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『嫌われる勇気』の刊行から10年が経ちました。

10年ひと昔、というけれど。

なるほど、ほんとに昔だ。『嫌われる勇気』の刊行から、きょうでちょうど10年が経った。刊行は12月だったけれど、40歳の誕生日を迎える直前の夏に書き上げた本だ。当時から日記をつけてればよかったなあ、と思う。あのときの自分がどんなことを考えていたのか、もはやほとんど憶えていない。

手応えはあった。ものすごくおもしろい本ができた、という実感はあった。もうこんな本は二度と書けない、くらいにまで思っていた。共著者の岸見一郎さん、担当編集者の柿内芳文氏、そしてダイヤモンド社の方々と「めざせ100万部!」みたいなことは言い合っていた。けれども100万部という数字を、どこまで具体的にイメージできていたかというとかなりあやふやで、ほとんど「めざせ大ヒット!」と同義のものとして、そう言っていただけのような気もする。

10周年記念のPOP

それがけっきょく100万部はおろか、世界累計1200万部突破だとか、年間ベストセラー10年連続トップ10入り(※)だとか、10年前には誰ひとりとして目標にすらできなかったような数字が並んでいる。いまではたくさんの書店に「アドラー心理学コーナー」ができているし、テレビドラマ化もされ、舞台化もされた。中国でも舞台化されたと聞く。このへんはもう、まったくもって想定外の現象だ。

(※トーハン調べ ビジネス書部門)

そしてぼく自身にも、思わぬ変化があった。人前に出るときにはほとんどかならず「嫌われる勇気の古賀さんです」と紹介されるようになり、よほどのこと(悪事を含めて)がないかぎり、生涯を通じてぼくは「嫌われる勇気の古賀さん」として生きていくのだと思う。

とはいえぼくの目は前を向いていて、10周年の本日をひとつの区切りに、この本について noteに書くことは当分なくなると思う(いや、なんかビッグなニュースがあれば書くだろうけど)。そしてそのぶん、きょうは普段あまり書かないことを書いてみたい。


この本が売れはじめたころ、とある新興メディアさんから「売れる本のつくりかた」みたいなテーマでの取材依頼が入った。さまざまなヒットメーカーを招いて、ヒットのコツを語ってもらうシリーズ企画です、みたいな説明を受けたように記憶している。

いろいろと考えた結果、お断りした。単純に「そんなのわからねえよ」でもあるし、過去に売れた本を振り返って考えても、とても再現可能な法則があるようには思えなかったからだ。

ただ、ものすごく当たり前な、そりゃそうだろ、と言える法則はある。

本とは基本的に、ひとりの場所から出発するものだ。編集者さんからの依頼があって動き出した企画でも、はじまりはふたり。そして書くのは、やはりひとりだ。書き手の個人的能力が問われる「自力」の仕事といえる。しかし、100万部単位の本が「自力=たったひとりの力」で生まれるなど、あるはずがない。

たとえば『嫌われる勇気』には、岸見一郎さんという共著者がいた。柿内芳文氏というスーパーな編集者がついて、しつこく、たくさんのリクエストを投げてくれた。吉岡秀典さんが一度見たら忘れない装幀に仕上げてくれた。2013年というあのタイミングで世に出すことができた。さまざまな経緯があってダイヤモンド社さんという出版社から刊行することができた(じつを言うと当初は、別の版元さんで進行していた企画だった)。初版時の帯に、伊坂幸太郎さんが推薦文を寄せてくださった。書店員のみなさんが、かなり早い段階から応援してくださった。読者の方々が、まわりの人たちにたくさん勧めてくださった。その他もろもろ、「運」とか「偶然」としか言いようのない他力が重なりあって、この本はここまできた。

書き手の「自力」で動いているうちはベストセラーなんて生まれるはずもない。「他力」の割合が大きくなればなるほど、その本・商品は大きく育っていくのだ。逆にいうと、なんでもひとりで決めようとする誤った完璧主義よりも、さまざまの「他力」を呼び寄せ、他力の海に身を投げる自分であることがたぶん、大切なのだ。


続編が出たこともあって最近、『窓ぎわのトットちゃん』を読みかえしている。ぼくが小学生のときに刊行された、戦後最大のベストセラーだ。忘れていたエピソードもたくさんあったけれど、いま読んでもじゅうぶんにおもしろいし、いまの時代にこそ読まれてほしいし、実際に読まれている。もはやブックオフでさえ目にすることのむずかしい数多の「元ベストセラー」や「元ミリオンセラー」とは大違いの、ほんとうのロングセラーだ。

トットちゃんみたいに、とは言わないけれど、『嫌われる勇気』もこれからずっと読まれ続ける(本屋さんに置かれ続ける)、ほんとうのロングセラーになってほしい。できればぼくよりも長生きしてほしい。

この10年のあいだにぼくや『嫌われる勇気』に出会ってくれたみなさん、ほんとうにどうもありがとうございます。この本は、たくさんの人に出会わせてくれた本でもあるんですよね。

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