地球がまわるそのせいで、ぼくはうっとりしてしまう」「風が強いそのせいで、ぼくの意識も吹き飛んでしまう」とかなんとか、愛とドラッグの過剰摂取で感受性のリミッターがぶっ壊れた男(すなわちジョン)が全裸で駆け出た草原に立ちつくす、みたいな歌なんだけど、そのラストはこう締めくくられる。

Because the sky is blue, it makes me cry.

「空が青いそのせいで、ぼくは泣いてしまうんだ」というわけである。なんともきれいな歌詞だなあ、まるで和歌のようでもあるよなあ、とかむかしは思っていたんだけれども、最近になってふと気がついた。

ああ、これは冬の歌でもあるよなあと。

本日のオフィス前、昼の青空

冬の空は、空気が澄んでいる。色がうすく、マッチョの度がうすい。いかにもギラギラと青々しい夏の空とは、筋肉量が違う。その青さを見ているだけではらはらと泣けてしまう空があるとすれば、それは生命力のうすい冬の空だよなあ、と先日最寄り駅までの通勤路を歩きながら思った。そして季節が冬であることから逆算すると、冷たい風がごうごうと吹きすさぶなかに立ちつくして、その風の強さから地球の回転するさままで想起してうっとりする男(すなわちジョン)、みたいな絵まで見えてくるようで、さすがに寒いだろうから全裸じゃないな、なんて現実的なことまで考える。

「青い空」はなんの季語にもならないけれど、「空の青さに涙がこぼれた」となれば、それは冬の季語になる。そんな気がするのはぼくだけかしら。