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ものかきのおかしみと哀しみ

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すれ違った人たち
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#日記

白く失った日

白く失った日

すごく珍しく、こんなことnoteに書いてもな……な気分になっている。いろいろやられすぎるとものかきもこうなるんだな。

けどまあ、べつに読まれなくても自分のために書く。

朝がいきなり引き裂かれた。いや、ほんとにリアルに。

ミシミシ…パリカリ……ズ…ダーーーーン!! あまり心臓に良くない音で外から強制目覚ましが響いたのは朝の5:30過ぎ。ほんのり明るくなったころだ。

大雪って言ってますね。でも

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倒錯する大根の見る夢は

倒錯する大根の見る夢は

もし、いろんな「問い」が並んでるスーパーマーケットがあったら迷わず僕は入る。

もちろん、商品も陳列されているんだけど、そのスーパーでは商品の横に「問い」が一緒に並んでいるのだ。

『人生にチョコレートが必要な理由』だとか『倒錯する大根の見る夢はモノクロームである』『ダンテと鰻』とか。

これはPOPのようなものと言えるのかもしれないけど、商品の売り文句は何も書かれていない。ある種のテーゼというか

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《年賀状》言葉は誰のためにあるのか

《年賀状》言葉は誰のためにあるのか

毎年、関係者に送っている年賀状。
ことしはnoteにも載せてみます。深い意味はないんだけど。

活版印刷がいろんな意味で好きなんですよ。
職人さんの「気持ち」で刷ってるところとか、活版独特のマージナルゾーンの味わいとか。

あと、うちは「言葉」を商売にしてるので、すごく文字の圧が全面に出たデザイン。
それをちょうどいい感じに収めてもらえるのが活版印刷。

で、ふみぐら社の年賀状は昔なが

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写真徒然 2018.12.30

写真徒然 2018.12.30

お墓の空は広い。12月は余計に広く感じる。
もちろんお墓のそうじ、お参りという目的があるのだけれど
半分は広い空の下に佇むため。

いまはもういない人のことを考えていると、
その人の何でもない言葉が
空からの便りのように、僕のポストに届く。

僕は、返信をこころの中でしたため枯葉の切手を貼る。

鳩のための入試問題

鳩のための入試問題

『公園内のハトはご自分でお持ち帰りください。』

公園の出口に立てられた看板の前で思わず鳩と目が合う。

「持って帰られちゃうんですか僕?」 鳩が言う。

困ったね。僕は答える。僕も鳩を持ち帰ったってしかたない。
だけど、と僕は言う。
何か言おうとした僕を、鳩が咽を鳴らしながら遮る。

そんなことより、これ手伝ってもらえませんか? 鳩が言う。
鳩の首には、鳩のための入試問題集。

お前、受験なの?

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写真徒然 2018.12.23

写真徒然 2018.12.23

※日曜日はさらに僕のnoteの前を行き交う人も少なくなるので
1枚の写真と語る日

冬の公園が好きだ。誰もいない公園。光と北風だけの祝祭。

プロでもうれしいこと

プロでもうれしいこと

ずっと仕事の原稿に埋もれてると息してない気がしてくる。

書籍の場合7万字とか10万字のテキストを掘り起こすように書く。なんていうか一人でヘッドランプを頼りにほの暗い坑道に入り、テキストの鉱山の奥深くに潜って、鉱脈を見つけてはコツコツと掘っていく感じ。

そうして採掘されたテキストをトロッコに積んで運び出し、構成して編集して本になり誰かの心の火を灯すことだけを考えて黙々と書く。

それなりに長くこ

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フライパンで靴が焼ける

フライパンで靴が焼ける

謎の一言メモが発掘された。

年末になるとそういった事案が多発する。本人も意味がわからない。本当に自分が書いたメモなのか疑惑すら湧く。

《フライパンで靴が焼ける》

そりゃ、フライパンで靴を焼こうと思えば焼けるだろう。良い子はまねしないほうがいいけど。いや、そういうことじゃないのか。

いくらなんでもフライパンで靴を焼いたりはしないし、その必要性もメリットもない。だとしたら何かのメタファーとして

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朝に光る歯

朝に光る歯

歯のピーク、早くね?
だよね、おかしいよね。

朝の電車の中で、高校生の女の子たちが歯を磨きながら話している。
ちりちりした朝の光が、白い歯にも反射してきれいだなと僕は思う。

だけど歯に何のピークがあるのだろう。盛り上がってるってことなのか。今日、歯のノリ悪くてさぁ、とか言うのだろうか。

いや、違う。歯の年齢のことかもしれない。

たしかに、歯だって身体のパーツのひとつなのだから、お肌なんかと

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昼間のコンビニでビールだけ買うタスクの向こう側にあるもの

昼間のコンビニでビールだけ買うタスクの向こう側にあるもの

餃子にはビールでしょ。

たとえ、おっさんと言われようとそこは譲れないポイントなんです。これは妻も同じ。

「きょう餃子にする」

妻が宣言して朝から仕込んでました。うちの餃子は東京餃子通信謹製レシピ。どうつくっても美味しくしかならないので気に入ってます。

あ、でも、ビールないや。ストックが切れてる。ビールなしの餃子はちょっと考えられない。いや、そんなふたりとも酒豪ではないんですけどなんでだろう

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12人の運転士たち

12人の運転士たち

駅のホームで新幹線を待っていると自動案内放送が流れた。

「はくたか315号が12人編成で参ります」

空耳かと思ったてたら今度は駅員さんの声で「今度の1番線 12人編成です」と念押しするようにアナウンスがあった。

そうか12人編成なのか。ホームに列車が滑り込んでくる。たしかに新幹線だけど電車ではなく、人が12人で連なって手を繋いでいた。

時速250kmぐらいで走ってきたのだろう。みんな息があ

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盗む人

盗む人

「わたし、盗むの得意なんです」

ひと通りの打ち合わせが終わったあとで、担当者が不意に口走った。これ以上、とくに確認すべきこともすり合わせることもない。どのタイミングで席を立とうかを考える、あの漠然とした時間。

僕がこの世で4番目に苦手な時間なのだけれど、担当者の女性がそんなことを言うものだから席を立つに立てなくなった。

独り言にしては断定口調だし、ネタ的な軽口を言う場面でもそんな関係性でもな

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愛しさとせつなさと猫の言葉と

愛しさとせつなさと猫の言葉と

土曜日はほとんど誰も通らない日なので、戯言を。

ここ何日か、ものすごく圧の高い(いい意味で)言葉にいろんなところで触れて、討たれてる。

共通してるのは、みんな「自分の言葉」なのだ。強い言葉も優しい言葉も。尖った言葉も柔らかい言葉も、すごいスピードで去っていく言葉も、まどろむような言葉もすべて。

そういう言葉に触れると、ちゃんとその人がそこにいるのを感じる。そして誤解を恐れずに言えば、それがど

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孤独と一緒に生きていてよかったと思えた日

孤独と一緒に生きていてよかったと思えた日

通りすがりの誰かの言葉に立ちすくむことがある。ほとんどの場合は、一瞬ハッとして世界がどこかに飛んで、でも、すぐまた元いた自分の視界に戻っていく。まるで閃光を受けたあとのように。

だけど、今回はそうではなかった。立ちすくみ、本当にしばらく動けなかった。仕事の原稿があるのに、それより大事なことが「いまここ」にあるような気がしてずっと考え続けることになったのだ。

その「言葉」の持ち主は、わざわざの平

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