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古賀史健

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古賀史健の note、2018年以降のぜんぶです。それ以前のものは、まとめ損ねました。
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2021年12月の記事一覧

大掃除にかこつけた、今年の振り返り。

大掃除にかこつけた、今年の振り返り。

掃いて除く、と書いて「掃除」と読む。

この字面のおかげで日本語の掃除には、どうも「そこをきれいにする行為」との印象がつきまとう。箒でゴミを掃き、雑巾で床を磨き、散らかった品々を整理整頓する。それが掃除にまつわるパブリックなイメージだ。けれどもぼくが如き堕落しきった人間にとっての掃除とは、ただただ「処分」だ。いらぬ荷物を処分する。いらぬ箱や書類やレシートその他を、ひたすらに捨てまくる。それこそが掃

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大人の世界と子どもの世界。

大人の世界と子どもの世界。

ほんとうは、クリスマスの話を書こうと思っていた。

幼き日のわが家ではクリスマスを祝うという習慣がほとんどなく、おかげで自分はサンタクロースという白髭の老人について、その存在を信じたことが一度もなかった。自分にとってのサンタクロースは、白雪姫やシンデレラのごとくに「西洋のむかし話の人」であった。サンタクロースを信じる環境に生まれるであろう最近の子どもたちが、けっこう羨ましい。

そういう話を書こう

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ブランドが売っているもの、売るべきもの。

ブランドが売っているもの、売るべきもの。

あやふやな記憶をもとに書くので、細部は間違っているかもしれない。

当時の史上最年少記録でもある24歳にして芥川賞を受賞した村上龍さんは、『限りなく透明に近いブルー』でデビューするまで、ネクタイを締めたことさえなかったという。しかし社会的な事件でもあった芥川賞受賞によって、メディアからの取材が殺到する。授賞式をはじめ、パーティー的な場に参加する機会も増える。そこで彼は(たしか芥川賞の賞金で)アルマ

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こんな書評を書いていた。

こんな書評を書いていた。

そういや、こんなの書いてたんだっけ。

10年ほど前、増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の書評を書いていたことを思い出した。格闘技ファンにしか伝わらない用語だらけの文章ではあるものの、自分で懐かしく読み返した。あの本、もう一度読んでみようかな、とさえ思った。ここに再録する。

叛史の評伝
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』

小学生のころ、折からのプロレスブームもあってか、

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守ることと、はみ出すこと。

守ることと、はみ出すこと。

そういえば最近、iPad mini を買った。

ずっと使っていた Kindle Oasis の調子があまりにおかしくなり、ぜいたくな話だとは思いつつ、読書専用端末として購入してみることにしたのだ。そもそもたくさんの漫画を購入・保存するのに Kindle シリーズは、容量が少なすぎる。これも iPad mini への乗り換えに踏み切った理由のひとつである。

小学生のころ、ぼくは漫画家になりたいと

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他人と変わったところのない、ごくごく普通の人間。

他人と変わったところのない、ごくごく普通の人間。

ドストエフスキーに『白痴』という長編がある。

主人公は、ムイシュキン公爵。題名の「白痴」は、彼のことを指す。いまの日本語で白痴は差別的なニュアンスを含む言葉だけれども、作中のムイシュキン公爵は、白痴というよりむしろ「天然」の語が似つかわしい青年だ。

底抜けに善良でありながら、空気を読むことを知らず、それゆえいくつもの失言を重ね、周囲から「おばかさん」扱いされようと、まるで気に留めようとしないム

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今年読んでおもしろかった本10冊。

今年読んでおもしろかった本10冊。

そうか、もうそういう振り返りをする時期なのか。

ツイッターを見ていたら、今年読んでおもしろかった本を挙げている方々がたくさんいたので、ぼくもそれに習うことにしよう。思いつくままに、ひとまず10冊を。

『身分帳』(佐木隆三)

今年公開された西川美和監督作『すばらしき世界』の原作。本としてのおもしろさもあるのだけど、それ以上に西川美和さんがこの原作に出合い、惚れ込み、これを映画化したいと思って、

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掃除の鬼神におれはなる。

掃除の鬼神におれはなる。

そろそろオフィスの大掃除が必要だ。

仕事が落ち着いたらやろう、なんて思っているうちに12月も後半に突入してしまった。仕事が落ち着くことなんてないのだし、本や書類の山に埋もれて仕事をするよりは、ズバッとバサッと大きな掃除に取りかかるべきなのだ。

若かりし日のぼくは、二年に一度、引越をしていた。賃貸契約の更新日が迫るごとに、次の家へと引越していた。大抵は引越日前日まで仕事に追われ、当日になってあわ

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見つけた自分のうれしさを。

見つけた自分のうれしさを。

さまざまの本を読んでいると、「見つけたっ!」と思う瞬間がある。

本そのものを見つけたのではなく、その書き手のことを「見つけたっ!」と思うのだ。「こんな人がいたんだ」「ああ、なんかおれ、この人のこと大好きだぞ」「これは絶対にほかの本も追いかけなきゃ」「だって、この人の書いた本なら、おもしろいに決まってるもの」。そんなふうにひとり興奮し、その場で過去作を買いあさる。

もちろんこれは「見つけた」わけ

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たどり着いた普通。

たどり着いた普通。

どうしてもクリックしてしまう種類の記事がある。

犬記事だ。ニュースサイトにあふれる犬関連の記事だ。しかも「かわいいワンちゃんご紹介」みたいなほのぼの記事ではなく、「犬のブラッシングでやってはいけないNG行為3選」とか「犬に食べさせてはいけない野菜4選」みたいなタイプの記事である。

犬のことは本来、犬に訊かなければわからない。けれども犬は人間の言葉をしゃべってくれず、人間もまた犬の言葉を理解する

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8年間は長い。

8年間は長い。

2013年、それはぼくにとって30代最後の年だった。

もうすぐ40歳になる。いま振り返ればどうでもいい区切りに思えるけれど、当時の自分にはおおきな数字だった。なんだか焦っていた。23歳でライターになり、もう15年が経つ。紆余曲折のあいだにすてきな仕事仲間(編集者)にも恵まれ、いい仕事ができている実感もあった。けれども自分にはまだ、「旗」がない。古賀史健といえばこれ、と言われるようなわかりやすい旗

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ソウルフードの条件。

ソウルフードの条件。

あやふやな記憶で申し訳ない。

ソフトバンクに買収される以前、ダイエーが親会社だった時代の福岡ダイエーホークスの話である。リーグ優勝のかかった試合、もしくは日本一のかかった日本シリーズ最終戦。その日の試合は、地元・福岡ドームで開催された。そして当時ホークスの中心選手だったJさんは、自宅を出るとき奥さんからこんなふうに送り出されたのだという。

「きょうはぜったい勝ってきてよ。もし、負けて帰るような

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犬のいる暮らし。

犬のいる暮らし。

ひさしぶりに在宅で仕事をしている。

家にいて驚くのは、犬の睡眠時間だ。ごはんや宅配便の来訪時以外のほとんどを、惰眠に費やしている。朝食後に「あら、寝ちゃったか」がはじまり、昼過ぎまで「まだ寝る?」の驚きがあり、水飲みやトイレをすませたあとの「また寝る?」の呆れに至る。

週末、犬を連れて朝から遠出したりすると、帰宅後は揺さぶっても起きないくらいにぐうぐう眠るのだけど、あれは遊び疲れた姿などではま

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アルバイトの記憶から。

アルバイトの記憶から。

やたらと額縁の多いお宅だった。

学生時代、引越のアルバイトをしていたときのことである。ご自宅に伺うと新聞紙にくるまれた大小さまざまな額縁が、軽く見積もっても20個以上は並んでいた。引越先は、福岡市内の高級マンション。対応してくださった住人さんは、50〜60代くらいの女性ひとり。重たい家具も、ガラス製のテーブルがあるくらいで、こりゃあラクな引越だと喜んでいた。

引越先に到着して荷物を運び入れると

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