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ソウルフードの条件。

あやふやな記憶で申し訳ない。

ソフトバンクに買収される以前、ダイエーが親会社だった時代の福岡ダイエーホークスの話である。リーグ優勝のかかった試合、もしくは日本一のかかった日本シリーズ最終戦。その日の試合は、地元・福岡ドームで開催された。そして当時ホークスの中心選手だったJさんは、自宅を出るとき奥さんからこんなふうに送り出されたのだという。

「きょうはぜったい勝ってきてよ。もし、負けて帰るようなことがあったら晩ごはんつくらんけんね。そんときはリンガーハットでも食べとき!」

ぼくはもう、このエピソードがたまらなく好きなのだ。別に「負けて帰ったら晩メシ抜き」がおもしろいのではない。大舞台を前に緊張する夫に、あえてプレッシャーをかけていく姿がおもしろいのとも違う。やっぱり最後のひと言、「そんときはリンガーハットでも食べとき!」が好きなのだ。

たとえばこれが「ラーメン」だったらおもしろくない。「牛丼」でもつまらない。「リンガーハット」という固有名詞であること、そしてリンガーハットが北部九州民のあいだで「手軽な晩ごはん」として愛されていること、さらには自分も福岡に住んでいた当時、そのようにリンガーハットを利用していたことなどのすべてを含めて、いかにも福岡ならではの実話であることが伝わり、おもしろいのである。

そして本日、以下のツイートというか漫画に出合った。

リンガーハットと同じく、福岡県民のソウルフードと呼ぶにふさわしい「牧のうどん」に関する漫画である。

それで思ったんだけど、たとえば福岡県民にとっての「博多ラーメン」は、ほんとうのソウルフードではないのだ。だって、ひとくちに博多ラーメンと言っても、元祖長浜屋と、一蘭と、一風堂と、丸星ラーメンと、大砲ラーメンとでは、それぞれに味もサービスもまったく違う。

じゃあソウルフードをつくるものはなにかと言えば、「地元のチェーン店」なのである。県内に一軒だけしかないような「名店」ではなく、ロードサイドのどこにでもあるようなチェーン店。どの店でもだいたい同じ味を提供してくれるチェーン店。しかし、他県ではほとんど見かけないチェーン店。

そういう、地元に住んでるときにはまったくありがたみを感じないけれど、他県に引っ越すと途端に「あの味」を懐かしんでしまうもの。それがソウルフードの条件ではないだろうか。

たとえば東京から高い飛行機代を払って帰省して、わざわざ「牧のうどん」を食べに行くのは、あまりにも馬鹿馬鹿しい。福岡に住んでいた当時の自分なら、指をさして笑いかねない。でも、食べたい。東京の人におすすめするような絶品グルメじゃ全然ないけど、おれは食べに行きたい。

福岡の人なら、牧のうどん。北九州の人なら、資さんうどん。

そういうチェーン店こそが、福岡県民のソウルフードじゃないのかなー。